大切なのは「常に全力」 練習、試合で「思い切り動く」習慣をつけよ

2022年08月31日
共同通信共同通信
中村 多聞 なかむら・たもん
練習や試合では「常に全力でプレーせよ」と語る多聞コーチ=中村多聞さん提供
練習や試合では「常に全力でプレーせよ」と語る多聞コーチ=中村多聞さん提供

 

 このところ、僕が普段どのようにランニングバック(RB)を指導しているのかということを書いておりますが、まだ他にもいろいろあります。

 いよいよシーズンインが近づいてきていますので、チームの運営は個人能力アップに特化せず、ゲームに向けた練習へシフトしています。セットプレーの微妙なタイミングや位置取りを突き詰めるといった作業です。

 

 とはいえ、NFL選手とは違ってもうこれ以上うまくならないなんてレベルの選手は僕の周りに存在しませんので、ゲームがあろうとなかろうと関係なく、やらねばならない練習や指導は数多く存在します。

 

 細かい技術や考え方は、普段の座学やグラウンドでの実技練習でレクチャーしています。いずれも大切なことばかりです。

 しかしいざ「試合」という戦いの場では、一々思い出しながらプレーしていても勝ち目はありません。体が勝手に動くという「自動運転」になるまで訓練して身につけないと意味や効果はありません。自分や自分たちより強い相手に勝つことはできません。

 

 有利でない状況でチャンスを得る方法は絶対的に「思い切り動く」ことに尽きます。

 学生時代に、僕が水泳の指導者をしているときのことです。日本赤十字社が主催する「溺れている人を救助する」という授業を何度も受講していたのですが、この時の注意事項で最も重要なことの一つに「小さな子どもとはいえ、溺れていれば大男に匹敵する力でしがみ付き、生きようとする。命がけで臨まねば助けることなど不可能であり、とても難しい」と習いました。つまり全力とはこういうことで、小さな子どもでもそれだけのパワーを出せるわけです。

 

 アメリカンフットボールのように、敵と直接接触して強さを競い合うスポーツをしている者としては、この「全力を出す」といことがとても大切になります。

 暑さや寒さ、恐怖や痛み、いろんな要素がランダムに襲いかかってくる中で「速さ、強さ、うまさ、賢さ」を競い合うのがフットボールでありRBなのです。

 

 選手たちの練習を見ていて「あれ?」と思うことがあります。ボールを持って人と人の間を駆け抜ける練習ドリルの時です。

 激突があるかどうかは決めずにランダムな状態になっていて、そのまま走り抜けられる場合もあればガシャンと激突がある場合もあります。

 この練習を一生懸命やっているのですが、先ほどの「小さな子どもが大男さながらのパワーを発揮する全力の状態」ほど力を入れてやっていないことに気づきました。

 もうすぐ激突があるかもしれないという少し先の未来をじっくりと見たいがために、ほんの少しだけスピードやパワーをセーブしているのです。

 

 ゲームで相手を凌駕できる能力があるなら、そもそも技術練習などそれほどせずに、セットプレーの練習だけをやっていればいいのです。

 でも大抵の選手はゲームで相手と互角の能力だと推測されますので、力をセーブして練習しても効果など生まれず「頑張って汗を流したよねー!」という思い出だけが残ることになってしまいます。

 

 ランプレーでもパスプレーでも、その種類によってやらなければならない約束事がそれぞれに存在します。

 ボールを落とさないようにしっかりホールドし、敵や味方の動きを把握するために周囲を見渡しといったRBにとって基本的な常識も含みます。

 こういったことを守らねばならないという負荷がかかり重荷となった結果、自分の持てるスピードやパワーを最大限発揮するという闘争の根本的なルールをおろそかにしてしまうのです。

 

 足が速い、激突に強い、だからRBをしているのに、荷物が多いからアクセルを全開にせずちょうどいいスピードで走る。これは本末転倒です。

 下手くそでもいいしミスしてもいいのです。相手に倒されても構わない。でも闘争心を丸出しにして、勇気と自信を持って全力のそのまた上の全力で走り回ってこそ明るい光が見えてきます。

 

 練習だから思い切りやらない。ゲームでは思いっきりやる。これはゲーム慣れしているアメリカ人だけの組織では通用するでしょう。

 ほとんどの日本人のフットボール経験値では、練習強度とゲーム強度のギャップをイメージトレーニングだけで補うことなどできません。

 アメリカ人は全部がすごすぎて、練習でゲームのような激突をしていたら選手生命が脅かされるので、ヒットしない寸止め技術を向上させ、うまい具合に練習精度が落ちないよう工夫しています。

 この技術は僕が20数年前にアメリカ人のプロ選手たちと練習する時に最も驚かされたことの一つでした。

 

 一方、日本の練習では単に速度を落としヒットの強度をグッと下げて、ゲームとは全く違うレベルで練習をしてしまっています。

 日本人同士がしっかり走ってしっかり当たっても、大きなけがにつながる確率はかなり低いので、ある程度は経験しておかなければ結局ゲームでけがをして二度とフィールドに立つ勇気が湧かなくなるでしょうし、体も元に戻らないかもしれません。

 

 激突した経験が少なすぎて、どのぐらい思い切り当たればいいのかすら分からなくなった選手が多くなり、接触の寸前で力いっぱい地面を蹴り体を固めないといけないのに、アクセルを緩め減速しながら「チョコン」と当たる練習をしていては本番でろくな仕事ができません。

 

 僕はスピードとパワーを備え、頭脳プレーと派手な激突で観客を興奮させる選手を目指してもらいたいと思って日々指導をしています。

 いよいよ今週から長いリーグ戦が始まります。今シーズンも教え子たちが大きなけがをせず、ど派手に暴れてほしいと願っています。