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北極を喰らふ

北緯約77度。北極点まで千数百キロのグリーンランドで、日本の北極観測隊と現地イヌイットは何を食べているのか。同行記者がルポする。

7月24日・ついにシロクマを喰らふ

2012.7.26 10:28
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シロクマの毛皮と肉
シロクマの毛皮と肉

 イッカクは現れない。
 イラングワアさんは小雨の中、双眼鏡で何時間も周辺を探している。何だか申し訳なさそうに、椅子の下からビニールに入った大きな肉塊を取り出した。「ポーラベアー」
 ついに来た。約3㌔はある肉塊をナイフで豪快に切り分けた。鍋に水を約2リットル。塩は適当だが手のひらに半分ぐらい。かなり多い。ぐつぐつと煮ること40分。かなり煮込んだ。分厚い白い脂肪分と、茶色くなった肉が目の前の皿に盛られた。
 食べたことがない味を文章で表現するのは難しい。脂肪分は透明感がある一方で力強い。あえて例えると脂たっぷりのホッケの味がうっすらとする。松阪牛のような弱々しい脂ではない。ナイフは脂でギトギトになった。赤身はあえて言えばコンビーフよりも歯応えがある感じ。牛肉よりも硬く、ガツンと来る野性味がある。
 史上最大の肉食獣といわれるシロクマ。この肉のシロクマは遥か遠い陸地の雪洞で何年か前に生まれた。母クマは数カ月も何も食べずにこのシロクマを育てたのだろう。極寒の地でこのシロクマは1人で腹を空かせて何日も何日もさまよい歩いたのだろう。雄だったのか雌だったのか。アザラシとセイウチも襲って食べたのだろうか。その血や肉がシロクマの体を作った。誰にどこで撃たれたのだろう。どうして撃たれたのだろう。どんな一生だったのだろうか。
 食べ物を喰らうときに、今日ほど食べ物自体に思いをはせたことはなかった。

澤野林太郎

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