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吃音症が高校生に与えてくれたもの  苦しみも感謝も歌に乗せ ラッパー達磨の生き方

2018.12.21 15:55 共同通信
全国規模の大会でラップする壁谷さん=本人提供
全国規模の大会でラップする壁谷さん=本人提供

 「ラップなら、『自分の言葉』を吐き出せるんです」。愛知県豊川市に住む18歳、壁谷裕誉(かべや・ひろたか)さんは、声が詰まりやすい吃音(きつおん)症のハンディを抱える高校生ラッパーだ。活動名は「友達と磨く」という意味を込め、達磨。クラブのイベントやラップの大会に行けば、会場で何人にも声を掛けられる人気者だ。

 吃音症 一時的に言葉が発せなくなったり、同じ音を何度も発音したりする症状。円滑な会話が難しくなるが、発症の原因は分かっていない。近年では映画「英国王のスピーチ」で吃音に悩まされたイギリス王が描かれ、注目された。

 症状を自覚したのは中学生のころ。地元の進学校に入学した高校1年の時、症状が著しく悪化した。同級生との会話や飲食店での注文でも、言葉に詰まり場が気まずくなった。笑われたことは一度や二度ではない。しゃべるのに苦手意識が芽生え、精神的に不安定な日々が続いた。

 「授業で当てられても答えられないのが恥ずかしくて。ずっとうつむいていたら勉強もついて行けず、悪循環になりしんどかった」

公園でラップする壁谷さん
公園でラップする壁谷さん

 16歳の誕生日。公園で友達と動画サイトから音楽を流してラップをまねてみた。「するすると言葉が出て、声が詰まらなかった」。公園や駅に集まりラップする「サイファー」に参加するようになり、リズム感や韻を踏む技術を鍛えた。「ラップなら言いたいことが言える」。

 1年だったころ、学校の友達は多い方ではなかったが「それまで仲が悪かった人とも、いいバトルができるとなぜか仲良くなってしまう」。どんどんのめり込んだ。

全国規模の大会での様子。ここでの経験が初めての曲作りに影響を与えた=本人提供
全国規模の大会での様子。ここでの経験が初めての曲作りに影響を与えた=本人提供

 2年の時、厳しい予選を通過して全国規模の高校生のラップ選手権に出場した。テレビでも放送され、症状に触れた紹介映像も流れた。「俺にしかできねえラップがある」。熱い言葉に聴衆は大歓声を上げた。

 結果は実力者相手に1回戦負けだった。それでも対戦中に投げ掛けられた「(吃音症の)その経験、曲にしやがれ」との言葉が胸に響いた。

 MCバトルに傾倒していた中で、楽曲制作にも挑戦したい気持ちがあった。「初めて作る曲は、吃音症に真正面から向き合った曲にしよう」。相手の言葉が、自身のつらい経験も見つめ直し、楽曲を作ろうと決心するきっかけとなった。

壁谷さんもよく参加している名古屋のMCバトルイベント「ステージアベンジャー」の様子。企画者も10代だ
壁谷さんもよく参加している名古屋のMCバトルイベント「ステージアベンジャー」の様子。企画者も10代だ

 半年以上かけて作った曲が「音文(おとふみ)」だ。一度出来上がった歌詞を5回も白紙にして、練り上げた。「これで行こうと思っても、なんかしっくりこなくて。初めての曲だから納得するものを作りたかった」

 完成した曲は、随所で語尾に韻を踏み、リズム感にこだわった。

MCバトルの大会前の壁谷さん
MCバトルの大会前の壁谷さん

 「どもることが恥ずかしい情けない その感情すら声にならない うまく答えることができない質問と 周りの人とは違う俺は吃音症」。等身大の自分をぶつけた。

 今はMCバトルイベントに積極的に参加しつつ、次なる楽曲制作に目を向ける。最も深刻だった1年のころに比べ、症状はだいぶ和らいだ。

 とはいえ、完治しているわけではない。最近でも、ファストフード店で、コーラもウーロン茶もなかなか声が出てこなくて、全然飲みたくない野菜ジュースを頼んでしまった。「嫌な時はありますけど、感謝もしているんです。吃音じゃなかったらラッパーとしての自分はいなかったから。ずっとラップと付き合っていきたい」

自室でくつろぐ壁谷さん。卒業に向け勉強にも力を入れているという
自室でくつろぐ壁谷さん。卒業に向け勉強にも力を入れているという

 高校卒業後は、柔道整復師とはり・きゅうの資格取得のため、大阪の専門学校への進学を決めた。吃音症に加え、元々体が弱く、お世話になった整体の先生や医師のように困っている人の助けになりたかったのが理由だ。

 それに、大阪はMCバトルの激戦区でもある。音楽性や言葉選びのセンス「ライミング」も向こうで磨くつもりだ。「資格があれば親も安心する。いつか地元で開業して、音楽活動と両立させたい」と将来設計を描く。

 「音文」の中にはこんなフレーズがある。

 「逆境の中で生きることは苦しい それでもラップに出会えたことが救い ラップで始める腐れ切った人生の続き」

 新たなステージを春に控え、挑戦は続く。(共同=白鳥喬太郎25歳)

 

取材を終えて

 筆者がラップにはまったのは下北沢でアルバイトをしていた学生時代。ヨーロッパに留学して帰国した後、ヒップホップやスケートボードなどのストリートの文化が日本では浸透していないと感じました。ナイトクラブやラップと聞くと、反射的に「怖い」と感じる人も多い印象です。ラップは、10代でもイベントをあちこちで企画したり、動画サイトで何万回も再生されるような楽曲を作ったりと、若いエネルギーが溢れている分野。先入観が薄まって、広く魅力が知られていってほしい。取材させていただいた壁谷さんは本当に好青年で、ラップバトルのスタイルも大好き。いつか彼のライブに行って、成人したらおいしいお酒を一緒に飲みたいな、なんて思っています。

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