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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

真面目もいいけど、時にはどう猛に RBは密集地帯を突っ走れ

2021.5.19 12:38 中村 多聞 なかむら・たもん
多聞コーチが指導する、XリーグIBMの練習風景=写真提供・中村多聞さん
多聞コーチが指導する、XリーグIBMの練習風景=写真提供・中村多聞さん

 

 今の時代、実際に顔を合わせなくても、ネット上である程度のコミュニケーションを図ることができるようになっています。

 固定電話にファクス、そして手紙などで連絡し合っていた時代を知っている世代には、本当に便利な世の中になりました。

 

 フットボール選手として上達するために有効なトレーニングをするにあたって、以前なら情報を得るという努力をするだけで大きなアドバンテージになったのですが、今は誰もが同じ情報量なので、どこで差をつけるかを見つけるのが大変です。

 でも、結局のところ自分でアンテナを張り巡らせてキーワードなりを探し出すという手順は、今も昔もそれほど変わっていません。

 大きな図書館や書店でせっかく良い情報が書いてある本を発見しても、それがとても高額で簡単に買えない時は、お金のない自分を嘆いたものです。

 今ならネットでサクサクと調べれば、結構な量の情報が得られます。

 

 さて今回は「真面目」について考えてみたいと思います。僕が教えているRBだけではないかもしれませんが、最近の若者は「真面目すぎる」と感じています。

 「真面目」は大いに結構だと思います。世の中をなめた言動が目立つ人もいますが、大学や社会人でフットボールをプレーしている人の中で、一時それなりのステータスがあった「元不良」はもう絶滅しているように思います。

 

 真面目はいいことです。自分の目的に向かって真摯に取り組んでサボったりしないわけですから。

 しかし、じゃあそんなに真面目な若者たちの運動能力が向上し続けているのかというと、実際はそうでもありません。

 確かに太い筋肉を持つ選手は、20年前30年前に比べて増えています。真面目にトレーニングメニューをこなし、真面目に栄養を摂取しているから成果が出ています。

 まあ人類の進化で脚が長くなっていたりとかもありますね。

 

 ですが、フットボールはここがスタート地点でありその先が大切になります。

 太い筋肉を使って何をするのでしょう。格闘技のように痛みや苦痛、時には恐怖に耐えて激突したり、難しい作戦で迷ったり間違えたりせずファインプレーに結びつける作業は毎日の厳しい鍛錬と同様非常にハードです。

 そして勝負事には「ずる賢さ」や「狡猾さ」も必要です。これは「真面目」の反対側ですので、ほとんどの若者が持ち合わせていません。

 

 大抵のスポーツは他人との接触、ましてや激突などありません。ま、少ないですよね。

 しかし、武道や格闘技だと急に「相手を倒す」となって、他のスポーツとは大きく違ってきてしまいます。

 格闘技のような、殴られたり蹴られたり投げられたり首を絞められたりなんて、有名大学でスポーツをしているような人なら通常の生活では絶対に起こり得ない、極めて非日常の世界です。

 でも、フットボールという競技でなおかつRBをやろうとなれば、フィールド上の守備選手11人がボールを持った自分を地面に倒そうとあらゆる手段を使って襲いかかってきます。

 しかも、こちらはボールを持っているので十分な受身もとれませんし、手が使いづらい分不利になります。

 

 そこで日本のRB達が発明した方法、それは「徹底的に衝突を避ける」ことでした。襲いかかってくる相手に対して、逃げるという手段だけを選択するようになったのです。

 とにかく敵の少ない場所へ向かって逃げる。幸いRBは俊足の選手が多いので、逃げ足は速いことになっています。

 人のたくさんいる密集地帯では、誰がどこからタックルしてくるか判断しにくいので、明確に人のいないい場所を探すわけです。

 

 初心者の時にこのようなレギュラー選手を見てしまったら、どうしても「それだけ」の選手になってしまいます。自身が逃げているだけのRBだという認識もできなくなります。

 こんなつまんないRBだけしかいなくなった日本フットボール界にやって来た追い風は、パス主体の「ショットガン大ブーム」です。

 もうRBは人のたくさんいる場所を無理やり走れと言われることもなくなってしまったわけです。

 ただ、現在のNFLでは半数のチームが、QBがセンターのすぐ後ろの位置する「セットバック」を使い出していますので、パスばかりのオフェンスもそのうち廃れると個人的には思っています。

 中央を走る〝RB術〟が滅んでしまったのは、何とも寂しいですね。元々それほど多くなかったインサイドランナーが、ほとんどいなくなってしまいました。

 今はエンドゾーンではなく、サイドラインに向かって走る選手ばかりです。

 

 「真面目」の話に戻りますが、「真面目」だとしてもこれだけいろんなスポーツや格闘技などの要素が詰まった複雑な競技であるフットボールの選手ですから、うまくなるには「真面目」だけでは足りないのです。

 目的を達成するために自分には今何が必要かを、広い視野と柔軟な考えであらゆる問題や困りごとに瞬時に対応する能力は「真面目」の発想では時間がかかります。

 また「真面目」は戦うことを好みませんので、どうしても発想の根幹が「逃走」になってしまいます。

 これは「真面目」ではなく「弱虫」という、戦いにおいては数段下のカテゴリーに属してしまいます。

 戦いに勝利するためには逃げの一手だけでは駄目なのです。サイドライン側に走るのか、中央突破を狙うのか、その時のベストの判断が問われるのです。

 

 身近に指導者のいないRBは、その「真面目さ」を発揮して僕のコラムをバックナンバーから全て読み返し、練習やゲームで愚直に実践してこの情報をキャッチしていない「不真面目なライバル」に差をつけてほしいと思います。

 あらゆるところに、活躍するためのヒントが出ていますよ。

 

 RBはオフェンスです。攻撃なのですから守備を攻撃しないといけません。守備の包囲網から逃げるばかりでは攻撃とは言えません。

 相手をフィールドで圧倒する。守備網を切り裂いてエンドゾーンまで走り込む。俺が活躍しまくってやる。そうした攻撃的な発想が大事です。

 フィールドに出たら、あくまでどう猛なプレーヤーって、日本のどこかにまだいてますかねー? 

 

 僕が関わっている教え子の皆さんには、ぜひそうなってもらいたいと思っています。いやホント、マジで。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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