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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

自分の得意技で勝負しろ! RBに必要なのは「判断力」

2021.7.1 11:17 中村 多聞 なかむら・たもん
RBは状況によって頭から突っ込んで前進する技術と判断力が必要になる=中村多聞さん提供
RBは状況によって頭から突っ込んで前進する技術と判断力が必要になる=中村多聞さん提供

 

 東京都の「緊急事態宣言」が「まん延防等重点措置」に変わったお陰で、僕のお店「ゴリゴリバーガータップルーム」でも、限定的ではありますが久々にお酒を提供しても良くなり喜んでいます。

 お店の名前の後半「タップルーム」はビールの専門店という意味です。店の名前に「お酒売っています」とあるのに、売ってはならない規制はとても困りました。

 僕たち飲食店もそうですが、ビールを作っている酒蔵さんも同様にお酒が売れませんので大変だったことでしょう。

 でもまあ、これから少しずつですが夜にお客様が戻ってきてくれることを願っている中村多聞です。

 

 今回は、読者の方からいただいた質問にお答えしたいと思います。大学チームの指導者の方から届いた質問は以下の通りです。

 〈以前短期講座に参加した者です。中村さんはコラムで書いておられますし、講座でもおっしゃっていましたが、RBが守備に囲まれた時は「頭から突っ込まず自分が一番走りやすい形のまま走りなさい」ということですが、低い姿勢で当たっていくのは駄目なのでしょうか?〉

 

 僕の回答は次の通りです。長いですが、最後まで読んでください。

 駄目ではありません。これはタモン式で提唱していることですが、捉え方で解釈が違ってきてしまう代表例の一つです。

 この問題はいくつかの前提がありまして、それに該当している場合とそうでない場合では少し違ってきてしまいますので、分かりにくいかもしれませんが説明します。

 

 まず、敵に囲まれそうだったり挟まれそうだったりしたときに、横に逃げたりかわしたりすることができないシーンにおいて、対人でヒットするのはそこそこ強いという自負もあり、初級者だった大学生の僕はそういうシーンでは頭を下げて突っ込んでいき、できるだけ足を動かして少しでも前に進めるという選択をしてプレーをしていました。

 それ以外の「作戦」といいますか「方法」を知らなかったのです。それでもこれは甲子園ボウルなどのビッグゲームで、諸先輩たちが何度もやっていた動きをまねようと練習を積んで習得した「技」ではありました。

 

 その10年後ぐらいにプロのアメリカ人とフットボールをする機会に恵まれ、彼らが試合で使う「技や方法」を何百プレーと観察してきました。もちろん彼らも頭から突っ込むことはありました。現在テレビで見るNFLでも、そういったシーンは度々見ることができます。

 

 しかし、彼らは僕と違い「一択」でプレーしていません。ボールを前に進めることを仕事にしている最高峰の人たちですから、多くの選択肢から最も効果的であると「判断」して実行に移しています。

 彼らのすごさの要因である「判断力」で割り出された回答が、たまたま頭を下げて突っ込むことだったわけです。

 

 「低い姿勢で突っ込む」理由は、昔の僕の場合は単に知識がなかったからです。NFLなども見てはいましたが、実戦で使えるほど奥深く理解していませんでした。

 ただ、現代のプレーヤーが「頭を下げて突っ込む」しか選択肢がない理由は、昔の僕のように知らないからだけではないのです。これがややこしい。

 

 僕もこの数年、現場でいろんなレベルの選手にレクチャーしてきました。試合での経験や活躍の経験が豊富な選手であれば「敵に囲まれそうになった時に、頭を下げたりせずにそのまま走ってみなさい。できることならもっと加速して」と、その彼にとっての初体験を進言します。

 選手はちょっと困った顔になりますが、経験豊富ですから何度か試すうちにできるようになります。

 

 でもこれを教えてもできない人が一定数存在します。それは「痛がりで怖がりな選手」です。

 フットボールで活躍しようと思うのであれば、相手との激突は避けられないと知っているはずなのですが、とにかく心と脳で拒絶してしまうので「敵が目の前にいるのにそのままの姿勢で走っていけ」が、高層ビルから飛び降りろと言われているのと同じレベルで怖がるのですね。

 これでは高いレベルのフットボールで結果を出すことはできません。

 

 しかし、そんな気持ちが分からないわけではありません。先日のコラムでインタビューしたプロ野球を目指す早稲田大学OBの吉村優選手も、大学1年で初めて防具をつけた時「プロテクターといっても、体の一部分しか覆っていないじゃないかと驚いた」と言っています。

 初心者の目線だとそうなんだと、僕はあの時初めて知りました。その初心者に毛の生えたレベルの選手が屈強な守備陣が大勢いる所に、スピードをどんどん増した上に顔を上げて防具がついていないお腹から激突しにいくなど、できるわけがありません。

 

 ほとんどの選手がかなり嫌がる「技」ですが、守備との対戦ではとてつもなく強大な武器になるのは「スピード」です。

 最後の最後までスピードを使って相手のタックルを外してそのまま走り抜けられるかもしれないということに望みをかけるか、敵がいるから少しでも前にボールを置くために倒れるのを前提に低い姿勢で突っ込むのかを「気合」とかではなく、技として作戦として選択できるようになりましょうと言いたいのです。

 

 大抵の選手は頭を下げて突っ込んでいく練習ならどうにか形になります。しかし、上体を立てた状態で当たっていく練習は全然できません。怖いからです。

 これが怖い選手はRBをやめなさいと言いたいところですが、そういうわけにもいきませんので、コツコツ訓練していくしか道はありません。

 

 フットボールの真髄はこんなことではありませんので、ここに時間を多く割けないわけです。

 ボールを持ったRBはほとんど全てのプレーで敵のタックルを受け激突されるのですから、指示された作戦を遂行しつつ飛び出してくる敵をかわすために、自分の判断で技を出し続けないとなりません。

 怖がって心に余裕が残っていない人は選択肢など持てず、その場しのぎで「それなりに頑張るだけ」という選択をしてしまいます。

 

 だからRBの活躍を望むコーチは、そのようなことをすべて克服してもらいたいわけです。「体を立てて突っ込もう!」をしっかり強調して練習に取り組ませましょう。

 そうしないと結局「頭を下げて」の一択しかなくなり、極端な話もうそれはできるので練習しなくていいわけです。判断も覚悟もなくサラッとできるのですから。

 でも、頭から突っ込むという選択しかない場合、高いレベルのチームを打倒できるわけがないのです。突っ込むのが怖い人が「エイヤー!」と目を閉じてブルブル震えながら向かっていっても、大した脅威になりません。

 

 RBだけではなく、フットボールはいくつかのポジションを例外として、基本は格闘技です。集団でどつき合う競技です。

 相手より強い体と心を作り上げ、作戦の遂行のための偽装や嘘を自然に演出し、全てを懸けて戦う競技なのです。

 怖いからあの方法は使わない、痛いから嫌だという意見が尊重されるのか。それとも、大切な試合に勝つことが大切なのか。答えは決まっていますよね。

 

 そこで結論です。答えは「人による」です。精神的に弱い選手を試合で使わなくてはならないのであれば、時間とエネルギーを費やして強くしてあげる。いい選手がいるならば、もっと切れ味を鋭くするということです。

 要するに「選択肢を増やそう」ということです。レベルに合わせた注文をしてあげてください。

 

 頭を下げて突っ込むのも、実はとても奥が深く難しい技術が求められます。前のめりになってバランスを崩し、フルパワーで激突する直前から直後まで足を一切止めずに動かしておかなくては、全く前に進めずその場で倒れてしまいます。

 最初にちゃんとできた選手は、強かった頃の京大OBだけでした。僕自身は苦手だったので、体を立てたまま突っ込むケースが多かったですね。

 これは相手が海外の体の大きな選手だったとしても同じです。自分の得意技で勝負。そして足を止めない。難しいですよー!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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