【編集後記】Vol.425=「シーガルズ」


国内の2022年シーズンが終了して約1カ月後の2月1日、日本社会人Xリーグの「クラブチームの雄」オービック・シーガルズが、指導体制の一新を発表した。
長年二人三脚でチームをけん引してきた大橋誠ヘッドコーチ(HC)と古庄直樹アシスタントHCが退任した。
「リクルート・シーガルズ」として1983年に誕生したチームは、オービックがスポンサーになり企業チームから「クラブチーム」にその運営形態が変わっても、常に日本のアメリカンフットボール界をリードしてきた。
日本選手権(ライスボウル)での優勝8度は最多。2013年シーズンには、ライスボウル史上初の4連覇も達成している。
大橋さんは15年シーズン終了後の16年春にHC職を古庄さんに譲り、シニアアドバイザーの立場で「シーガルズ」を見守り、20年に再びHCに復帰した。

シニアアドバイザーになった年の夏、ホテルのレストランでじっくり話を聞く機会があった。
初めて会ったのは1999年、イタリアのシチリア島で開催された第1回ワールドカップ(現世界選手権)で、大橋さんが優勝した日本代表の守備コーチをしていたときだから、ずいぶんと時間がたっていた。
51歳になっていた大橋さんは、自チームの強化だけでなく日本のアメフトが発展するためにはどうしたらいいかを、独自の価値観をベースに語ってくれた。その中で興味深かったのは、自身が学生(早大)時代のエピソードだ。
当時の日大・篠竹幹夫監督の指導法を「あんな〝やらされ感〟満載のやり方は受け入れがたかった」と全面否定していたことを明かした後、「でも、この世界に長くいればいるほど、篠竹さんのやり方が理解できるようになる。根性だけでは勝てないだろうと思っていたが、最近は根性論なくしては勝てないと思うようになった。今のエリートアスリートは理屈だけで育っているけれど、とんでもなく理不尽な思いをしたからこそ身につくこともある」。
その考え方を、5年の歳月を経てHCに復帰した時も持ち続けていたかは不明だが、20年シーズンはシーガルズを7年ぶりの日本一に導いた。愛するシーガルズと少し距離を置き俯瞰することで、何かを感じ取ったのではないだろうか。

しかし、過去2シーズンは自分の中で燃えるものがなかったのも確かと振り返る。
富士通、パナソニックに代表される企業チームが、安定したチーム力を維持するXリーグの流れの中「実業団(企業チーム)への対抗意識が過剰になり、クラブチームが大切にしなくてはいけないアイデンティティーを見失ってしまったのかもしれない」。
この言葉は、新時代を迎えたクラブチームの在り方を示唆している。
今後の活動については明言しなかったが、一つだけやりたいことを話してくれた。
「もし、以前のように若い選手を対象にしたアンダー19(U19)日本代表のようなチームを結成しようというムーブメントがあれば、手伝ってみたい」
日本のアメフトの将来を憂い、そして活性化に尽力してきた貴重な人材である。57歳。隠居するには、まだ早い。(編集長・宍戸博昭)

宍戸 博昭 (ししど・ひろあき)プロフィル
1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を30年以上務めている。