【編集後記】Vol.410=「芝居づくりとアメフト」

2022年10月06日
共同通信共同通信
宍戸 博昭 ししど・ひろあき
神奈川大との試合後、インタビューに答える明学大の田谷野亮コーチ=10月2日、アミノバイタルフィールド
神奈川大との試合後、インタビューに答える明学大の田谷野亮コーチ=10月2日、アミノバイタルフィールド

 

 今シーズンの関東大学リーグ1部BIG8で他校を圧倒している明学大に、異色のコーチがいる。早大アメリカンフットボール部OBの田谷野亮さんだ。

 

 36歳の田谷野さんの本業は俳優だ。自ら立ち上げた「たやのりょう一座」で座長兼役者として活動している。

 大学を卒業後は都市銀行に就職したが、興味のあった役者の道に方向転換。東京都内を中心に、座員とともに多彩なジャンルの演劇を展開している。

 

 アメフトとの出会いは11歳。大阪の少年タッチフットボールチーム「千里ファイティングビー」に入り、15歳までQB、WR、RB、DBなどを経験した。

 父親はアメフト部ではないが関学大出身で、関西での試合をよく観戦していたという。

 

 大阪・関西大倉高、早大でもさまざまなスキルポジションをこなしたが、けがに泣いた。社会人ではオービックでプレーし、立命大とのライスボウルでWRとして出場したのがいい思い出だという。

 

 コーチとしてのスタートは東京・東海大高輪台高。明学大でオフェンスを任されて今年で4年目になる。

 日大の監督を務めた立命大OBの橋詰功さんに師事し、攻撃の要諦を学んだ。

 

 「芝居での演出は常に変化する。フットボールも選手によって使うプレーが変わる。不得意そうだと判断したら、無理強いしない。(全体練習後の)アフター練習だと学生は好きなことをやる。それを見て起用法を考える」と言う。

 出てくる選手によって、バックフィールドの景色がガラリと変わる。明学大のバラエティーに富んだオフェンスは、田谷野さんの〝演出家〟としての発想がベースになっている。

田谷野亮さんが主演する演劇のポスター=たやのりょう一座提供
田谷野亮さんが主演する演劇のポスター=たやのりょう一座提供

 

 「今年のチームには、タイプの違うQBが4人いる。得意なことをやらせることで、自然とオフェンスの幅が広がった」

 昨シーズンの関東王者・法大との春のオープン戦は28―25で勝った。相手が後半メンバーを落としたこともあるが、チームは手応えをつかんだ。

 推薦で優秀な高校生を獲得するなど、リクルーティングがうまくいっているのも明学大躍進の原動力になっているという。

 

 1部下位のBIG8のチームは、1位になっても全日本大学選手権決勝(甲子園ボウル)には出場できない。

 「チームを(1部上位の)TOP8に引き上げて、甲子園ボウルに行ってみたい。学生時代に果たせなかった夢なので」

 

 「フットボールの動きには、必ず理由がある。学生には基本的なことをしっかりやるようにと言っている」

 役者の特性を見抜き、観客の反応を感じ取る。「受ける芝居づくり」を模索する座長の指導理念は、至ってシンプルだ。(編集長・宍戸博昭)