大学生活を「1・3秒」に捧げた男 関学大OB櫻間康介さん

来年1月3日の大会から、アメリカンフットボールの日本選手権(ライスボウル=東京ドーム)は、日本社会人Xリーグの王者決定戦になる。
社会人と大学生の実力差が指摘され続けた近年だが、学生が最も肉薄した試合の一つに、2012年シーズンのオービック対関西学院大を挙げたい。
大学生活を「1・3秒」に捧げた男が輝いたワンシーンを振り返る。
オービックが7点リードで迎えた前半終了間際、関学大は敵陣での第4ダウンでフィールドゴールの陣形を取った。「まだ前半。まずはキックで3点を優先か」
東京ドームを埋めた観客の大半がそう思った瞬間、スナップされたボールを受け取ったホールダーの櫻間康介さんが、右腕を振り抜いた。虚をつかれた観客のどよめきの中、ボールはサイドライン際のレシーバーに向かいきれいな放物線を描いた。
祖父や父親、そして兄もアメフト選手だった櫻間さんは、小学2年でアメフトを始め、小5からはQBとしてプレー。進学した関学高の同期には、関学大でもエースQBとして活躍する畑卓志郎さんがいた。
「肩の強さも足の速さもかなわない。(QB以外で)試合に出る道を探しました」
物心が付く前から手になじんだボールのハンドリングには自信があった。ホールダーの練習を始めると、大学2年以降は関学大でも珍しい専任ホールダーとして、試合の記録にも残らないプレーに徹した。

ホールダーとしての肝は「何事もなかったようにプレーを終わらせる」こと。
スナップされたボールをキャッチし、瞬時にキッカーの蹴りやすい向きと角度を整えてセットする。
「(スナップからセットまでの)1・3秒間に大学生活の全てを捧げました」。就職活動のエントリーシートにそう記した櫻間さんは今、関西地方で銀行員として働く。
櫻間さんはパスの選択肢があるとオービックサイドに悟られないよう、試合前のアップではキャッチボールを極力控えた。
「スペシャルプレー」がコールされ、胸の鼓動を抑えるようにゆっくりと入ったフィールド。「ボールを投げるのは小さいころから好き。気持ちよく投げたら飛びすぎて(当時の鳥内秀晃)監督からプレー後に怒られました」
練習の時よりもひと伸びしたボールは、サイドラインすれすれでレシーバーの手に収まった。
数プレー後にチームメートがタッチダウンを奪うと、ホールダーとして再びフィールドに入り、いつものように「何事もなく」同点のキックを成功させた。
「やっぱり、自分でチームを動かせるのは楽しいです」。就職後に入ったクラブチームでは再びQBとしてプレー。今はクラブのジュニアチームを指導している。
「(身長161センチの)自分のように体が小さくても、ポジションに応じて万人ができるスポーツ」
自身が感じたアメフトの面白さを、これからライスボウルを見て育つ世代に伝える。「アメフトとはずっと接点を持ちたい。続けていたら、良いこともありましたし」。夫人とは、クラブチームを通じて出会ったという。

ライスボウルでは試合終了間際に逆転され、オービックに屈した。
来年から新たな歴史を刻むライスボウル。花形ポジションか、それとも目立たないポジションかを問わず、選手は一つ一つのプレーに知力と体力をつぎ込んでいる。
今シーズン、誰よりも長くフィールドに立つことを許された選手たちの一挙手一投足は、文字通り1秒たりとも目が離せない。(共同通信社大阪社会部記者・丸田晋司)