「10番をつけたい」 日大2年生QB金澤檀

投げたパスはインターセプトされ、自らボールを持って走ればサックを受けて後退する。
5月22日、東京・アミノバイタルフィールドで行われた中大戦。先発した日大の2年生QB金澤檀(かなざわ・まゆみ)のスタートは、散々だった。
新チームになってからの日大は、勝負に対する執着心が感じられず、2週間前の明大戦は6―20。内容的には完敗で、よくこの点差でおさまったという低調な出来だった。
明大同様、関東大学リーグ1部TOP8のライバルである中大との試合も、序盤に0―10とリードされた。
しかし、ここからがこれまでの「フェニックス」とは違っていた。この試合を任された金澤を中心に、丁寧なオフェンスで得点に結びつける。
金澤自身も、スクランブルやキーププレーでゲインを重ね、要所でレシーバー陣にTDパスを投げ分けた。
「出だしはいつもの調子の悪い自分だったが、その後はいろいろ試しながらいい感じでドライブできた」と金澤は振り返った。
ぎこちなく見えたスクランブルが、走る度にさまになっていった。練習ではなく、試合だからこそ身につくことがある。
試合中に成長していく様子がはっきり見てとれる。若さとは、そういうものだ。
東京・駒場学園高時代は、それほど走れるQBではなかった金澤だが「自ら走ってゲインできれば、自分も楽になるしプレーの選択肢が増える」と、手応えをつかんだようだ。
おっとりした語り口の青年が、これだけは譲れないと言いたげに発した言葉がある。
「日大のQBになったからには、10番をつけたい」
ただ、そこに行き着くまでにやるべきことがたくさんあることも分かっている。
日大の10番は、誰もが知るフェニックスのエースナンバーである。歴代の10番は、果敢にダウンフィールドを駆け上がり、オフェンスのリズムを作ってきた伝統は金澤もよく知っている。

今年のチームには5人のQBがいて、スターターの座を争っている。その中で、一歩リードしているのが金澤だ。
目標は、高校時代に日大の練習に参加しているときから憧れていたQB林大希(2020年度卒)である。
林は1年時にフェニックスを甲子園ボウル優勝に導き、年間最優秀選手に贈られる「チャック・ミルズ杯」を獲得した。
「林さんは1年生の時から体つきが違っていて、発言力もあり存在感がすごかった。QBはチームのリーダーであるべきで、自分もそうなりたい」
今年4月に就任した中村敏英監督は言う。「金澤はおとなしいタイプ。自分がリーダーという自覚が出てくれば、いいQBになる」

中村監督とともに学生と一番近い位置にいる平本恵也ヘッドコーチ(HC)から、金澤はフィールドでの立ち姿や振る舞いについて、細かい指導を受けているという。
10番を背負った経験のある平本HCのひと言ひと言は、説得力がある。
「檀」という名前は、一級建築士の父親が尊敬する建築家にあやかってつけられた。檀はその昔、この木で弓を作ったことから由来しているという。
端整な顔立ちが印象的な好漢に、弓のようなしなやかさとたくましさが備わったとき、フェニックスの復活は現実的なものになる。(敬称略)