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北極を喰らふ

北緯約77度。北極点まで千数百キロのグリーンランドで、日本の北極観測隊と現地イヌイットは何を食べているのか。同行記者がルポする。

7月13日・食べるか食べないかを決める人~クジラの薫製~

2012.7.14 9:25
鯨の薫製(イルリサット13日)
鯨の薫製(イルリサット13日)

 今度はなんと飛行機のプロペラが止まった。停滞3日目。新しいフライトが午前9時に決まり、いざ飛ぼうとした瞬間、プロペラ機の片方のプロペラが止まった。「飛行中でなくて良かった」。怒りを通り越して祈るような心境になってきた。結局今日も飛ばずにまた同じホテルに。取材も予定通りに行くのか不安になってきた。取材計画を立て直さなければならない。
 ホテルには私達同様に足止めされた乗客がほかにもいた。イヌイットらしき男性がホテルで私に手招きをしている。「ホエール、ホエール」。テーブルには黒いベーコンのような物体と白い湯葉のような物体が並べてある。男性はナイフで物体の一部を器用に切り取り、私に差し出した。口に入れるとらかな食感。味は鮭の切り身を乾かした「とば」に似ている。恐らく薫製の味だろう。「GOOD」と言うと男性はうれしそうにほほ笑んだ。そして次に白い物体を差し出した。「ホエール、スキン」。クジラの脂肪が付いた皮だ。これはなかなか硬い。口に入れても全然かみ切れないでいると、ゆっくりとなめて溶かすように食べるのだと教えてくれた。ほとんど味はしない。完全になくなるまで約20分かかった。
 「ホテルの食事はあんまり美味しくない。こっちのほうが本当の地元料理だ」。男性と一緒にいた女性が話す。クジラは地元で捕れたもので、彼らはこれらの薫製をいつも持ち歩いているそうだ。昨日、氷山の写真を撮りに行った時に見た鯨を思い出した。私達が日本人だと話すと「どちらもクジラを食べるし友達ね」と話した。
 日本は調査捕鯨を続けている。捕獲されたクジラの肉は、食用として店頭に並ぶ。今年から販売促進のために鯨肉を相対取引から入札制にした。しかしその多くは売れ残ったという。一方で和歌山県太地町のように長年にわたり鯨を食べる生活をしている人たちもいる。
 食べるのか、食べないのか。それは食べる人たちが決めるものであって、食べない人が決めるものではない。

澤野林太郎

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