思い込みは成長の妨げ とにかく「やってみなはれ!」

2022年08月24日
共同通信共同通信
中村 多聞 なかむら・たもん
電通キャタピラーズでRBを指導する中村多聞コーチ=中村多聞さん提供
電通キャタピラーズでRBを指導する中村多聞コーチ=中村多聞さん提供

 

 僕が所属する電通キャタピラーズの練習後ミーティングでは、他のチームと同じように練習シーンを撮影した動画を見直し、コーチがフィードバックしてみんなで意見を言い合ったりしながら、能力を上げたり仲間と息を合わせたりを目指す作業をします。

 みんなの熱心さと言いますか熱量が凄いので、僕もエネルギーを出しやすい環境で指導させてもらっています。

 

 フットボールのシーズンは、毎年同じサイクルで回っています。初心者の存在する学生チームだと、最初の1、2年は基礎作りに明け暮れますので社会人とは少し時間の使い方が違いますけどね。

 

 リーグのレベルにフィットした能力を持ち、チームが期待するパフォーマンスを試合で必ず発揮できるだろうという観点から入団を許されているのが社会人チームの選手ですので、ポジションごとの仕事内容やルールを知らないような人は存在しないわけです。

 

 他のポジションはさておき、僕の担当するランニングバック(RB)は運動神経の質が高く、敏捷性や瞬発力にも優れ、全てのプレーでタックルされ地面に倒されるまで全力で走り続ける体と心のタフさが要求されます。

 セットプレーでのインテリジェンスやリーダーシップは得意でなくてもやっていけます。

 

 しかし、電通キャタピラーズは社会人のトップリーグではなく、2番目のディビジョンですから、上を見ればまだまだ多くのチームや選手が存在しています。

 そこに向かって追いつき追い越せと頑張りたいと手を上げて入団してくれた「猛者」に、試合で活躍するための考え方と練習の仕方、そしてゲームでのプレー方法を時間のある限り指導しています。

 

 チームの内部情報などではありませんし情報管理面で問題ないと思いますので、先日の練習後に選手に話した内容をここに書きます。

 「過去に学んだり経験してきた〝常識〟を覆そう」がメインテーマです。電通キャタピラーズには大学時代から指導している選手もいますが、高校時代に染みついた成功体験が少し残っていたりしますので、過去を抜き取るのはなかなか難しい作業であることは僕も既に学習済みです。

 これは多くのコーチの方(大物も含む)も同じようなご意見をお持ちのようで、僕だけの考えではありません。

 

 例えばこんなプレーがありました。ランで右に展開するオープンプレーです。ライン・オブ・スクリメージ(LOS)の向こう5ヤード付近には等間隔でRBを追い詰めようとする守備選手が3人と、自分を守ってくれる仲間が一人います。

 3対2の状況で少し不利な状況で、ボールを持って右に走るランナーはサイドラインの方へ走って行き、少しロスした地点で集まってきた守備選手にあっさり止められてしまいました。

 

 こういったよくある場面での判断では、上記のように外側(サイドライン側)に逃げれば1秒か2秒ほど時間を作ることができます。

 忙しく慌ただしいプレー中に安心する時間が1秒も2秒も稼げるので、日本のRBのほとんどは外に向かって逃げるのが大好きです。

 社会人リーグでプレーする前はその方法でも守備のレベルもあってゲインできていたのでしょう。これは僕のコラムで何度も書いていますよね。

 

 そんなRBばかりなので、守備選手もサイドライン方向に逃げようとするランナーを追い詰めて仕留めることに慣れています。みんなとても上手です。

 なので、ボールキャリアが勝つのは味方の超ナイスプレーがなければ非常に難しいのです。

 でもプレー中は必死なので、敵の人数が少なく見えてしまうサイドライン側(見る方向がちょうど90度間違っている。そもそもそんなところに敵はいません)に向かって逃げてしまう。

 

 「これを変えよう!」と指導を繰り返しています。僕の言うことを信じて練習してくれる選手は、次のプレーでサイドラインに逃げる作戦を安易に使うことを思いとどまってくれます。

 しかし、社会人選手はプレー年数もプレー経験も多いので、その分良い部分と悪い部分の両方でたくさんの癖を持っています。

 

 取り囲まれているような気がしたら、とりあえずやみくもに逃げ惑うのではなく、チャンスをうかがってエンドゾーンに向かって切れ上がる。

 前方からのタックルがどんな形で来るか見えているのだから、もしかしたらタックルが外せるかもしれない。

 タックルされたとしても、味方のベンチが残念な気持ちなるような仰向けに倒されるようなロスにはならないし、守備側も今のタックルを外されていたら大きなゲインにつながった危ない危ないと、中に切れ上がってくるランプレーに今までよりほんの少し注意を払うでしょう。

 

 そうなれば、愛してやまないサイドラインへの追いかけっこが、ほんの少しではあっても中へのキ切れ上がりをチェックしてから始まりまるので、勝機があるかもしれないのです。

 しかしそれでも、まだ「敵がいっぱいいるじゃないですか」という声が聞こえてきます。

 

 そこで「なぜ切れ上がらなかったの?」と尋ねると「そこに行くとタックルされると思った」との答えが返ってきます。

 タックルされていないのに、タックルされると思わなくていい。初めてのこと、無理だなと思うことは、やってみるしか上達の方法はないのです。

 

 今回の例はやってみないと結果がわからないバージョンなので、試さないといけません。RBというポジションが直面する状況は、あらゆるスポーツの中でも類を見ない「敵が複数いる不平等な格闘技」の世界なのです。

 

 失敗したり敗北したりは結果として表れます。練習で失敗してボロボロ、ヘトヘトになって事情を知らない他のポジションの選手たちから笑われたり叱責されたりすることもあるでしょう。

 でも、RBをプレーする選手はよく考えましょう。練習で挑戦を繰り返し失敗してずっこけるのが恥ずかしいことでしょうか。違いますよね。

 なので、とにかく「やってみなはれ!」。

 

 試合であなたのプレーを見に来たチーム関係者、家族やファンがあなたの活躍や仕事ぶりへの期待を裏切ることこそ、競技スポーツマンとして最も悔しいのではないでしょうか。

 そのための努力を怠ることがよくないのです。今回の事例であれば「単なる間違った思い込み」で自らの成長を阻んでいることを理解しましょう。

 考え方を正しい方向に修正して実行してみれば、今まで見えなかった景色が開けてくるはずです。