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壁の向こうへ

ベルリンの壁の崩壊から間もなく30年。分断の後に訪れたグローバル化は多くの人に豊かさをもたらした。だが、その裏で今、環境破壊が進み、巨大な貧富の差や差別が生まれている。一方で新たに生まれた「壁」に挑み、それを打ち破ろうとする人々がいる。2015年には「「誰一人取り残さない」を理念とする「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。大きな壁に挑む人々の姿を世界各地に追った。

村人が守る霊長類の森 世界の学者が救いの手 ギニア

2018.8.24 17:43 共同通信

 うっそうとした森の中の小道が突然途絶え、崖の上に出た。ごうごうと水が流れる音が周囲に立ちこめる霧を震わせ、はるか眼下に、真っ白に泡立つ水が流れる巨大な滝が見えた。
 自然には恵まれているものの西アフリカのギニアは、世界で最も貧しい国の一つだ。2014~15年には、感染力が強く、致死率も高いエボラ出血熱の大流行に見舞われ、多くの人が命を落とした。その傷痕はまだ完全に癒えてはいない。
 ▽人間の親類
 貧困と人々の活気が交錯する首都、コナクリから車で14時間近くかけてたどり着いた村、ラベの周囲に広がる森の中に17年9月、米国や英国、フランスなどの8人からなる霊長類学者チームの姿があった。
 鮮やかな黄色の民族衣装と帽子を身につけた地元のガイド、サリー・アマドゥが68歳とは思えぬ健脚で先頭を行き、環境保護団体「ギニア・エコロジー」のサリュー・ディアロ(68)が続く。
 「チンパンジーは地元ではなんと呼ぶんだ?」「群れは何匹くらい?」「このサルはいないのか? こっちは?」 チームの一人、米国のラッセル・ミッターマイヤー(68)が霊長類のフィールドガイドを広げ、アマドゥに質問を浴びせる。

フィールドガイドを手に霊長類の様子を語るサリー・アマドゥ(右)。ミッターマイヤーが次々に質問を浴びせる=ギニア・ラベ近郊
フィールドガイドを手に霊長類の様子を語るサリー・アマドゥ(右)。ミッターマイヤーが次々に質問を浴びせる=ギニア・ラベ近郊

 国際チームやディアロがここに注目するのは、絶滅が心配されるチンパンジーなど多くの生物が、人里から遠くない場所で暮らしているからだ。
 「他のサルを追い払うことはあっても、人々はチンパンジーには手を触れない。彼らは人間にそっくりな親類だから。母親が自分が抱いた子供を人々に見せようとすることもある」とアマドゥ。「彼らのために森の中にマンゴーの木やバナナを植えることもしてきた」
 ▽密猟の犠牲
 ギニアはチンパンジーの主要生息地の一つだが、生息状況は厳しい。人口が増え、森林伐採などが盛んになった地域では狩猟の対象とされ、肉が市場で売られる。子供のチンパンジーに高額を支払う外国人のための密猟も後を絶たない。子供1匹、1万ドル超が相場だという。
 「ちょっと前にも、海外に売られる直前の子供のチンパンジー2匹が押収された。この国に1カ所しかない保護施設は満杯だ」とコナクリの事情通が話す。政府や警察の腐敗も深刻で、コナクリは野生生物の密輸の中心地になっている。15年に長年、野生生物の密輸にかかわったとして摘発されたのはギニアのワシントン条約担当部局の幹部だった。
 「ほとんどチンパンジーがいなくなった森もあるが、ラベ周辺にはまだ多い。村人がチンパンジーを殺さず、村のおきてで森を守ってきたからだ。なんとしてもこの森を守らなければならない」とディアロが力説する。

女性や子供たちに森を守ることの大切さを説くサリュー・ディアロ(右端)。多くの人が彼が配ったチンパンジーのデザインのTシャツを身に着けている=ギニア・ラベ近郊
女性や子供たちに森を守ることの大切さを説くサリュー・ディアロ(右端)。多くの人が彼が配ったチンパンジーのデザインのTシャツを身に着けている=ギニア・ラベ近郊

 


 ディアロは2年前、村民とともに自然保護協議会をつくり、ガイドの養成や密猟の監視に取り組んだ。森の中の木々に学名と現地の名前を記した名札を掛け、村民に科学的な知識を伝えるための講習会を無料で開く。
 「協議会のおかげで、よそからやってくる密猟者と渡り合えるようになった」とアマドゥ


 ▽貴重な資産
 霊長類学者のチームは、そんなディアロの努力を支援しようとここへやってきた。チンパンジー研究の新たな拠点をつくるとともに、彼らを売り物にしたエコツーリズムを興し、地元に収益をもたらすことを思い描く。
 カナダ生まれの霊長類学者、レベッカ・コーモス(51)は25年前、ラベ周辺でチンパンジーの研究をしていたのが縁でチームに加わった。「今になって戻ってくるとは思いもしなかったけど、森がきちんと残っているのを見て安心した」と笑う。
 「野生生物のデータを集め、どの地域が保護上、重要かを地図に落とすことが最初だ」「ギニアの霊長類学者をもっと多く養成する必要がある」「研究資金の調達はどうしよう」。宿舎では、長い山歩きの疲れも見せず、夜遅くまで今後の課題を議論するチームの面々の姿があった。
 翌日、再び分け入った森の中。歩くこと数時間の後、突然、けたたましく呼び合うチンパンジーの声が響いた。黒い毛の塊が一瞬、視界をよぎり、深い森の中に姿を消した。
 エコツーリズムを実現するには、彼らの居場所をよく知るガイドを育てねばならない。交通の便のためには、今は放置されている名ばかりの飛行場の整備も必要だ。研究資金も足りない。
 ディアロと国際チームの前には乗り越えねばならない多くの壁が立ちはだかる。
 だが、「世界中から研究者や観光客がやってくるようにして、ゆくゆくはユネスコの世界遺産に」とディアロの夢は大きい。「森や水、野生動物はギニアの貴重な資産だ。それだけの価値はある」(敬称略、文と写真・井田徹治)

<取材後記>

そこに学校があった

 ディアロや霊長類学者のチームとともに、森林保護に熱心な村を訪ねた。彼らが伝統料理でもてなしてくれた場所は村の学校。そこには「1993年、日本とギニアの友好と協力の証し」とのプレートがはめ込まれていた。今から25年前、日本の国際援助の手は、遠くの国のこんな小村にまで届いていた。
 巨額でなくていい。貧困と環境破壊の連鎖を断ち切るため、日本の国際援助はもう一度、このような場所で、本当にそれを必要とする人々に手を差し伸べるべきではないか。それはきっと、中国と競い合うように発展途上国の大都市に巨大な道路や発電所を建設することよりも、今後の世界にとって意味深いものとなるだろう。(敬称略、井田徹治)

SDGsの第15目標 地上の生態系を守ろう
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ギニア
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