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北極を喰らふ

北緯約77度。北極点まで千数百キロのグリーンランドで、日本の北極観測隊と現地イヌイットは何を食べているのか。同行記者がルポする。

「ルポ・北極圏」 北極海にイッカクを追う  イヌイットの伝統猟 

2012.8.25 10:32
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イッカクに刺さる銛=カナック・グリーンランド
イッカクに刺さる銛=カナック・グリーンランド

 北極圏のグリーンランド・カナックでは、イヌイットによる銛(もり)とカヤックを使った伝統的なイッカククジラ猟が行われている。乱獲防止のため銃を使わないこの猟法は現在、カナック以外ではほとんど残っていない。イヌイットと一緒に極北の海にイッカクを追った。
 学校の校舎ぐらいはある巨大な氷山があちこちに浮かぶ北極海。地元猟師イラングワさん(52)と2人で小型ボートに乗り込み、氷山の間を縫うように進む。「ガン、ガン」。時折、小さな氷山が船底に当たる。
 イッカクは口から長く突き出た角のようなとがった牙が特徴。架空の動物ユニコーン(一角獣)のモデルとされ、主に北極海に生息する。カナックでは銃の使用を禁じ、捕獲も年80頭に制限している。
 氷海を進むこと2時間。イラングワさんが、アイスアンカーと呼ばれるいかりをトラックほどの氷山に投げ入れた。後は氷山と一緒に漂うだけ。気温10度。双眼鏡を手にイッカクが現れるのを待つ。8時間粘ったが現れず、ボートを岸に付けて寝袋に潜り込む。
 翌日も同様、朝からひたすら待つ。イラングワさんは本を読み始めた。
 5時間後。「プファー、プファー」。イラングワさんの目つきが変わった。指さした方向にいくつかの黒い背中、列をなして泳いでいる。イッカクの呼吸音だった。ボートにくくりつけたカヤックに素早く乗り込んで漕ぎだし、海面を滑るようにイッカク追う。
 後ろから迫る。セイウチの牙で作った銛を構え、大きく右手を振り抜いた途端、海面が大きく波打った。驚いたイッカクは水中に。ひも付きの銛にはアザラシの皮で作った浮袋がついていて、海面に漂う。これでイッカクが浮かんでくるのを待つ。
 5分、10分…。浮袋は動かない。イラングワさんが申し訳なさそうな顔でボートに戻ってきた。「うまく刺さらなかった。こんなに大きかったのに」と両手を広げてみせた。
 晩ご飯は「ナヌッ」。シロクマの肉だ。塩ゆでにする。透明感がある脂が赤身とよく合う。
 シロクマは絶滅の危機にあるとしてワシントン条約に登録され、毛皮の取引が制限されている。しかしイヌイットにとっては食料であり、毛皮は貴重な収入源。乱獲防止のため、カナック周辺地域ではライセンスを持った漁師たちが年計6頭しか捕ってはいけないルールだ。
 翌日も待ったがイッカクはついに捕れなかった。港に戻ったイラングワさんは、6月に捕った約2メートルのイッカクの牙を見せてくれた。工芸品の材料として高値で取引されるという。
 人口約600人の小さな村カナック。伝統的なこの猟をできる人は近年、減ってきている。(カナック共同)

澤野林太郎

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