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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

栄光と挫折に彩られた選手人生 引退発表したQBアレックス・スミス

2021.4.20 12:25 生沢 浩 いけざわ・ひろし
2018年10月のカウボーイズとの試合後、ワシントンのファンに祝福されるQBアレックス・スミス(AP=共同)
2018年10月のカウボーイズとの試合後、ワシントンのファンに祝福されるQBアレックス・スミス(AP=共同)

 

 一時は選手生命はおろか命の危険まであった大けがを克服し、昨シーズン奇跡的な復帰を果たしたNFLのQBアレックス・スミスが、来月の37歳の誕生日を前に自身のインスタグラムで引退を発表した。

 スミスは「まだ現役を続けることはできるが、16年間持てるすべてを捧げてきて、この先にどんな可能性が待っているのか楽しみだ」と前向きなコメントを投稿した。

 

 昨年はシーズン途中で復帰し、先発QBとして5勝1敗でワシントン・フットボールチーム(7勝9敗)の地区優勝に貢献した。しかし、今季の戦力構想からは外れ、チームからリリースされていた。

 その後も複数のチームからオファーは受けていたようだ。その中には今季からアーバン・マイヤー氏がヘッドコーチ(HC)に就任したジャガーズも含まれていた。

 

 マイヤーHCはスミスにとって恩師ともいうべき存在だ。ユタ大学時代に指導を受けたのがマイヤーHCで、彼の採用した「スプレッドオフェンス」でスミスの才能は開花し、2004年シーズンにはパスで2952ヤード、32TDを量産し、ランでも631ヤード、10TDを記録した。

 翌年のNFLドラフトで、スミスが49ersから全体1位指名を受けた理由はこのシーズンの活躍があったからだ。

 

 師弟コンビの復活は話題性があるばかりではなく、ジャガーズにもメリットがあるはずだった。

 ジャガーズは今年のドラフト全体1位指名でQBトレバー・ローレンス(クレムソン大)を獲得することが確実視されており、経験豊富でマイヤーHCのシステムをよく理解しているスミスはローレンスの指導役としては適任だからだ。

 それでもスミスは、現役続行以外の新しい道を選択した。常に逆境をはねのけてきたスミスらしい決断だったかもしれない。

 

 NFLに入ってからのスミスは、必ずしも順風満帆ではなかった。49ersでの最初の6年間は、毎年のように攻撃コーディネーターが交代したこともあって実力を発揮できず、バスト(期待外れ)のレッテルを張られた。

 ジム・ハーボウHCが就任したことで転機を迎え、安定した先発QBとして活躍するようになるが、間もなく身体能力に優れたコリン・キャパニックにポジションを奪われてしまう。

 

 2013年にはアンディ・リードHCに請われる形でチーフスに移籍。チームを毎年プレーオフに導くなど、おそらく彼のNFLキャリアで最も実りある時期を過ごした。

 しかし、それも長くは続かなかった。チーフスは2017年にドラフト1巡でパトリック・マホームズを指名。翌年にマホームズが正QBに指名されたため、ワシントンに活躍の場を求めた。

 

 ワシントンでは順調にスターターとして活躍していたが、シーズン半ばで右の頸骨と腓骨を骨折する重傷を負ってしまう。

 17回もの手術を受け、治療中には感染症も患って命の危険にさらされた。

 血のにじむようなリハビリの末に昨年のキャンプで練習に復帰、シーズン中に試合出場を果たしたのだった。

2018年11月のテキサンズ戦で負傷し、フィールドに横たわるワシントンのQBアレックス・スミス(AP=共同)
2018年11月のテキサンズ戦で負傷し、フィールドに横たわるワシントンのQBアレックス・スミス(AP=共同)

 

 彼のリハビリから復帰まではドキュメンタリーとしてテレビ番組で紹介され、多くの称賛を浴びた。シーズン後にはNFLから「カムバック選手賞」を贈られた。

 NFLでの通算成績は99勝67敗1分け、通算TDパス数199,生涯パサーレーティングは86.9だった。

 

 栄光と挫折が交互に訪れるようなフットボール人生だった。

 「心は引退に傾いていたが、やるべきことはすべてやりたかったし、そうしてきたことに悔いはない」と、最後まで現役続行への望みを捨てなかったことを明かした。

 その上で、あえて新しいものに挑戦する決断をしたスミスは、胸を張って静かにユニホームを脱ぐ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。英字新聞ジャパンタイムズの運動部長を経て現在は日本社会人アメリカンフットボール協会の事業部広報兼強化部国際戦略担当。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。大学時代のポジションはRB。日本人で初めて「Pro Football Writers of America」の会員となる。

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