【編集後記】Vol.359=「気分はスポッター」

写真は、昨年12月13日に阪神甲子園球場で行われた「甲子園ボウル」を上空から撮影したものだ。
関学大と日大が3年ぶりに対戦した第75回大会は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、内野を覆う芝生の準備が間に合わず、1989年以来となる芝生と土の部分が混在するフィールド設定で実施された。
芝と土のちょうど境目、日大側から見て敵陣45ヤード付近の左のハッシュマークに目をやると、日大のQB林大希選手がパスを投げようとしているのが分かる。
右に体を開いた林選手の視線の先のスペースには、日大のレシーバー3人に対して、関学大の守備選手が二人しかいないように見える。林選手が右に走っても、ある程度のゲインが期待できそうだ。
アメリカンフットボールには、試合中にスタンドの上部から戦況を分析する「スポッター」と呼ばれるコーチ役がいる。実際の角度は写真とは異なるが、おおむねこんな感じで試合を俯瞰している。
攻撃の時は相手ディフェンスの弱点を探り、守備の時は相手オフェンスの傾向などをつぶさに観察する。
スカウティングを基に、事前に準備してきた戦術を試合の流れに応じて修正し、より効果的な攻略法をサイドラインに伝えるのがスポッターの役割である。
フィールドにいるコーチとスポッターのやり取りは、NFLなどでもコアな部分は相手が傍受できないように有線にしているが、日本では無線での交信も主流になりつつある。
実際にフィールドで体をぶつけ合う選手は、冷静に戦況を見極めることが難しい。そこでものを言うのがコーチ、分析スタッフの存在だ。
アメリカンフットボールの醍醐味は、さまざまな才能を一つに結集してチームの総合力を競うところにある。
国内の試合会場では、スポッター席のそばに陣取ると、攻守のコーディネーターたちの興奮した歓声や怒号が聞こえてくることがある。
機会があれば、ぜひお試しあれ。(編集長・宍戸博昭)