【編集後記】Vol.384=「ベストゲーム」

今年のベストゲームはどれかと聞かれたら、迷わず高校日本一を決める「クリスマスボウル」を挙げたい。
12月26日、横浜スタジアムで行われた全国高校選手権決勝は、立命館宇治(京都)が佼成学園(東京)に24―21で逆転勝ちし、2年ぶり2度目の優勝を果たした。
立ち上がりに14点を先行された立命館宇治は浮足立った。しかし、ここから驚異的な粘りを発揮して追い付き、試合終了と同時に36ヤードの勝ち越しFGを成功させ、劣勢の前評判を覆した。
今年の立命館宇治は不思議なチームだ。春の関西大会準決勝では、優勝した箕面自由学園(大阪)に0―30で完敗。秋の京都大会初戦では、龍谷大平安に7―6でやっとの思いで競り勝った。
攻撃の要であるQB川久保和翔選手は、平安戦後に2日間学校を休んだ。その彼を木下裕介監督はこう諭したという。
「今年のチームはお前やし、お前で駄目なら仕方がない。勝っても負けてもやり切ろう」。川久保選手は「気持ちを切り替えていけや」と言われて、吹っ切れたという。
13人しかいない3年生の選手一人一人が、強い磁力も持って下級生を引っ張った。その結果、関西地区大会では苦しい試合を一つずつものにして勝ち上がった。
子どもの頃からフラッグフットボールなどに親しんだ生徒が少ない立命館宇治では、短期間にウエートトレーニングなどで筋肉と体重を増やすことを奨励している。
それは「成長期にある2年生ぐらいまでは、体幹トレーニングが中心」(佼成学園・小林孝至監督)という佼成学園とは違う取り組みになる。
試合で21点を取る。それは今年のチームが掲げた目標である。図らずも、クリスマスボウルという大舞台で、立命館宇治はその目標を達成して同点とし、さらにディフェンスがもたらしたチャンスに3点を奪い、鮮やかな逆転勝ちにつなげた。

「生徒の成長が、こんなにもすごいということを教えられた」。穏やかな語り口が印象的な木下監督だが「引いたらやられる。先に仕掛けなさい」と、選手への指示はあくまでもハードだ。
2年前に続き、横浜スタジアムで立命館宇治に敗れた佼成学園は、試合開始のキックオフのボールが2度サイドラインを割り、計10ヤード罰退した。
それは、1週間前の甲子園ボウルで関学大に屈した法大の出だしと全く同じだった。

そのことは気にならなかったかを小林監督に聞こうと思ったが、第一声は「勝っておごらず、負けて腐らずがうちのモットーですから」だった。
いつものように率先してベンチの片付けをしている姿を見て、野暮な質問は胸にしまった。(編集長・宍戸博昭)