ライスボウルの行方

ライスボウルの試合前、東京ドームの一塁側ダッグアウトに座っていた関学大の大村和輝監督に、新年の挨拶を兼ねていくつか質問してみた。
「いろいろ考えているのでは?」という問いに、大村監督は「何かやらないといけないと思いますが、全部バレてますからね」と苦笑いしていた。
試合開始のキックオフ。関学大のK永田祥太郎選手の蹴った低い弾道のボールは、オービックの最前列にいた選手に当たり、幸運にもそのボールをLB都賀創選手がおさえて関学大が攻撃権を得る。

自陣48ヤードから始まった攻撃シリーズは、QB奥野耕世選手のパスとワイルドキャット隊形(WC)からRB鶴留輝斗主将、前田公昭選手らがQBの位置に入り、着実に前進する。
最後は、ゴール前10ヤードから前田選手がTDを挙げ先制点を奪う絶好の滑り出しとなった。
WCでボールをコントロールし、オービックの攻撃時間を削る作戦が機能し、前半は12―14と2点差で折り返した。
しかし後半は「地力の差が出た」という大村監督の言葉通り、パワーと経験で上回る社会人に圧倒された。

社会人と学生では、プレースピードが明らかに違う。同じ学生相手なら有効なプレーも、数段レベルの高いXリーグの選手には通用しない。
日大との甲子園ボウルでは、面白いようにゲインしていたオープンへ展開するプレーが、時間が経過すると思うように進まなくなった。
左右に動いてパスを決めたい奥野選手は激しいプレッシャーを受けて、決められたタイミングでボールをリリースできなかった。
第2クオーターの、RB三宅昂輝選手の84ヤード独走TDランなど、見せ場はいくつかあったが、今年も「善戦」の域を出ることはなかった。
本来より3分短い、12分クオーターで実施された試合は18―35。点差以上に、両者の力量には大きな開きがあった。
社会人と学生の王者が日本一を争う現行のライスボウルの試合形式は「時代の流れとともに、その役目を終えた」というのが、関係者やファンの共通認識である。
大会の意義や位置づけを再考する動きはある。関係者によれば、1月に予定されている日本学生協会と日本協会の理事会で、新しいライスボウルの姿を議論することになるという。
競技の発展を第一に考え、よりよい形に移行する動きは加速しそうだ。
一連の会議では、毎年1月3日に開催されるライスボウルを、Xリーグの優勝決定戦にする案を軸に「日本選手権」の在り方を模索することが予想される。
チームのロッカールームに近い地下にある記者室で配られた、試合結果報告書を手に出口に向かって階段を上っていると、後ろから「お疲れさまでした」と肩をたたかれた。
声の主は、オービックの大橋誠ヘッドコーチだった。
会う度にいい顔になっている大橋さんは試合後の記者会見で、関学大の健闘をたたえる一方で、富士通と対戦したXリーグのナンバーワンを決める「ジャパンエックスボウル」の方がはるかに緊張度が高いと言っていた。

ほんの数分の立ち話で、「大橋さんは、一チームの指導者というだけでなく、日本のアメリカンフットボールの将来を考える立場にあるのでは?」と尋ねると、彼はこう答えてくれた。
「日本の大学でプレーしたQBの扱いを考えなくてはいけない。そのためには、Xリーグ全体の整備も必要だと思う」
何年も前から、学生と社会人のフットボールが時代とともに乖離していくことへの対応が急務であると説いてきた大橋さんの思いに応える時期が、今まさに訪れている。