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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

熱中症対策で差をつけろ! 大切なのは十分な水分補給

2021.7.22 12:55 中村 多聞 なかむら・たもん
アサヒ飲料時代、夏場の練習で水分を補給する中村多聞さん=中村多聞さん提供
アサヒ飲料時代、夏場の練習で水分を補給する中村多聞さん=中村多聞さん提供

 

 いよいよニッポンもフットボールシーズン開幕に向けて動き始めました。

 今年度の日本社会人Xリーグは、新型コロナウイルスの感染防止対策を十分にした上で、全日程の開催を目指しています。

 昨年度は勝ち残ったチームだけがご褒美の試合があって、負けたチームは下に落ちることもなく試合を消化しただけでした。

 今季は例年同様、遠征あり、WEB放送ありのノーマルなシーズンになることを祈っています。

 

 ライスボウルには出場できない、ワンランク下のエリアリーグに所属し、今シーズンから僕がコーチをしている「電通キャタピラーズ」も始動しました。

 ナイスなタイミングで梅雨が明けて、ビックリするほど太陽が眩しい完全な夏です。

 

 昨年度からほとんどのフットボールチームは水分補給用のスポーツドリンクなどをチーム単位で不特定多数が飲むボトルやウオーターサーバーを置かず、個人個人で水筒やペットボトルをそれぞれ自分で家から持ってきてそれだけを飲むというスタイルで、感染予防に努めています。

 ですから、途中で水がなくなってしまう選手が多数出ます。途中でなくならないために取れる作戦は2種類あります。あまり飲まないようにするか、たくさん持ってくるかですね。

 水を多く飲める選手であれば、夏の練習だと1日に6から10リットルを摂取します。少ない人でも2リットルは飲むでしょう。

 

 しかしこれは、水分補給に特化したサポートがある場合です。スポーツドリンクの味をキープしたり、氷で冷たさを維持したり、移動し続けるいろいろな練習でもすぐに手元に運んでくれる人たちがいてこそ可能なのです。

 でも、自前のボトルであればそれらを全て自分でやらねばなりませんし、水を運んだり取りに行ったり冷やしたりする時間までコーチは考慮してくれません。

 水分不足の中、選手は久しぶりのハードな運動をよく頑張っていました。いやー大変そうです。

 

 コーチの僕は水を持っていく必要があることなどオフ期間を挟んでいたので、すっかり忘れています。

 手ぶらで練習場へ行き、暑い中をまあそれなりにいつも通りに優しく慈悲と愛に満ち溢れた指導をしていますと、手首から先がビリビリ痺れてきました。

 暑くて体力的にもしんどかったのですが、かなり気合を入れておかないと意識もどこかへ飛んでいきそうです。

 汗は止まり、体が急に風邪をひいたようにだるくなり力を入れられません。歩くのも苦しい状態になってきても、とにかく飲み物の共有は禁止ですので誰かから恵んでもらうこともできません。「ちょっとお水ちょうだい」が駄目なのです。

 

 この日は大量の荷物の搬入があり、スマホだけしか持たず手ぶらで来たので、現金しか使えない自動販売機で飲み物を買うことができません。

 そこでチームスタッフに借金してドリンクを1本入手。一瞬で飲み干しました。しかし10分経っても回復しません。

 これは本格的にマズいなと思い、練習グラウンドから200メートル離れた場所にあるコンビニに行き、たっぷり糖分の入ったジュースを一気飲みしました。

 かろうじて笑顔でいられる程度には回復しましたが、元気がぜんぜん湧いてきません。

 

 子どもの頃から「熱中症」は100回以上経験しているので、まあいつものことだと大量にジュースを飲めば解決するのですが、スポーツ経験の少ない人は大変でしょうね。

 久しぶりに体を動かす選手たちもおおよそ同じだろうと、急遽強度の低い練習メニューに変更せざるを得ませんでした。

 

 そこで熱中症とどう戦っていたいのかを思い出してみました。日本フットボール界でも熱中症という病名は少なくとも1990年代の前半には存在していませんでした。

 今で言う熱中症でダウンした選手は軽蔑され、根性で起きろと言われた時代です。

 70年代後半から水は自由に飲んでもよくなってはいましたが、上手で強い選手は決して熱中症になどなりませんでした。

 「暑いだけで倒れてしまうような選手は勝ち残れない」という法則は、勝負の世界ですから今も昔も関係なく存在していると思います。

 

 熱中症が認知されていなかった時代、僕はまだ下っ端でしたし失敗や課題も多く、やり直しやり直しの練習が続きますから、諸先輩が休憩時間になっても僕は1分ほど余分に居残り練習をして、水が飲めるほどの時間がもらえずに次の練習が始まってしまうという繰り返しでした。

 帰りの車の中ではグッタリとなっています。当時は、元気回復のために自由にジュースが買えるほどお金も持っていませんでしたから苦労しました。

 

 サンスター(現エレコム神戸)に移籍すると、環境はガラリと変わり水、お茶、スポーツドリンクの3種類がしっかり冷えた状態で潤沢に供給されました。

 補欠でもレギュラーのスター選手でも水分補給の権利は平等。これなら熱中症になりようがありません。

 誰よりも暑がりの僕でも、暑い夏の昼間だろうがピンピンしていました。天然芝だったのもありますけどね。天然芝は人工芝に比べて比較にならないほど涼しいですからね。

 

 NFLパッカーズの練習に参加したときのことです。本拠地のランボーフィールドに行くと、それまでより更にグレードが上がります。

 3種類の冷たいドリンクは同じですが、お茶の代わりにかの有名な「ゲータレード」がボトルのままでもらえるのです。

 アメリカに詳しい人は分かると思いますが、ゲータレードは味の種類がとても多くあります。

 先日ネットでゲータレード社のカタログを調べてみたところ、現在でも20種類のフレーバーが用意されていました。

 分かりやすいものだけでも、ブルー、グレープ、チェリー、トロピカル、ライム・青リンゴ、レモンライム、シトラス、マンゴー、苺スイカ、激しい苺、苺、苺ラズベリー、フルーツパンチ、パンチベリー、オレンジとありました。

 いずれも色がとてもきれいで、一気に飲むために口径の大きい350ミリリットル程度のペットボトルです。

 

 すごい人数のチームスタッフが常時12本のボトルを両手に持って、練習フィールド内を移動しています。

 今日はまだ飲んでいない色を狙って選手同士静かな奪い合いです。「おい、俺のオレンジとブルーを交換してくれよ!」みたいな感じです。

 電動ポンプ付きのタンクからは、凍っているように冷たい水も飲み放題です。まったく同じ温度のスポーツドリンクも飲み放題です。

 どんなに気温が高くハードな練習をしても、熱中症になどなりません。

 

 そうなのです。熱中症との戦いに勝つには、美味しく冷たいスポーツドリンクをもう飲めませんというほど飲んで練習する。これに尽きます。

 コロナ禍の影響で、チームがドリンクを用意できない難しいシーズンですが、とにかく水やジュースを凍らせたり冷やしたりで大量にグラウンドへ持ち込むのが夏に良い練習をするための最善策だと思います。

 

 フットボールは他の競技に比べて体重の重い人が多く、プロテクターを厚着していますので、そもそも暑いし体温を逃しづらいですもんね。

 コンビニで氷を買うのもそうですし、昔ながらの「氷屋さん」から氷の塊をグラウンドに届けてもらうなど、ありとあらゆる手段を用いて選手の体に水分やその他必要な栄養を注入する方法を、関係者がそれぞれ独自の方法を考え出さないとですね。

 しかし暑いわ!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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