【編集後記】Vol.356=「ライスボウル」

通信社に入ったばかりの頃、大学ラグビーの名門チーム出身の先輩記者にこう言われたことがある。
「京大が日本一になっているようじゃ、アメリカンフットボールは競技としてまだまだだね」
私学は何をしているのか。一理あるとも思ったが、若さも手伝いムキになって反論した。
「京大は命がけで練習しています。世の中には、勉強もできて高い運動能力を持った高校生がたくさんいます。そういう子たちが、京大でアメリカンフットボールをやりたくて入部する。だから強いんです」
1980年代と90年代は「ギャングスターズ」が学生フットボール界を牽引していた。
関西学生リーグで関学大、甲子園ボウルで日大、法大といった伝統校を破り、ライスボウルでも存在感を示してきた。
当時、監督として厳しい練習で学生を鍛え、京大を強豪に育てた水野彌一さんの指導は、徹底した反復練習で「当たる」というアメリカンフットボールの基本をたたき込み、そこにその時々のチームに合った戦術を落とし込む。
「知的根性」と表現する精神性を植え付けることで、ギャングスターズのブランド価値はさらに高まっていった。
学生と社会人の代表が日本一を争う「ライスボウル」が、来年からその姿を新たにすることになりそうだ。顕著な実力差や安全面などを考慮し、現行方式は競技力の向上という役目をひとまず終える。
ライスボウルが東西学生オールスター戦から、現行の「日本選手権」に衣替えしたのは84年。初代王者は京大だった。通算4度の優勝は、日大と並ぶ学生最多である。
思い出すのは、リクルート(現オービック)と死闘を繰り広げた97年の第50回大会だ。
京大は16―19で敗れたものの、学生でもここまでできるのかという見事な戦いぶりだった。
京大はこの年を最後に、ライスボウルから遠ざかっている。90年代に入って低迷した日大同様、独自のチーム作りが時代の変化とともに難しくなったことがその背景にある。
早い段階からライスボウルの在り方に疑問を呈していた関学大のライスボウルでの戦績は1勝13敗。「甲子園ボウル」の優勝回数を伸ばす一方で、ライスボウルでは社会人の壁にはね返され続けてきた。

学生チームとしては突出した組織力と選手の理解力をもってしても、社会人との実力差は埋めきれなかった。
というより、競技として成熟していく過程で、社会人優位の流れは当然の帰結と言った方が正しいかもしれない。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、さまざまな制約の中で行われた国内の2020年シーズンが終了した。
年度が替わる今春は、どんな状況になっているのかは想像もできないが、平時に戻り高校、大学、社会人のあらゆるカテゴリーで試合ができることを願ってやまない。
共同通信社が運営する「週刊TURNOVER」は今年、創刊から10シーズン目を迎える。
アメリカンフットボールの発展に少しでも寄与できれば、という思いで立ち上げたウェブサイトを応援してくださる読者には、あらためてお礼を申し上げたい。(編集長・宍戸博昭)