メニュー 閉じる メニュー
国際

国際

ゲイは僕のごく一部なのに 悩む若者たちのシェルター 英国 

2019.10.18 18:32 共同通信

 ことし初めてロンドンに雪が降った夜。繁華街ピカデリーストリートの路上に、巨大なミノムシのようなものが所々に転がっていた。毛布や寝袋を頭までかぶり、身を丸めたホームレスの姿だ。
 「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」などの演目が華やかに掲げられた劇場、一流ブランド店やレストランが並ぶ。きらびやかな照明が雪にぬれたホームレスの姿を照らし、その傍らを着飾った買い物客や観光客が足早に通り過ぎていく。
 ロンドンのホームレスの若者4人に1人が性的少数者だという。「僕がゲイだと分かったら家に居にくくなった。学校でも皆からいじめられ、居る場所がなくなったんだ」と言うアナイリン(18)も空腹を抱え路上で夜を明かす一人だった。

 ▽居場所を失って

「一番の悩みは、周りの人たちからほんとの僕が理解されないことなんだ」と話すアナイリン=1月、ロンドン(共同)
「一番の悩みは、周りの人たちからほんとの僕が理解されないことなんだ」と話すアナイリン=1月、ロンドン(共同)

 自分が周りの友人たちと違うことに気付いた。アナイリンは「家族は僕を愛してくれた。でも、近所の人がコソコソとうわさするのが聞こえてくる。家族に迷惑を掛けたくなかった」から家を出た。17歳のときだった。
 公園や駐車場の軒下で雨露を避け、福祉団体の炊き出しで飢えをしのぐ毎日。昨年9月からボランティアに教えられた“シェルター”で暮らす。
 「ゲイであることは僕という人間のごく一部だと思う。でもゲイというだけで僕という人間の全てが規定されてしまう」
 スタイリストになるのが夢だ。何のつてもなかったが、著名なスタイリストに助手にしてくださいと頼み、その助言で今は独学で勉強中だ。
 同じシェルターに住むアキームは23歳、英国人の父親とジャマイカ人の母親の間に生まれた。幼い頃から住居は転々、母親の男友達から「毎晩のように性的虐待を受けた」と涙ぐむ。2016年から路上での生活。宿と食事を提供すると言って客を取らせるいかがわしい団体を頼ったこともある。
 アキームは大手デパートに職を得て、間もなくシェルターを出る。「自分たちを社会に認めさせたければ、それだけのことをしなければ」。同じ境遇の若者への言葉だ。

 ▽プライドを持って
 福祉団体ストーンウォール・ハウジングは、居場所をなくしたアナイリンやアキームのような若い性的少数者に住居を提供し、就活支援をしている。家庭から追い出され、周囲から差別を受け、孤立した若者たちは社会的スキルが身に付いていない。ここでの生活を通じて、次のステージに移行させるのが目的だ。
 「英国民の50人に1人が性的少数者、若者のホームレスのうち24%が性的少数者という公的なデータがある。でも、実際にはもっと多いと思う」と団体幹部のキャット・ハルデーン(29)。
 若者たちを収容するシェルターはロンドンに6カ所、16歳から25歳までの若者41人が生活している。自治体や慈善団体の支援で運営、入居の上限期間は最大2年。嫌がらせも絶えないため、場所などは非公開だ。
 キャットは自身も性的少数者として悩んだ経験を踏まえ「差別をなくすためには、当事者自身が知識を深め、プライドを持つこと。子どもや友人からカミングアウトされた時に家族も社会も、どう対応していいか分からない。だから啓発活動も必要なの」と強調する。

シェルターで取材に応じるアキーム。「同じ境遇の仲間たちと一緒にビッグビジネスをやること」が夢だ=1月、ロンドン(共同)
シェルターで取材に応じるアキーム。「同じ境遇の仲間たちと一緒にビッグビジネスをやること」が夢だ=1月、ロンドン(共同)

 ▽歓迎してくれるかな
 ロンドン中心部にあるもう一つのシェルターを訪ねた。福祉団体アウトサイド・プロジェクトが運営、「厳冬期の避難所」の条件付きで自治体の協力を得て、地域のコミュニティーセンターを夜間だけ行く場のない人たちの常設型の宿泊施設として利用している。
 性的少数者だけでなく、英国居住権のない難民や移民、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者など年齢・国籍を問わず門戸を開いている国内唯一の施設だという。ここも住所などは非公開だ。
 「日本人? ONE PIECE(ワンピース)知ってる? あれ大好きなんだ」と、漫画で覚えたという片言の日本語で話し掛けてきた少年と出会った。生い立ちなどを聞こうとしたら、代表のカーラ・エコラに「プライベートなことには触れないで」とさえぎられた。
 「家庭からも社会からも阻害された若者たちは孤立し、アルコールや麻薬に逃げてしまう」とシェルター設立の動機を語る。「私もそうだったから」とポツリ。
 最初は中古のバスを買って簡易ベッドを設置、宿泊施設として提供していた。暖房もある建物で寝られるに越したことはないと行政当局と交渉、「とんでもなく面倒な交渉を経て」2017年12月に開設した。冬だけでなく常設の施設を確保することが課題だ。
 「このバスでいろいろな国を回って彼らのことを訴えることが夢なの。日本に行ったら歓迎してもらえるかしら」
 「これからバーを回ってTシャツを売って運営費の足しにするのよ」。カーラは木枯らしの吹く夜の町に出て行った。(敬称略、文・遠藤一弥、写真・植田剛史)

取材後記

まだ多い無理解と偏見

地図
 

チャリティー先進国の英国では、教会などが中心となってホームレスへの炊き出しや寝る場所を提供している。だが性的少数者には心情的に行きにくい場所であり、それが性的少数者のホームレスが危険な目に遭う一因にもなっているようだ。
 1年前、英国でトランスジェンダーを取材した。カウンセリングから手術、戸籍の変更まで、性的少数者を保護する制度や法律が驚くほど整い、その面では英国が日本とは比較にならないほど進んでいる印象だった。しかし今回の取材を通じ、確かに施策は先進国だが、家庭や学校、社会ではまだまだ理解されず偏見も多く、キャットの言う啓発の必要性を実感した。(敬称略)

最新記事

関連記事 一覧へ