メニュー 閉じる メニュー
スポーツ

スポーツ

週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

指導はあくまで厳しく 最後まで選手に寄り添うのが多聞流

2020.12.24 12:10 中村 多聞 なかむら・たもん
座談会に集まった「タモン式」の教え子たち
座談会に集まった「タモン式」の教え子たち

 

 今年最後のコラムでございます。皆さんいつもお付き合いいただきまして、ありがとうございました。とても感謝しております。

 

 アサヒ飲料時代のチームメートである山田しんぞう(晋三)氏に誘われ、IBMのコーチとして現場に復帰して以来、5シーズンが経過しました。

 それからいくつかのチームで指導に携わり、新しく知り合った選手やコーチが多くできて、楽しい時間を過ごしました。

 

 監督、コーチ、選手、トレーナー、マネジャーとそれぞれ違った役割を持つ方達と、良好な関係になれば「ビール会議」と銘打ち、酒を酌み交わすのが僕のやり方でもあります。

 そこでは多くの会話を経て、僕という変わり者のことを理解してもらい、もちろん僕としても選手の人となりからプレーの好みやスタイルまで理解することになります。

 お酒をたしなまない人とは、カフェなどで何杯もコーヒーを飲みながら「コーヒー会議」も開催してきました。ま、お互いをよく知って仲良くやりましょうってことです。

 

 フットボールの上達に向けて選手と二人三脚でやっていく、というのが僕の主な指導スタイルです。

 希薄な関係性では練習や試合中に起こる多くの突発的な出来事や、限界を超える時の解決策を伝えきれないわけです。

 しかし、これは選手それぞれによってかける時間もエネルギーも違いますので、出来の悪い選手ほどその時間が多くなります。

 そんな感じで、ボクシングのトレーナーやセコンドのような仕事を日々やってきたわけです。

 

 やがて卒業や引退、退団などで別れる日が来てしまいます。皆さんご存知の通り、僕が携わった全てのチームはライスボウル制覇を果たしておりませんので、いわゆる「十分に満足のいく成果」でなかったわけです。少なくとも僕としてはそうです。

 勝とうが負けようが、悔いの残らない取り組みをしてきた猛者も何人か存在しますが、やはり「勝ちたかった」という思いは、選手たちの心の中に残っています。残念ですが、こればかりは仕方がありません。

 

 コーチとして彼らに関わっている時間は「勝つことこそ全て」をテーマにしていますが、フットボールを終えてからの人生の方が圧倒的に大切であることは、こんな僕でも知っています。

 学生時代なり青春時代に一生懸命フットボールに打ち込み、苦痛に満ち溢れた自分の歴史を、幸せな人生を送るためにどう使うかですもんね。

 

 過去に指導したことで知り合い、あんなに厳しくシゴキまくったのに「ビール会議をしよう」と声を掛ければ、我が家やお店に遊びに来てくれる選手もいます。

 実は、コーチをして最も嬉しいのが「会いに来てくれる」ってことなんです。中には現役生活を終えて社会に出るまでの時間を、僕のお店でアルバイトしてくれた選手もいました。

 日本のアメフト界で最も厳しい指導者の一人として誇りを持って徹底的に鍛えまくったにもかかわらず、遊びに来てくれる、会いに来てくれる、バイトしてくれる。これは本当に嬉しいことなんです。

 

 僕は彼らが成長したり上達したりを本気で願っていますし、絶対にうまくなるはずだと本人たちより信じ込んで指導しています。

 学生なら甲子園ボウルで大会記録を塗り替えるほど活躍して、日本一のランニングバックになると信じていました。だからこそ絶対に諦めたりしませんでしたし、厳しく接してきました。

 

 僕が見積もったところ、目標を達成するまでの道のりはどの選手もかなり厳しく険しいのは明確です。

 その大変さを彼らに示し、乗り越えなければならない山の大きさを認識してもらい、具体的な対策を立てる。あとは高いクオリティーを保って日々を過ごすだけです。口で言うのは簡単ですが、それはお互いに大変です。

 

 そんな彼らに「キツかった思い出は?」と尋ねれば「ずーっと途切れることのない筋肉痛」「試合へのプレッシャー」「上級生としての責任感」といった、僕がいようがいまいが関係のないことが多く挙げられてきました。

 コーチと選手という関係性がなくなっても、彼らと交流できるのは、それだけお互いが信頼し合っていたという証しだと理解しています。

 

 そこで「タモン式」門下生のみんなで意見交換をしましょうということになり、僕のお店を貸し切りにして大喜利のようなフリップに答えを書く座談会を開きました。

 もちろん、フィジカルディスタンスをしっかりキープして、新型コロナウイルスへの感染対策をしっかりした中での開催です。

 遠方からリモートで参加してくれた選手もいました。夢中になりすぎたので意見交換をしている写真はありません。すみません。

 

 「タモンさんはこんな酷かったけど、そっちはどうだった?」「俺はこんなんされた」「えっ、僕らはそんなのありませんでしたよ」などなど、5年分まとめて「多聞イジリ」をしてもらいました。

 「勝利こそ全て」の信念は持っていますが、人とのつながりがあってこその話ですし、信頼しあってそこそこ限界の向こう側まで到達した人たちだからこそ、「そんなこともあったね」と笑えるのでしょうね。

 

 そんなタモン式門下生から、これから上を目指す若い選手たちにアドバイスをもらったのでいくつかご紹介しておきます。

 他にもいい意見がたくさんあったのですが、誰にでも分かりやすいものを抜粋し以下に列挙します。

 

 ▽全てをフットボールに捧げるために必要なガッツを持つことがとてつもなく難しい。

 ▽技術云々の前に練習のどのメニューでも全力を出し、エンドゾーンを目指して走ろう。

 ▽自分は何のためにフットボールをするのかを考えよう。

 ▽毎日のやるべきことに全力で取り組むことが大切。小さなことで手を抜く人は、大きなことでも手を抜いてしまう。

 ▽無意識に自分で作ってしまう限界に気付くことが大事。

 ▽とにかく体を鍛えることと、今の環境だけで満足してしまわず上には上がいることを伝えたい。

 

 上達するための具体的な練習方法や考え方は、僕がいくらでも用意できますが、プレーする選手に本物のハートがなければちっとも前に進みません。

 教え子たちはそれを完全に理解しているようで、とても嬉しいです。あえて根性と言わず「もっと本気でやれ、ガッツを出せ! 怖がるな!」と言い続けた甲斐があったというものですね。

 

 でも、時代は流れていますので「徹底的にシゴく」などはもうやってはいけないのでしょう。僕には「指導スタイルを変える」か「コーチ活動を辞める」しか道はないのだと思います。

 

 僕としては対象の選手が満足するレベルまで上達すればそれでいいわけで、方法にこだわりはありません。

 実際に、ほとんど声を荒らげることなく指導し、見違えるほど上達した選手も存在します。目標値と現在値の隔たりというか落差がありすぎる時は、思わず大声が出てしまうようです。

 

 今後、僕の指導を受けようと思うなら、日本一の選手になるとかNFLを目指すというのではなく、それは長期的な最終目標にしておいて達成可能な短、中期的な目標を次から次へと立てた方が良いと思います。

 まずは近い目標に向かっておかないと、僕は皆さんが理解できないほどの量と質の鍛錬をつい用意しちゃうんですよ。

 

 「君、ライスボウルで相手をきりきり舞いさせてMVPになりたいんでしょう? こんなことでは、それは叶わないよ。だからもっともっとしっかりやりなはれ!」といった毎日はお互いつらいですからね。

 

 では皆さん、良い年をお迎えください。来年も「TAMON’Sスタイル」をどうぞよろしくお願いいたします!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

最新記事