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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

やるかやらないかは自分次第 大切なのは目標を定めて本気で取り組むこと

2020.12.10 12:29 中村 多聞 なかむら・たもん
オフの時間も教え子と共有して心構えを伝授する中村多聞さん
オフの時間も教え子と共有して心構えを伝授する中村多聞さん

 

 目標を定めてそれを目指す。この作業は小さなことや大きなことを含めて、我々は毎日のように行っています。

 例えば「会社や学校に行く」という、それほど難しいと思えないことでも、遅刻をしないためには何時に起きて準備して、時と場所にふさわしい服装で必要なものを持ち、何らかの移動手段で道に迷ったりせず目標地点に時間通りに到着する。

 服を着忘れたり、場所を間違えたりもせずほぼ正確に会社や学校に到着していると思います。これが目標を定めて目指すってことですよね。キッチリと計画を立てて、それなりのエネルギーを使って目標を達成する。

 

 僕はこれまで何人かのフットボール選手に、アメリカ人のフットボールを日本語で翻訳した「タモン式ランニングバック術」をレクチャーしてきました。

 NFLを目指す超有名選手や、人数もそろっていない高校や大学のチーム、河川敷のプライベートチーム、そしてXリーグの選手たちです。

 選手をやめて指導者になってからは、日本選手権(ライスボウル)勝利を目指す組織の選手ばかりです。

 

 「どんなトレーニングしているの? 一緒にやらせて」「40ヤード走のタイムを縮めたいので教えてくれ」「NFLコンバインでいい成績を収めるコツを教えてくれ」などと本人から依頼されます。

 この時点で、本人のやる気のあるなしはまだ分からないので、自分のノウハウを惜しみなくレクチャーし一緒にやっていこうとします。

 でもここから先は人それぞれで「手を抜いてるよね?」「一所懸命やってる?」と疑問の残る取り組みをする残念な人も散見されました。

 

 逆に「もっと教えろもっと教えろ」と毎日我が家を訪ねてくる、国内のトップ選手もいました。

 優しく分かりやすく教えていたわけでもなく、頭の中の情報を棚卸ししながら次から次へと注文をつけて訓練するだけです。

 勤めていた一流企業を退職して、米国でプロ選手を目指すのだから懸ける気持ちがすごかったですね。

 こういう人は楽をするだとか手を抜くなどという発想はなく、とにかく自分の全てを出して僕の全てを盗んでいこうとしていたように思います。

 

 その後も、友人としていろいろな人にコーチのまね事のようなことをしていましたが、どんな気持ちでこのレクチャーを受けているのか、すぐに分かるようになりました。軽い気持ちなのか、マジなのかです。

 軽い気持ちの人には気づいた時点で指導を断り、元の友人関係だけの付き合いに戻しました。食らいついてくる人には、こちらも覚悟を決め本気の本気で付き合いました。

 

 学生だと甲子園ボウルに勝つ、社会人だとライスボウルに勝つが最終的な目標でしょう。

 学生もライスボウルを目指していますが、社会人と学生のナンバーワンが対戦するという形が将来的にどうなるかは不透明です。

 

 最初の部分で書いた「目標を定めて目指す」って話ですが、現在では富士通にパナソニック、そしてオービック以外のチームがライスボウルに勝つのは難し状況です。

 通勤通学で会社や学校に到着して「目標達成」といった、比較的達成しやすいものとは全く次元が違います。

 力のないチームが強豪に勝つためには、生半可な取り組みでは不可能であることは容易に想像がつきます。

 

 チームプレーですから、自分だけがすごくても駄目なので、組織全体で間違っている部分を正したり、アライメントが間違っていないかのチェックだったり、やるべきことは無限にあるでしょう。

 体と心、そして頭を鍛えて作戦遂行力を全員が向上させ、試合ごとに何度も何度も強豪を倒していくと、ようやくその先に頂上が見えてきます。

 

 これはとても大変な作業です。想像を絶する努力の結晶が、ライスボウルや甲子園ボウルのようなチャンピオンシップのトロフィーなのですから当然でしょう。

 しかし、この「想像を絶する努力」は形があるものではありませんし、人によってさまざまな形があり、大きさも違えば重さも違うでしょう。感じ方も違います。

 

 しかし「想像を絶するイコール想像できない」では次に進めません。イメージできないからイメージしない。だから道筋をプランニングできない。これでは話になりません。

 

 例えば30キロ離れた学校に遅刻せず到着しようと思えば歩いて行きますか? 電車やそれに準ずる速度で進むものに乗って行かねば何時間もかかってしまいます。

 学校の方角を見ても遠く離れていますので肉眼では到底見えないでしょう。

 だからといって、距離を知らないままその方向に自分が決めた心地よいペースで進んだところで、道も分からなければ要する時間も把握できません。

 歩いていればやがて到着し目標は達成できるだろう。こういう考え方をする人が、実はとても多いのです。

 

 それなりに頑張っていればいずれはチャンピオンになれる。そんなわけありません。

 ゴールまでの行程をイメージして、時間と距離を正確に把握して計画を立て最速で進むことをしなければなりません。

 つまり「大会に出場してくる誰よりも」周到な準備をすることが大切なのです。それでもなかなかチャンピオンにはなれません。

 

 ここ数年、とにかく高い勝率でリーグのトップに君臨する富士通と関西学院大学が「それなりに頑張っているだけ」なはずがありません。

 グラウンドを走り回る人だけではなく、誰もが入部したくなるような組織を作り、素晴らしい人材をリクルートするなど、あらゆる分野で他をリードしていなければ勝ち続けることはできません。

 

 「勝ちたいと言うのであれば、それなりの痛みを覚悟しなければいけません。最後の瞬間まで、自分ができることを最高のレベルでやり遂げることが大切です。それがチーム全体に広がれば夢は叶うかもしれないけれど、1ミリでも油断した準備をしてしまうと全て終わるんだよ。勝ちと負けは操作できないが、チームに良い部分で大きな影響を及ぼすことはできるはず」

 タモン式の選手にはよくこのように話しています。

 

 あくまでも僕の物差しではありますが、本気で取り組んでいる選手であれば、道筋をプランニングできないようなに人たちに負けることはありません。

 

 道の距離と険しさ(現実)を知り、時間(卒業や引退)までに到着する方法を徹底的にシミュレーションして有識者に相談し、人生を懸けて努力を繰り返すことが重要です。

 そして、そこに運や才能が関わってくるのです。全力で取り組むことはやる気次第で誰にでもできます。結果を残せるのは一握りの人だけですが、それは仕方ありません。

 

 「日本一を目指した気になって過ごした選手時代」を思い出にしたいだけの人と、「そのトロフィーをこの手でつかむ」を本気で考えている人が存在するということを、ここ数年であらためて感じました。

 

 下級生の時からとにかく僕を信頼してくれて、引退するその日まで頑張ってきた選手がいました。

 彼はトロフィーを手にするという結果は得られませんでしたが、全身全霊を傾けて頑張った時間は「学生時代の思い出を彩る」というレベルではありませんでしたので、社会に出てからいつか何かの役に立てばいいなと思います。本当によく頑張っていましたので。

 報われない、叶わないことの方が世の中には多いかもしれませんが、本気で全力で挑戦する尊さを勉強させてもらいました。

 

 本当の意味での覚悟を持たないのであれば「一番を目指す」などと軽々しく言ってほしくない、と心底感じている僕は厳しすぎますかね?

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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