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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

光るチーフスのゲームマネジメント 前評判高いブラウンズに逆転勝ち

2021.9.15 13:59 生沢 浩 いけざわ・ひろし
チーフスのエースQBマホームズ(AP=共同)
チーフスのエースQBマホームズ(AP=共同)

 

 NFLの2021年シーズンの開幕週は9月13日(日本時間14日)のマンデーナイトゲームで全16試合を修了した。

 印象的だったのはどのスタジアムでも満員に近い観客が集まり、そのほとんどがマスクをせずにかつてのようなクラウドノイズを発していたことだ。NFLではコロナ以前の「かつての日常」が戻りつつある。

 

 開幕週は早くも波乱の展開が多く見られた。引退したドルー・ブリーズの後継としてジェイミス・ウィンストンが先発QBとなったセインツは、過去2年連続でNFC決勝まで進出したパッカーズを38―3と一蹴した。

 パスの精度に課題があるとされたウィンストンは、5TDパス成功の活躍で勝利に貢献した。

課題のパスに成長の跡を見せたセインツのQBウィンストン(AP=共同)
課題のパスに成長の跡を見せたセインツのQBウィンストン(AP=共同)

 

 敗れたパッカーズは、昨季のリーグMVP、QBアーロン・ロジャーズが2インターセプトと乱調。第4Qにはベンチに下げられ、代わって2年目のジョーダン・ラブが出場した。

 ラブはこれが初の公式戦出場。不調のロジャーズに代わって出場する形にはなったが、これはすでに点差がついてしまったことが理由と考えられる。この試合だけでロジャーズからラブへのQB交代と判断するのは早計のようだ。

低調なパフォーマンスで途中交代したパッカーズのエースQBロジャーズ(AP=共同)
低調なパフォーマンスで途中交代したパッカーズのエースQBロジャーズ(AP=共同)

 新人QBジェイレン・ハーツが先発出場したイーグルスはファルコンズに32―6の大差で勝利した。

 ハーツはファルコンズのベテランQBマット・ライアンと同数の35回のパスを投げて、ライアンより六つ多い27回のパス成功で264ヤード、3TDパス成功を記録した(ライアンは164ヤード、TDな)。

 

 注目のドラフト全体1位指名のQBトレバー・ローレンスは、ジャガーズの先発としてNFLデビューを果たし、3TDパスを成功させる一方で3インターセプトも喫してプロの洗礼を浴びた。試合はテキサンズに21―37で敗れた。

NFL公式戦初先発でチームを勝利に導けなかったジャガーズのQBローレンス(16)(AP=共同)
NFL公式戦初先発でチームを勝利に導けなかったジャガーズのQBローレンス(16)(AP=共同)

 

 第1週の試合で興味深い結果となったのがブラウンズ対チーフスだ。結果は33―29でチーフスが勝った。

 ブラウンズは第4Q残り約7分まここ2年スーパーボウルに出場しているチーフスに対してリードを奪っていたが、最後に逆転された。

 チーフスの試合巧者ぶりが際立った試合でもあった。

 

 ブラウンズはRBニック・チャブやWRジャービス・ランドリーのランなどで第2Qには15―3のリードを奪い、前半は22―10で折り返した。

 昨年18年ぶりにプレーオフに出場して宿敵のスティーラーズを破ったブランズにとって、今季はさらなる飛躍を期するシーズンだ。

 前評判も高く、今季初戦でチーフスを破ればスーパーボウル候補として注目度も上がることは間違いなかった。敗れたものの「今年のブラウンズは強い」と印象付けるには十分だった。

 

 しかし、終わってみればチーフスの逆転勝ちである。ここに、チーフスのゲームマネジメントの巧みさが見て取れる。

 パトリック・マホームズが先発QBとなる前から、チーフスはプレーオフには出場していた。

 だが、プレーオフでは善戦しては敗戦の繰り返し。マホームズが正QBとなってからも、最初のシーズンはQBトム・ブレイディ(現バッカニアーズ)率いるペイトリオッツに苦杯をなめさせられた。

 その翌年の2019年シーズンにはスーパーボウルで優勝。昨年はスーパーボウルでブレイディのバッカニアーズに敗れたものの、そこに到達するまでの過程で多くの困難を克服してきた。

 その中で培ってきたゲームマネジメントが、このブラウンズ戦でチーフスに勝利をもたらした。

 

 では、具体的にどういう点でチーフスのゲームマネジメントが優れているのだろうか。まずはブラウンズに連続得点を許さなかったことだ。

 連続得点、すなわち自チームが得点することなく相手チームが得点を重ねることを許せば2連続得点で最大16点(2TDと2回の2点コンバージョン成功:8×2=16)の差がつく。

 逆にそれを許さなければ点差は最大でも5点(相手のタッチダウン+2点コンバージョンと自チームのFGの差:8-3=5)だ。

 この日のチーフスはブラウンズに先行される展開の試合を強いられたものの、最低でもFGの得点ドライブを成功させることで得点差を12点以下に抑えた。

 ブラウンズの得点を7点に抑えた後半は、2回の連続得点をマークして逆転している。

 

 相手のリードを広げさせずに終盤まで持ち込み、一気に勝負をかける能力は攻守およびスペシャルチームの安定したパフォーマンスが不可欠だ。

 マホームズがエースQBとなって以来、幾度となく厳しい展開の試合を経験してきたチーフスだからこそ可能なゲームマネジメントなのである。

 

 次にターンオーバーがなかったこともチーフスの優れた点だ。ターンオーバーは相手にポゼッションを譲ることを意味するので、失点する機会が広がる。相手に連続得点のチャンスを与えることになるのだ。

 逆に守備陣がブラウンズからファンブルリカバーでポゼッションを奪い取った。これも逆転勝利の一因だ。

 

 最後にディフェンスの改善をあげておきたい。前半はブラウンズのラン攻撃に対応できなかったディフェンスは、後半では1TDに抑えることに成功した。

 ディフェンスが後半に改善されなければチーフスの逆転勝ちはなかった。

 

 チーフスはマホームズを筆頭に運動能力に優れた選手が多い。アンディ・リードも百戦錬磨の名HCだ。

 だが、チーフスの強さは選手の能力やHCの采配だけではない。

 第4Qが終わった時点で1点でも勝っていればいいという観点に基づいたゲームマネジメントが確立されていることが彼らの強みなのだ。

 

 NFLに限らず、アメリカンフットボールのHCたちはよく「試合の最後のプレーまで闘い抜く」といった主旨の言葉を使うが、これは最終プレーが完結した時点で1点でも上回れば勝ちという当たり前でありながら実現の難しい心理を突いた言葉だ。

 それを体現できるチーフスはやはり強い。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。英字新聞ジャパンタイムズの運動部長を経て現在は日本社会人アメリカンフットボール協会の事業部広報兼強化部国際戦略担当。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。大学時代のポジションはRB。日本人で初めて「Pro Football Writers of America」の会員となる。

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