「強い走り」を体得せよ それはNFLのRBが備える基本的アビリティー

2022年08月18日
共同通信共同通信
中村 多聞 なかむら・たもん
NFLのRBには「強い走り」という共通の才能が備わっている(AP=共同)
NFLのRBには「強い走り」という共通の才能が備わっている(AP=共同)

 

 どんなことでも「できない」のならば「できるようになるまで」努力や工夫をしなければなりません。これは、僕が普段指導しているのはランニングバック(RB)の基礎技術と考え方と心構えです。

 

 インターネットで「目的を達成するためには」と検索しいくつかを読んでみると、素晴らしい手法がたくさん書いてあります。

 ビッグゲームで勝つにはどうすればいいのか。英語のテストで高得点を取るにはどうすればいいのかといった、それぞれの目標に向かっていく方法が紹介されているいます。

 「そりゃそうだ!」と納得のいくことばかりで、とても感心しました。

 

 有名になるとかスターになるとかの夢を持ち、RBとして技術を高め成長していくという目標を立てたら、後はどうやって進めていくかですよね。

 それはまあそうなのですが、今までちゃんとした基礎を習わず自己流である程度自信をつけたり結果を出した人でも、ほとんどの日本人RBにはできないことがあります。それは「強い走り」です。タックルに負けない強い走りです。

 

 多くのRBは相手から逃走するか捨て身でぶち当たるかで戦ってきていて、戦う土俵というかレベルが高くなればだんだん通用しなくなる走りです。

 足が速ければ、中高生レベルの守備なら触られもせずにタッチダウンできるでしょう。

 大学でもかなり高いレベルのリーグでなければ激突などせずヒラリヒラリと蝶のように舞う気分で相手を避けてこられたかもしれません。また避ける気もなく、とにかく姿勢を低くして当たっていけばある程度はゲインできると思います。

 

 でもどこかで自分の限界がきます。その限界がこない人が最高峰のNFLで活躍しています。

 ですから現在日本でプレーしている人は限界がきている人がほとんどだと思います。もちろん現役バリバリで自信満々だった過去の僕も、限界という壁に阻まれました。

 

 スピードがあり、逃げ足が速いことはRBとして必要不可欠な〝性能〟です。

 セットプレーを完璧なものにするインテリジェンスも必要でしょうし、パスを捕球する能力も高くなければなりません。こちらに関してはほとんどの皆さんはある程度できているでしょう。

中村多聞さんの指導の下、坂道をダッシュする京大の選手=中村多聞さん提供
中村多聞さんの指導の下、坂道をダッシュする選手=中村多聞さん提供

 

 問題は強い走りです。何秒以内とかのように数値化できない謎の言葉であり謎の世界なので、志の高くない人は残念ながらこの時点で脱落します。

 強い走りって何やねん? それは曲がる止まる加速するが自由にできる走行状態とでも言いましょうか。

 曲がる時、止まる時にタックルされたらとても弱いのが普通の走り方です。しかし強い走りはそんな時もタックルに強いのです。

 ほとんどの人が考えたこともない領域でしょうから「何を言っているの?」と思われることでしょう。

 

 しかし残念ながら、僕の知る限りNFLのRBは全員この強い走りを披露して活躍しています。

 何がどう違うのかは「タモン式」の指導者から直接習っていただくしかないのですが、とにかくこういう皆さんがあまりご存知ない「強い走り」というのがあって、それがとても重要なのです。

 今回は、その方法の説明や解説ではありません。この謎めいた技術をマスターするとはどういうことなのかを、下手な説明ですみませんが例を挙げて順に話していきます。

 

 技術には「一度マスターしたら以後は絶対成功するバージョン」と「一度や二度できてもマスターしたとは言えないバージョン」があると思います。

 皆さんも子どもの頃にご経験があると思いますが、補助輪なしの自転車に最初は乗れなかったはずです。鉄棒の逆上がりはどうでしたか? 練習して(させられて)だんだんできるようになったというよりは、全くできない状態が続く地獄の時間を経ていたら、突然成功しましたよね。

 その後も続けていると、成功する回数が多くなってきます。逆上がりは体力が落ちるとできなくなっちゃいますが、大抵一度できた人は今でもできると思います。

 他にも、ローラースケートやスケートボードも最初は全くできませんし、一輪車もそうです。

 フラフープ、暗算、縄跳びの2重跳び、皿回し、難しめでいくと自転車やバイクのウイリー。最初は全くできないのに、ある瞬間を境にできるようになったものばかりではないでしょうか。

 

 また「一度できても次もできるかどうか分からない」ものとしては、レシーバーがこぞって練習している「ワンハンドキャッチ」がそうでしょう。つかんだと思っても、ボールを落としてしまう確率は高いですよね。

 また、スピード競技で自己ベストのタイムを毎回更新できないでしょうし、相手との関わりのあるタックルやパンチなども毎回決めることはできません。

 

 強い走りですが、これは前者の「一度できるようになれば次から絶対できるバージョン」なのです。

 例に挙げた補助輪なしの自転車に苦もなくサラッと乗れなかったし、ある程度の練習時間や失敗を経験しないと成功しません。

 成功しないまま挫折して「もうイヤ!」なんて言ってサポートしてくれる親御さんを困らせることもあったかもしれませんが、RBにおける強い走りは簡単な技術ですのでまともな運動神経があり足の速さには自信がある全国のRB諸兄にとっては、すぐにできるようになる技術だと思っています。

 ある日ある時急に成功するのです。「あ、タモンコーチの言っているのってこの感じか!」と。

 

 そうなればもうその日から強い走りでしかスクリメージを走れなくなります。ここがタモン式のスタート地点となります。

 サーフィンで言えば、ボードの上に立てるようになったところから競技としてのレベルアップを目指せるのと同じです。

 

 強い走りとは曲がる止まる加速するが自由にできる走行状態ですので、守備選手11人の位置や動きをどのように観察し、どのように対処するかはタモン式では一通り決まっています。

 後はそれを知識化して瞬時に引き出しから出して使えるように練習していけばいいわけです。これだけそろえれば、自分と同レベルの相手であれば大抵どうにかなります。

 

 固定概念を全部捨て、フレッシュな頭で挑戦していればすぐに身につきます。自転車の練習で既成の概念による固定観念ガチガチの子どもなんていませんからね。

 指導すれば最短でその瞬間にできるようになった人もいますし、複数年かけてもマスターできなかった人もいます。

独特の指導法で選手を鍛える中村多聞さん=中村多聞さん提供
独特の指導法で選手を鍛える中村多聞さん=中村多聞さん提供

 

 すぐにできなくても、諦めずに週に何度も練習すればある日突然世界が変わります。

 敵や味方がうじゃうじゃいる密集地帯を切り裂き、タックルしてきた相手をはじき飛ばし、チームメートの笑顔やスタンドからの歓声を得る快感が欲しければできるようになるしかありません。

 

 自分が楽しく気持ちよくやっていれば「それが努力」だと勘違いしている人が増えている時代です。

 トラディショナルな方法で走りの基礎を体得し、スターになってチヤホヤされる未来を目指しましょう!