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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

大学生活を「1・3秒」に捧げた男 関学大OB櫻間康介さん

2021.12.27 15:13
法大と対戦した2012年の甲子園ボウルで決勝のFGを決めた堀本大輔さん(27)を祝福する櫻間康介さん(36)=関西学院大学アメリカンフットボール部提供
法大と対戦した2012年の甲子園ボウルで決勝のFGを決めた堀本大輔さん(27)を祝福する櫻間康介さん(36)=関西学院大学アメリカンフットボール部提供

 

 来年1月3日の大会から、アメリカンフットボールの日本選手権(ライスボウル=東京ドーム)は、日本社会人Xリーグの王者決定戦になる。

 社会人と大学生の実力差が指摘され続けた近年だが、学生が最も肉薄した試合の一つに、2012年シーズンのオービック対関西学院大を挙げたい。

 大学生活を「1・3秒」に捧げた男が輝いたワンシーンを振り返る。

 

 オービックが7点リードで迎えた前半終了間際、関学大は敵陣での第4ダウンでフィールドゴールの陣形を取った。「まだ前半。まずはキックで3点を優先か」

 東京ドームを埋めた観客の大半がそう思った瞬間、スナップされたボールを受け取ったホールダーの櫻間康介さんが、右腕を振り抜いた。虚をつかれた観客のどよめきの中、ボールはサイドライン際のレシーバーに向かいきれいな放物線を描いた。

 

 祖父や父親、そして兄もアメフト選手だった櫻間さんは、小学2年でアメフトを始め、小5からはQBとしてプレー。進学した関学高の同期には、関学大でもエースQBとして活躍する畑卓志郎さんがいた。

 「肩の強さも足の速さもかなわない。(QB以外で)試合に出る道を探しました」

 

 物心が付く前から手になじんだボールのハンドリングには自信があった。ホールダーの練習を始めると、大学2年以降は関学大でも珍しい専任ホールダーとして、試合の記録にも残らないプレーに徹した。

名城大戦での櫻間康介さん(36)=関西学院大学アメリカンフットボール部提供
名城大戦での櫻間康介さん(36)=関西学院大学アメリカンフットボール部提供

 

 ホールダーとしての肝は「何事もなかったようにプレーを終わらせる」こと。

 スナップされたボールをキャッチし、瞬時にキッカーの蹴りやすい向きと角度を整えてセットする。

 「(スナップからセットまでの)1・3秒間に大学生活の全てを捧げました」。就職活動のエントリーシートにそう記した櫻間さんは今、関西地方で銀行員として働く。

 

 櫻間さんはパスの選択肢があるとオービックサイドに悟られないよう、試合前のアップではキャッチボールを極力控えた。

 「スペシャルプレー」がコールされ、胸の鼓動を抑えるようにゆっくりと入ったフィールド。「ボールを投げるのは小さいころから好き。気持ちよく投げたら飛びすぎて(当時の鳥内秀晃)監督からプレー後に怒られました」

 

 練習の時よりもひと伸びしたボールは、サイドラインすれすれでレシーバーの手に収まった。

 数プレー後にチームメートがタッチダウンを奪うと、ホールダーとして再びフィールドに入り、いつものように「何事もなく」同点のキックを成功させた。

 

 「やっぱり、自分でチームを動かせるのは楽しいです」。就職後に入ったクラブチームでは再びQBとしてプレー。今はクラブのジュニアチームを指導している。

 「(身長161センチの)自分のように体が小さくても、ポジションに応じて万人ができるスポーツ」

 自身が感じたアメフトの面白さを、これからライスボウルを見て育つ世代に伝える。「アメフトとはずっと接点を持ちたい。続けていたら、良いこともありましたし」。夫人とは、クラブチームを通じて出会ったという。

西宮ブルーインズ時代の櫻間康介さん=西宮フットボールクラブ提供
西宮ブルーインズ時代の櫻間康介さん=西宮フットボールクラブ提供

 

 ライスボウルでは試合終了間際に逆転され、オービックに屈した。

 来年から新たな歴史を刻むライスボウル。花形ポジションか、それとも目立たないポジションかを問わず、選手は一つ一つのプレーに知力と体力をつぎ込んでいる。

 今シーズン、誰よりも長くフィールドに立つことを許された選手たちの一挙手一投足は、文字通り1秒たりとも目が離せない。(共同通信社大阪社会部記者・丸田晋司)

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