メニュー 閉じる メニュー
国際

国際

76億人の海図

東西の冷戦終結から2019年で30年。国連によれば、76億を超える人々が地球上に暮らす。テロや自国優先主義の拡大、そして地球環境問題の深刻化・・・。国際秩序が大きく揺らぎ、世界が不安定化する中、自らのよりどころとなるものを求めて行動を始めた人々がいる。新たな海図を描こうと試みる姿を世界各地に追った。

生きる幸せに感謝 弱者支える博愛精神 フランス

2019.9.24 19:17 共同通信

 きらびやかな高級ブランドの店舗が立ち並ぶパリ・シャンゼリゼ通り。買い物袋を手に行き交う人が華やいで見える。
 だが目を凝らせば、雑踏に同化する物乞いの姿も。週末は過激なデモの舞台にもなる。その対照は、この国が抱える最大の社会問題、高失業率と貧富の差をさらけ出す。
 高齢者が多いパリ15区のスーパーマーケット。オレンジ色のベストを着た十数人のボランティアがレジ先で買い物客を待ち受ける。
 「これ全部どうぞ」。支払いを終えた老婦人が声を掛けた。缶詰、パスタ、お菓子もある。自らの買い物袋の中身より多い。「できるだけ置いていくようにしてるの。当たり前よ、いつもらう側になるか知れないもの」
 生活困窮者に食料支援するフードバンクで国内最大の「バンク・アリマンテール」が11月末から一斉に行う「コレクト活動」。フランスの初冬の風物詩にもなっている。寄付された食品は「アソシアシオン」と呼ぶ非営利慈善団体を通して必要な人に無償で配られる。

ボランティア活動をするホームレスのウェダ・ジュスタン(右)。スーパーマーケットのレジ先で食品の寄付を受け取る=2018年11月、パリ(共同)
ボランティア活動をするホームレスのウェダ・ジュスタン(右)。スーパーマーケットのレジ先で食品の寄付を受け取る=2018年11月、パリ(共同)

 ▽恩返し
 「メルシー・ボクー!(どうもありがとう)」。ボランティアの一人、ウェダ・ジュスタン(32)の屈託ない笑顔が寄付する人の笑みも誘う。市内の公共施設の軒先で寝起きするホームレス。普段は配給を受ける側だ。
 西アフリカの旧フランス領ブルキナファソ出身。9年前、イタリアに留学したが、待っていたのは執拗な差別だった。1年で心身を病み、失意の帰国を余儀なくされた。
 でも貧しい小国に将来を見いだせない。復調するとまた海を渡った。「コミュニケーションさえ取れればイタリアの二の舞いはない」。言葉が通じる旧宗主国を選んだ。
 しかし現実は甘くなかった。ビザが切れて学問は諦めた。失業率が欧州連合(EU)平均を超える国で移民は定職に就きにくい。慈善団体が紹介する日雇いで食いつなぐ日々。50~300ユーロの不安定な月収で部屋を借りるのは夢のまた夢だ。
 「でも幸せなことに生きていける。フランス人の温かさに感謝さ。少しでも恩返しがしたいんだ」とジュスタン。仕事にありつけない日はベストに腕を通す。

 ▽ノウハウ
 アリマンテールの食料は200万人に行き渡る。寄付は食品会社や生産者からも受け、EUの支援もある。運営の要は1万3千人のボランティアだ。年間3億5千万ユーロ分の食料を配るが、支出はその1割以下に抑える。
 「私たちには寄付を集め、ボランティアを有効に使うノウハウがある。本来は国がやるべき仕事だが、そんな経営感覚はないだろうね」。会長のジャック・ベレ(67)はそう指摘し、フードバンクの意義を強調した。
 フードバンクと受給者をつなぐアソシアシオンの活動はさまざまだ。
 フランス第2の都市リヨンの夜、底冷えのする裏路地に若者が集まってきた。路上生活者に食料などを配る活動「マロウド」は木曜が定例日だ。
 サンドイッチ、バナナ、温かいコーヒー、冬物衣類…。寄付や参加者が持ち寄ったものを駅や公園、郊外のバラックなどを巡回して手渡す。
 隠れている人を見逃さない。目線を低く合わせて渡す。何をしてほしいかよく聞く。出動前のミーティングで確認するのは「いたわりの心」だ。
 「マダム! 元気かい」。バス停にたたずむ顔なじみの老婦人にリーダーのリョネル・レオヌ(34)が駆け寄りキスし、湯気の立つカップと厚手の真っ赤なスカートを手渡した。「これはダメ。派手過ぎるわ」。スカートを広げておどけるしぐさが、人けのうせた夜の街に笑い声を響かせた。

木曜の夜、「マロウド」活動の青年(右)が持ち込んだ冬物衣料を品定めする路上生活者の男性=2018年11月、フランス・リヨン(共同)
木曜の夜、「マロウド」活動の青年(右)が持ち込んだ冬物衣料を品定めする路上生活者の男性=2018年11月、フランス・リヨン(共同)

 ▽理想と現実
 国内に2千カ所以上の活動拠点を持つ「レスト・ド・クール(心のレストラン)」。リヨン郊外のサンプリエスト配給センターは人であふれていた。来訪者がボランティアの付き添いでパン、野菜、フルーツ、乳製品などのブースを巡って手提げ袋に入れていく。
 世帯の収入や家族構成などによってもらう量が品目ごとに決まり、データ登録されている。ミルクや玩具なども置き、子育て相談にも応じる。
 「心のレストラン」は1985年、貧しい人に無償で温かい食事を提供しようと有名喜劇俳優が始めた。ひと冬だけのつもりだったが、社会情勢が許さず、就業支援など多角的にサービスを拡大しながら今に至る。
 同センターがあるローヌ県統括のベルトラン・マニョンプージョ(70)は言う。「理想は、貧困がなくなってわれわれが必要なくなることだ。しかし現実には配給を待つ人は増えている」と。
 フランス国旗の三つの色は「自由」「平等」「博愛」を示す。だが、不自由で不平等な社会的弱者は多い。揺らぐ国是を博愛精神が支えている。(敬称略、文・佐久間護、写真・沢田博之)

取材後記

構造的な病理

フランス
 

 「マクロン辞めろ!」と大声で連呼する方角から数人の若者が血相を変えて路地を逃走してくる。街のあちこちに催涙銃を携えた警官がいた。
 燃料税増税に端を発した毎週土曜の抗議デモ、黄色いベスト運動はフランス全土に広がっていた。緊縮政策や大企業優遇による国民生活の窮乏が、大衆を突き動かしたとされる。紛れ込んだ暴徒が放火や略奪を繰り返し、死者も出た。
 昨年9月、支持率が低迷するマクロン大統領は、義務教育の延長など4年間で80億ユーロに上る大盤振る舞いの貧困対策を表明した。それなのに2カ月後、デモは始まった。
 格差や貧困は、新自由主義的国家にはびこる構造的な病理だ。弥縫(びほう)策では持たない。日本や米国もしかり。通底するのは、世知辛い国民負担にあえぐ庶民の姿である。

 

 

最新記事

関連記事 一覧へ