メニュー 閉じる メニュー
国際

国際

76億人の海図

東西の冷戦終結から2019年で30年。国連によれば、76億を超える人々が地球上に暮らす。テロや自国優先主義の拡大、そして地球環境問題の深刻化・・・。国際秩序が大きく揺らぎ、世界が不安定化する中、自らのよりどころとなるものを求めて行動を始めた人々がいる。新たな海図を描こうと試みる姿を世界各地に追った。

女性活躍は男が支える  キウイ・ハズバンドの国  ニュージーランド

2019.9.20 17:08 共同通信

 南半球の11月、初夏の日差しが柔らかい。腕に抱えたわが子が目を覚まさないよう、長身をリズミカルに揺らして現れたのはピーター・ナンズ(33)。父になって3カ月。グレーの小花模様のシャツ姿が若々しい。 
 「あら、ヨアキンは起きちゃったのね」。しま柄のワンピース姿の妻が、ひと仕事を終え、慌ただしく入ってきた。張りのある明るい声だ。
 ニュージーランドのどこにでもいそうなカップルだが、ここは首都ウェリントンの国会議事堂そばの議員事務所。妻のジュリーアン・ジェンター(39)は女性政策を担う女性相だ。2018年8月、男児ヨアキンを出産。女性首相のジャシンダ・アーダン(39)の6週間の産休の後を追うように、3カ月の産休をとり、2日前に公務に戻ったばかりだ。
 夫ナンズは同国オークランドの交通政策企画会社に勤務。離れ離れの生活だったが、忙しい妻に代わり育児と家事を担うため、首都に転勤してきた。一緒になった頃から料理、皿洗い、掃除は分担。19年前半は育休を取得し、その後は息子のため、在宅勤務に移る。「勤務先には育児を理由にテレワークをする男性はほかにもいる。普通のことだよ」

息子ヨアキンをあやす夫ピーター・ナンズを見つめるニュージーランド女性相のジュリーアン・ジェンター。ナンズとアーダン首相の夫は、同じ託児所に子供を預ける「パパ友」になる可能性も=2018年11月、ウェリントンの議員事務所(共同)
息子ヨアキンをあやす夫ピーター・ナンズを見つめるニュージーランド女性相のジュリーアン・ジェンター。ナンズとアーダン首相の夫は、同じ託児所に子供を預ける「パパ友」になる可能性も=2018年11月、ウェリントンの議員事務所(共同)

 ▽トップ3は女性
 同国は1893年、国政レベルで世界初の女性参政権を実現した。2018年は125周年に当たり、各地で記念イベントが開かれた。今や、女性首相は3人目。総督、首相、国会議長、最高裁長官の「トップ4」のうち、議長以外の3人が女性だ。女性議員は4割、女性閣僚は約3分の1を占める。国際機関による男女平等実現度は149カ国中7位(18年版)。
 「たしかに男女平等の目標を遂げつつあるけれど、課題もあるのよ。賃金格差は残っているし、民間企業幹部職の女性割合は高くない」「無給の家事を男女で分担する国の方が、女性の社会参加は進みやすいと思う」。息子に授乳しながら、ジェンターが力説した。
 「首相も閣議をしながら授乳することもある。男性の同僚は協力的よ。政策決定も母親業もどちらも大切だって分かってくれている」。分刻みに動くジェンターから息子を受け取ると、ナンズは手慣れた様子でおしめを替え、仮住まい中の上階の議員宿舎へ戻って行った。
 同国では、女性が社会で活躍することを全面的に支援し、家事や育児を率先してやる男性が多い。メスが産んだ卵をオスが温めて孵化(ふか)させる国鳥のキウイにちなんで「キウイ・ハズバンド」と呼ばれる。専門家は「英国から移住した新天地で、男も女もなくゼロから国造りに励む必要があった」と歴史的背景を語る。

長女ニーブちゃんを抱く笑顔のアーダン首相(後列中央)を囲んで記念撮影に臨む女性議員たち。世界初の女性参政権獲得から125周年を記念し、ニュージーランド国会で集った=2018年9月(AP=共同) 
長女ニーブちゃんを抱く笑顔のアーダン首相(後列中央)を囲んで記念撮影に臨む女性議員たち。世界初の女性参政権獲得から125周年を記念し、ニュージーランド国会で集った=2018年9月(AP=共同) 

 ▽議会を人間的に
 トップ4で唯一の男性、トレバー・マラード国会議長(65)も「家族に優しい」議会づくりに奮闘する。20年以上前から議員が乳幼児連れで議場入りすることはあったが、17年に初めて規則で明文化。授乳も認められている。付き添いも使える、ベビーベッドを備えた「家族室」を議会内につくった。敷地内に遊び場も建設中だ。託児所は以前から隣接地にある。
 「当然、父親議員も利用してほしい。議会を人間らしい場所にしたい。それは議事内容にも反映される」。議長の信念は「小国だから、人材の半分である女性の能力を無駄にはできない。出生率を保つためにも、女性へのサポートは極めて大事だ」と明快だ。
 自身が議長席で女性議員の子どもを抱いた姿はニュースになった。「一種の作戦だ。国会は率先しないと」。女性議員の増加で、国会では歩み寄りや分別のある議論が増え、攻撃的な物言いが減ったと感じるという。

 ▽見えるモデル
 「あなた、乳母車を押してゴルフをしていたこともあったわね」。同国の「取締役協会」会長カーステン・パタソン(46)が、夫のアンドルー(48)を優しく見やった。ウェリントン市内の海辺を散策しながら、2人が振り返る。
 大学時代に知り合い、12歳と9歳の子どもがいる。カーステンは弁護士資格を持ち、重要組織のトップを歴任してきた。週に2、3日は出張が入るので、葬儀会社の部長職にある夫が、子どもの食事・弁当づくりや送り迎えなど、家庭を切り盛りしている。
「彼の支援なしでは、私の人生はここまで来られなかった」「挑戦を続ける妻を見ているのはうれしい」。互いの信頼は固い。
 ただ、今でもカーステンが夜の会合に出ると、今晩は誰が子どもの食事をつくるのと聞く人がいる。「男性には絶対しない質問よね」。現状を変えるには、新しい「ロール(役割)モデル」を見える形にすること。そう信じるカーステンには、首相のアーダンが国連会合に生後3カ月の娘を同伴して出席した姿が何よりも心強い。(敬称略、文・五井憲子、写真・金森マユ)

取材後記

「110位」の課題

NZ
 

日本より半世紀早く、女性参政権が認められたニュージーランドは、最低賃金や年金制度の導入でも「先進国」だった。
 人口は約480万人。日本とは規模も歴史も異なり、比較は難しい。だが日本で、女性市議が乳児を連れて議場入りして、処分されたことを思うと、彼我の差にため息が出る。
 男女平等実現度が110位の日本では、男性側の意識変革が必要だ。一方で、腰の重い男性たちを目覚めさせるには、女性からの強い働き掛けも重要ではないか。女性相のジェンターも指摘する。「参政権は女性たちの署名で実現した。女性の要求で政治が動く。諦めないことが大事」(敬称略)

 

 

最新記事

関連記事 一覧へ