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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「フェニックス」に思いを残して 任期終え退任する橋詰功日大監督

2021.8.31 12:03 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
インタビューに答える橋詰功日大監督=東京・桜上水の日大グラウンド
インタビューに答える橋詰功日大監督=東京・桜上水の日大グラウンド

 

 日大アメリカンフットボール部の橋詰功監督(58)=立命大OB=が、8月いっぱいで退任する。

 2018年5月。関学大との定期戦で起きた「危険な反則タックル問題」で揺れた名門チームの立て直しを託された橋詰監督は、公募に応じた候補者の中から選ばれ同年9月1日付で就任、東京・桜上水の練習場内にあるクラブハウスに住み指導に当たってきた。

 大学側と結んだ3年の契約期間の延長を希望したが受け入れられず、後任との引き継ぎもできないという異例の状況で「フェニックス」を去る。

 

 リーグ戦への出場資格停止。関東大学リーグ1部上位TOP8からの降格。そして1部下位BIG8からの出直し。

 数々の試練を乗り越え、昨シーズン3年ぶりに日大を甲子園ボウル出場に導いた橋詰監督が、教え子とフェニックスへの思いを語った。(聞き手・宍戸博昭)

 

 ▽響かなかった言葉

 監督に就任した当時、こんなチームを作りたいというものはなかった。日大は「学生が頑張っているチーム」という認識だった。それは(母校の)立命でコーチをしている時と変わらなかった。

 秋のリーグ戦に出られなかった2018年の4年生には、最初のミーティングは全員が参加してほしいとお願いした。

 「試合がなくても、フェニックスというチームを作るという思いは同じだ」と話したが、残念ながら4年生の心には響かなかった。残ってくれたのは、主将をはじめほんの一握りの学生だけだった。

秋のリーグ戦に出場できなかった2018年シーズンの日大の主将を務めた徳島秀将さん
秋のリーグ戦に出場できなかった2018年シーズンの日大の主将を務めた徳島秀将さん

 

 ▽スターQBとの確執

 僕が来た当初、ライスボウルでけがをしたQB林(大希=1年だった2017年シーズンに年間最優秀選手に贈られる「チャック・ミルズ杯」を獲得)は練習に参加していなかった。

 林が練習に出てきて、彼を特別扱いしている雰囲気を感じてこれはよくないと思った。

 林を最初に叱ったのは、彼が練習でパスをインターセプトされた時。インターセプトした守備の選手に激しく当たったことをとがめた。

 普通なら、そんなことがあれば学生同士でもめるはずだが、誰も何も言わない。「林だからいいんだ」というムードは変えなければいけないと判断し、厳重に注意した。

 林としては「こんな練習で勝てるのか」という思いでフラストレーションがたまっていた。違うことをやれと言われて、これまでやってきたことを否定されたと思ったのだろう。激しく反抗してきた。

 想定はしていなかったが、あり得ることだと覚悟はしていた。ただ、僕は林を「こう使おう」と決めていなかった。これが結果的によかった。

2017年の「甲子園ボウル」で優勝し、1年生でチャック・ミルズ杯を獲得した林大希さん(10)
2017年の「甲子園ボウル」で優勝し、1年生で「チャック・ミルズ杯」を獲得した林大希さん(10)

 

 ▽練習で鍛えて試合で発揮する

 2019年シーズンから(1部下位)BIG8でリーグ戦に復帰した時、試合をしていない不安はあったが、自分には試合経験でチームを作ろうという考えがない。練習で鍛えて試合で発揮することが大切だと思っている。

 初戦の青学大との試合で大勝したのは、自分たちのプレーをした結果。覚えたことはちゃんとできるんだなと感じた。

 BIG8の1位を懸けた桜美林大との試合は、根拠はないが負ける気はしなかった。

2019年シーズン、1部下位BIG8で1位になり1部上位TOP8昇格を決めた日大の4年生たち=横浜スタジアム
2019年シーズン、1部下位BIG8で1位になり1部上位TOP8昇格を決めた日大の選手たち=横浜スタジアム

 

 ▽「彼らは今、どう思っているのか」

 甲子園ボウルで関学に負けて、まず頭に浮かんだのは2018年の4年生のこと。それ以外は、なんだかんだ言っても楽しい思い出が多かったので「彼らは今、どう思っているのか」と考えたら泣けてきた。

 僕が教えた3年間で、それこそ林が〝いい子〟になったように学生一人一人が変わっていった。

 みんなで一つになってチームとして目標に向かっていく。そういうことを教えられるのがフットボールという競技。人を育てる。それが一番大切だと思う。

 ただ、関学に勝とうというなら、もっとやらないといけない。監督に就任したときに「チームを立て直すには5年はかかる」と言ったが、林のような選手がいなくなった今年、何とかごまかしてでも勝てたら次へのいい流れができるのだが…。

2020年シーズン、3年ぶりの「甲子園ボウル」出場を決めて喜ぶ日大の選手たち=アミノバイタルフィールド(撮影:岡野将大)
2020年シーズン、3年ぶりの「甲子園ボウル」出場を決めて喜ぶ日大の選手たち=アミノバイタルフィールド(撮影:岡野将大)

 

 ▽唯一最大の目標は甲子園ボウルで勝つこと

 僕が学生に言い続けてきたのは、甲子園ボウルに出て勝つことが唯一最大の目標で、それをかなえるためにはどうしたらいいか考えようということ。

 例えばフィジカル面の向上。試合直前までに作り上げて、試合で発揮する。それができるようにもっていくことが、僕の仕事だった。

 危惧しているのは来年のためのリクルートができなかったこと。辞めていく人間が高校生のリクルートを進めるのは難しい。

 リクルートの重要性を大学と相談したが、これまでのような成果は出なかった。来年以降しばらくは厳しい戦いとなる。立て直すには大変な作業が必要になり、時間もかかるだろう。

 充実した施設が整っていて、フェニックスほどフットボールをする環境に恵まれているチームはない。3年間でそれを実感した。

春の法大戦、サイドラインで話をする橋詰功監督(左)と林大希コーチ=5月16日、富士通スタジアム川崎(撮影:横田航洋)
春の法大戦、サイドラインで話をする橋詰功監督(左)と林大希コーチ=5月16日、富士通スタジアム川崎(撮影:横田航洋)

 

 ▽「日大式」ではなかったから?

 今後のことは、退任してからゆっくり考えたい。日大に来たのは偶然で立命でコーチをしたのもいわば〝事故〟のようなものだった。ありがたい話ばかりではあるが。

 まだまだやり残した部分はある。でも、僕の契約が延長にならなかったのは、やり方が「日大式」ではなかったから、ということなのかもしれない。

 大学から契約を延長しないという連絡があったのは、甲子園ボウルで関学に負けた翌日だった。

 ▽スタッフに恵まれた3年間

8月の休養日に橋詰功監督(中央)は支えてくれたコーチングスタッフと高尾山に登った
8月の休養日に橋詰功監督(中央)は支えてくれたコーチングスタッフと高尾山に登った

 日大のOBコーチをはじめ、スタッフに恵まれた3年間だった。彼らには本当に感謝している。

 僕の日大での仕事は一区切りだが、フェニックスはこれからも学生フットボール界のフロントランナーとして走り続けなければならない。

 素晴らしいチームに関われたことを誇りに思い、これからも応援し見守っていきたい。(談)

 

 

(注)今季の関東大学リーグは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて1部上位TOP8の秋季リーグ戦の開幕が、当初の予定から1カ月遅れの10月2日に延期となった。

 今季は昨年同様、8チームをA、B2ブロックに分けてリーグ戦を実施し、両ブロックの同順位同士による順位決定戦を行う。

 Bブロックの日大は、2年続けて関東のライバル法大と10月3日の初戦で顔を合わせる。

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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