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鉱山が残した負の遺産 鉛汚染と戦う ザンビア

2019.4.5 21:46 共同通信
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 傾きかけたオレンジ色の夕日が細かな黒い砂の粒を輝かせる。「ブラックマウンテン(黒い山)」と呼ばれる高さ30メートルほどの砂山には、仕事の疲れを癒やすビジネスマンが散歩に訪れ、若いカップルが夕日を見つめながら肩を寄せ合う。山肌には子供がそり遊びをした跡が幾筋も走る。ふもとにある、半ば傾いた「立ち入り禁止」の小さな看板に注意を払う人はほとんどいない。
 一見、のどかな姿だが、この山の砂すべてが20年以上前に操業をやめた鉱山の鉱滓(こうさい)で、有害な鉛を多く含むことを知る者には、心をざわつかせる風景だ。

 ▽汚れた土

 鉱山の鉱滓でできた「ブラックマウンテン」に夕暮れが迫る。カップルが肩を寄せ合い歩いていた=8月、ザンビア・カブウェ(共同)
 鉱山の鉱滓でできた「ブラックマウンテン」に夕暮れが迫る。カップルが肩を寄せ合い歩いていた=8月、ザンビア・カブウェ(共同)

アフリカ南部ザンビアの首都、ルサカから北に100キロ余のカブウェ市。88年間にわたって操業を続けた末、1994年に閉鎖された鉛や亜鉛の鉱山と精錬所が残した有毒な遺産が、周囲に汚染をもたらした。鉛は脳や臓器に蓄積しやすく、特に子供では、知的障害や発達の遅れなどの危険性が高い。
 「7年前に突然、政府の人間がやってきて『ここは汚染されている』といって土をかぶせていった。でもそれっきり。何もしてくれていない」―。黒い山の近くに暮らすバリー・ナヒール(62)がまくしたてる。
 「われわれは鉱山から何の利益も得なかった。いまさら他の土地に行くこともできない。自分のような老人はいいが、この子のように人生が始まったばかりの人の将来が不安でならない」。隣に座る妻マリー(68)のひざの上で、生まれたばかりの孫が無邪気に笑う。
 鉱山の廃業以来、鉱滓の山は放置され、汚水をためていた巨大な池も今は干上がり、人々が簡単に立ち入ることができる。雨が降れば土砂が流れ出し、乾期には有害な粉じんが風で広がる。それは住民にとっての大きな重荷だ。
 庭に出れば黒い山がすぐそこに見える場所に暮らすロンゴ・シャロン(37)は、ここで4人の子供を育てる。「子供たちには決して近づかないように言っている。息子が一度、山に入った時には思わず手を上げてしまった」と話す。  

 生まれたばかりの孫をひざに「すぐそこの土地が鉛で汚染されている」と指さすマリー。夫バリー・ナヒール(奥)は孫たちへの影響が気にかかると訴えた=8月、ザンビア・カブウェ(共同)
 生まれたばかりの孫をひざに「すぐそこの土地が鉛で汚染されている」と指さすマリー。夫バリー・ナヒール(奥)は孫たちへの影響が気にかかると訴えた=8月、ザンビア・カブウェ(共同)

▽高まる懸念
 18年の8月、カブウェの鉱山跡地に近い一角で、乾燥した土を容器に集める北海道大の研究者、中田北斗(27)の姿があった。彼がここに居を定めたのは2年前。北大教授の石塚真由美(48)を中心とするグループが日本政府の資金で、ザンビア大などと協力。実態調査や汚染対策を進める5年がかりのプロジェクトに16年から取り組むことになり、現地の長期滞在を任された。
 「世界で最も汚れた町の一つとまで呼ばれるカブウェだが、汚染の実態や健康影響などほとんど分かっていない。資金も技術も少ないザンビアでは、対策技術も見えていない」と中田。
 地面をはい回ってトカゲを捕獲し、犬を追いかけて血液を集める。地元の保健当局の協力を得て、千世帯を超える世帯で暮らしぶりの調査をし、約1500人の住民の血液を集め分析する。研究グループの活動は幅広く「トカゲ捕りがすっかり上手になった」と笑う研究者もいる。
 子供の血中鉛濃度の平均値は、日本の数十倍高く、国際機関の基準に照らして健康影響が出てもおかしくないレベルの子も多かった。
 予備調査では、濃度が高い子ほど、学習能力や発達段階を示すテストの成績が悪くなる可能性を示唆する結果も得られつつあり、ザンビア側の専門家は「実態が分かるに連れ、人々の健康影響への懸念が高まった」と語る。
 ▽解決の道を
 中田は今、多くの人と顔なじみになり、道を歩けば声を掛けられるまでになった。「トゥワンボ」というザンビアの名前ももらった。現地の言葉で幸福や喜びの意味だ。
 英語の頭文字を取って「KAMPAI(カンパイ)プロジェクト」と名付けられた研究では、汚染の実態解明に加え、黒い山などからの汚染の広がりを抑える安価な技術開発などにも取り組む。
 研究者らは、ザンビア政府が提供してくれた土地を自ら耕し、鉛汚染が進んだ土地でも育ち、土の飛散を防ぐ力があるレモングラスなどの植物を育てる実験農場もオープンさせた。
 「われわれは事業期間が終わったらこの地を去る。でもカブウェの人の多くはこの地で暮らし続ける」と中田は「隣人」の未来を気に掛ける。
 資金も技術も人材も足りないという大きな壁が中田らの前に立ちふさがる。
 「問題を100%解決できなくても、30%でも、50%でもいいから小さくすることはできるはず。少なくともザンビアの人々に解決に向けた手がかりとなるものを残したい」という中田。その目は巨大な壁の向こうを見つめる。(敬称略、文・井田徹治、写真・中野智明)

取材後記

消費者の責任 

 金銀銅や鉛、ニッケルなどの金属は現代生活に欠かせない。最近ではハイテク製品に使われるコバルトやタンタルなどの採掘も盛んだ。これらの資源の多くがアフリカに存在し、ザンビアのように鉱業に多くを依存する国も多い。
 だが、アフリカでは鉱業が原因の環境汚染や生態系破壊が深刻で、時には大規模な中毒で多くの人が命を落とすこともある。採掘には児童労働などの人権侵害がつきまとい、利益の奪い合いが紛争の原因にもなる。
 環境破壊や社会問題と無縁の持続可能な鉱業をアフリカで実現すること。それはさまざまな鉱物資源を消費している日本人にとっても重要な課題だ。(井田徹治)

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