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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

ライバル対決で見た「ファイターズファミリー」の底力

2020.12.14 15:36 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
自慢のスピードで日大守備陣を翻弄した関学大RB三宅=撮影:山口雅弘
自慢のスピードで日大守備陣を翻弄した関学大RB三宅=撮影:山口雅弘

 

 関西学院のアメリカンフットボールには「ファイターズファミリー」と呼ばれる、固い絆で結ばれた組織がある。

 大学だけでなく関学、系属校の啓明学院の中高を含めたフットボールを愛する人たちのあふれる母校愛と頂点を目指すための団結力の強さは、他を圧倒している。

 

 徹底した「危機管理」の意識が、対戦相手の分析から始まり実際に試合をする選手に浸透している。

 試合までのわずかな期間で対戦校を丸裸にして、確実に勝利に結びつける。

 12月13日、阪神甲子園球場で行われた第75回「甲子園ボウル」もそうだった。

 

 3年ぶり、通算30度目の対戦となった関東のライバル「赤の日大」との宿命の「青と赤の対決」は序盤から一進一退、白熱の攻防を展開する。

 関学大が先制し日大が追う。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で入場者を制限するなど多くの制約がある中で実現した大舞台で、両雄が躍動した。

 

 関学大は、日大RB陣の力強いラン攻撃に苦戦したが、第2クオーターに入って徐々にアジャストし始める。

 オフェンスは、日大の左右のCBを鈴木海斗、梅津一馬、糸川幹人といったタレントぞろいのWRが攻める。

第4クオーター、エンドゾーンで24ヤードのTDパスをキャッチする関学大WR糸川(1)=撮影:山口雅弘
第4クオーター、エンドゾーンで24ヤードのTDパスをキャッチする関学大WR糸川(1)=撮影:山口雅弘

 

 それは、NHKのテレビ中継で解説者を務めた、日本社会人Xリーグ、エレコム神戸の米倉輝監督(立命大OB)の試合前の見立て通りだった。

 

 後手に回った日大CBは、縦への脅威を感じてクッション(相手レシーバーとの距離)をとるようになる。

 その結果手薄になったスペースに、QB奥野耕世からのスイングパスを受けたスピードスターのRB三宅昂輝が走り込み、ロングゲインを重ねる。

 最前線のDL陣に比べて不安のある日大のセカンダリーを揺さぶる作戦は奏功し、試合の流れをつかむ。

 

 「三宅もすごかったが、鈴木が勝負所でいいパスキャッチをした」。今季から関学大の指揮を執る大村和輝監督は振り返る。

 今年の「ファイターズ」の看板であるレシーバー陣が、「パスの関学」らしいオフェンスをしっかり支えていた。

 分析スタッフによる細部にわたるスカウティングと、選手の高い作戦遂行能力が際立つ試合運びだった。

立命大戦でプレーを見詰める関学大の大村監督=撮影:山口雅弘
立命大戦でプレーを見詰める関学大の大村監督=撮影:山口雅弘

 

 2週間前の立命大との関西学生リーグのトーナメント決勝で、関学大は劇的な逆転勝ちを収めた。

 毎年繰り返されるリーグ内のライバルとの激戦をものにした要因は、ここでもチームとしての総合力だった。

 

 立命大戦の記者会見が終わった後、大村監督に聞いてみた。「立命との試合はいつも大変ですね?」。大村監督の答えはこうだ。「この10年、いろいろ勉強させてもらいましたから」

 鳥内秀晃前監督の下で、長くコーチとして学んできたことが、監督としてのここ一番での確かな判断につながっていると言いたげだった。

第2クオーター、パスを投げる関学大・QB奥野=阪神甲子園球場
第2クオーター、パスを投げる関学大・QB奥野=阪神甲子園球場

 

 2年7カ月たった今も、何かと取り上げられる日大との定期戦で起きた「危険タックル問題」も、大村監督は「自分たちは気にしていない。関学と日大は、長い間ライバルとして切磋琢磨してきた。学生には、青のジャージーを着たら赤には負けられへんでと言っている」

 大村監督の言葉は、逆境から這い上がってきたライバルへのエールにも聞こえた。

 

 プレーはあくまでハードに。しかし、相手を思いやる気持ちも忘れない。

 懐の深い「ファイターズファミリー」の底力を、あらためて感じさせる甲子園ボウルだった。

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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