NFLレーベンズがフランチャイズ指名 QBラマー・ジャクソン

2023年03月10日
共同通信共同通信
生沢 浩 いけざわ・ひろし
レーベンズからフランチャイズ指名されたQBラマー・ジャクソン(AP=共同)
レーベンズからフランチャイズ指名されたQBラマー・ジャクソン(AP=共同)

 

 昨季、NFLのレーベンズと1年契約でプレーしたエースQBラマー・ジャクソンが、2年連続でフランチャイズ指名を受けた。

 レーベンズはジャクソンが契約満了を迎えてフリーエージェント(FA)となる前に優先交渉権を獲得し、長期契約に向けた交渉を始める。

 

 フランチャイズ指名とは、リーグイヤーの切り替わり(今年はアメリカ東部時間3月15日午後4時)に契約が切れる選手に対して、暫定的に1年契約を結んで他のチームとの交渉を禁止または制限することのできるチーム側の権利だ。毎年一人にだけ行使できる。

 選手は他チームとの移籍交渉を禁止または制限される代わりに、年俸アップが約束される。所属チームとの再契約交渉を重ね、より良い条件で複数年契約を結ぶのが一般的だ。

 しかし、複数年契約交渉がまとまらなければ、昨年のジャクソンのように暫定的な1年契約のままプレーすることにもなる。

 

 フランチャイズ指名には他チームとの交渉を完全に禁止する独占的指名と、ある一定条件のもとに他チームとの交渉が許される非独占的指名の2種類がある。

 レーベンズがジャクソンに対して行使したのは後者で、規則上はジャクソンは他チームと移籍交渉ができる。

 ただし、ジャクソンが他チームから契約を提示された場合でも、レーベンズはそれと同等の内容を提示すればジャクソンと優先的に契約を結ぶことができる。

 逆にレーベンズが他チームと同等内容の契約提示を拒んだ場合には、ジャクソンの移籍は認められるが、その補填としてレーベンズは二つのドラフト1巡指名権を移籍先のチームから獲得できる。

 つまり、フランチャイズ指名とは選手がFAとなって移籍することを大幅に制限する制度だ。ではジャクソンの移籍も最初から無理ではないかというと、必ずしもそうではない事情がある。最大の懸案はジャクソンに提示する年俸だ。

 

 ジャクソンは2018年にドラフト1巡指名を受けてレーベンズに入り、最初の4年間は年俸を抑えたルーキー契約下にあった。

 昨年は契約延長交渉をしたが、6年で総額2億9000万ドル(約395億円、1年平均4830万ドル=約66億円)のオファーをジャクソンが拒否したために決裂し、フランチャイズ指名による1年契約でプレーした。今年もフランチャイズ指名を受けたため、年俸は3240万ドル(約44億円)となっている。

 

 レーベンズは今年も長期契約を打診するはずだが、昨年以上の内容を提示しなければジャクソンも納得しない。QBは契約交渉の際にほかのQBが得た契約と同等以上のものを要求することが多い。

 参考値とされるのはデショーン・ワトソンが昨年ブラウンズに入団する際に結んだ5年、2億3000万ドル(約320億円、1年平均4600万ドル=約63億円)の内容(年俸は全額保証)だ。

 また、3月9日にはジャイアンツがダニエル・ジョーンズと4年、1億6000万ドル(約218億円、1年平均4000万ドル=約54億円)の契約を成立させた。

 この二人の契約内容と昨年の経緯を考えると、ジャクソンが1年平均5000万ドル(約68億円)クラスの契約を要求する可能性は否定できない。その価値をレーベンズがジャクソンに見いだすかどうかが鍵を握る。

 

 ジャクソンはオフェンスのゲームプランの中心となり得る身体能力の持ち主だ。彼一人がいるだけでオフェンスががらりと変わる。

 これは対戦するディフェンスにもスキームの変更を余儀なくさせるほどの影響力がある。

 その一方で過去2年間は故障のためシーズンを全うすることができなかった。ジャクソンの故障は彼のプレースタイルと無関係ではなく、ランを多用する以上は常にある懸念材料だ。

 ジャクソンの身体能力と耐久性、さらには彼の人気が及ぼす経済効果などを十分に精査した上で判断しなければならない。

 

 ジャクソン獲得を検討するチームにとって、ドラフト1巡指名権二つの譲渡という代償は大きい。通常なら検討の余地もない条件だ。

 しかし、ドラフトで1巡指名権を行使して獲得した新人QBが確実に活躍する選手に育つ保証はない。それならば、類いまれな身体能力でチームに勝利をもたらすジャクソンを獲得したほうが手っ取り早くチームを再建できると考えるオーナーがいても不思議ではない。

 例えば同じく移籍が噂されているアーロン・ロジャーズ(パッカーズ)と比べても、まだ26歳になったばかりのジャクソンはより長くNFLで活躍できるはずだ。

 

 現在QBを必要としているチームはファルコンズ、コマンダーズ、パンサーズ、レイダーズなどだ。これらのチームがジャクソンのフランチャイズ指名をどのようにとらえているのか。FA市場が解禁となる15日(日本時間16日)以降の動向が注目される。

 

 
 

生沢 浩( いけざわ・ひろし)プロフィル
1965年生まれ。上智大卒。英字新聞ジャパンタイムズの運動部長を経て現在は日本社会人アメリカンフットボール協会の事業部広報兼強化部国際戦略担当。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSなどでNFL解説者を務める。大学時代のポジションはRB。日本人で初めて「Pro Football Writers of America」の会員となる。