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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

悪い癖を取り除いて基礎を磨き、正しい技術を身につけよう

2020.12.3 11:25 中村 多聞 なかむら・たもん
教え子に基礎的な技術を伝授する中村多聞さん=中村多聞さん提供
教え子に基礎的な技術を伝授する中村多聞さん=中村多聞さん提供

 

 前回はファンダメンタル(基礎)を装備してからスキル(技術)を伸ばすべきだと書きましたが、これらは年代やリーグによって要求されるものが違うことが明確に分かってきました。

 子どものうちはフラッグフットボールやタッチフットボールで、フットボールの楽しさを知り、高校生ぐらいでハードなヒットやタックルを伴う大人と同じルールのフットボールになります。そして大学や社会人になっていきます。

 

 年齢が上がっていく時に、基礎技術も応用も変化していくことを知らない高校フットボール経験者が、とてつもなく多く存在することをここ5年間の大学コーチ経験で学びました。

 高校入学当初は、筋肉や運動神経も未熟で、痩せてヒョロヒョロの初心者には、恐怖感を少なくしけがのリスクが少ない強く当たれる方法をコーチやフットボール未経験の先生方が工夫に工夫を重ねて指導されるケースが多いようです。

 これはフットボールの試合を見たこともない、体当たりの何かも全く知らない人に指導するために日本が独自に開発した体当たりの方法です。

 

 そしてこのレベルをクリアしたら、一人前のフットボール選手として練習に参加し始めます。作戦や戦術、細かなテクニックを覚え、さらに強くなるためや速くなるための練習が続きます。

 もちろん、ほとんどのプレーヤーが上達して強く、うまく、速く、賢くプレーするようになります。

 この段階で昔習った「初心者用のヒット方法」を使う人の多いこと多いこと。「それ、どこで習ったの?」と聞くと全員「高1の時に」と答えます。

 ま、そうなのでしょう。その時はそれで良かったのですが、今君らはその方法じゃ上に行けないんだよ。だから大人やアメリカ人のヒット方法をやっていこう、と案内しても時すでに遅し。超のつく拒絶反応で「強いクセ」が取れません。

 

 結果どうなるかと言うと、それほど上達せず活躍できずに埋もれてしまいます。

 ガリガリの初心者と、筋肉も技術も知識も付いてきた人では必要なファンダメンタルが違うのですね。

 もちろんその先のスキルも違いますが、ファンダメンタルが同じと勘違いしたまま上級者向けのスキルを身に付けようとするので上手くなりません。運が悪いとけがもしてしまいます。

 既成概念による固定観念が、自分の上達の邪魔をするのです。当然、僕のプレゼン力では彼らの心に響かないことにも原因があります。本当にすみません。

 

 僕は、試合に出場しそうになってきた(3年生くらいの)選手に指導をしてきました。

 でも、彼らが高校1年から大学2年までの5年間もやってきた方法は簡単には変えられません。

 「アンタの言うことを全面的に信用して採用するから、何もかも全部教えてくれ!」と向かってきた選手は、ほとんどの場合「強いクセ」がなくなり、正しいフットボールを身に付け、試合でそれなりの活躍を見せるまでに成長してくれました。

 僕の手を離れると、元に戻ってしまうのが残念なのですが。

 

 ただ「自分が関心のある、もしくは苦手な分野について少しだけ教えてくれ」と考える選手には、この「体中の血を全て入れ替える」指導法は全く通用しません。

 ですから当然本人が望んだような良い結果は出ません。

 

 フットボールには、体当たりを中心にプレーするポジション(ラインマン)と、走り回るポジション(スキルポジションやバックス)があり、役割が分かれています。

 ラインマンは「初心者フットボール」を卒業するのが比較的早いようです。チームに当たりの強い先輩や選手がいれば、毎日当たり負けるのでしっかり考えて成長していくのだと思います。

 

 僕の担当するポジションである「バックス」の選手たちに、今回のテーマが当てはまります。

 フットボールですから、相手と激突することがしょっちゅうあります。他のスポーツと極めて違う点であり、フットボールの特徴はこの激突にあります。

 その後に、緻密な作戦や役割分担などの特殊性があります。しかし、とにかく大半の選手は体当たりが嫌いで苦手、練習しないし弱い、そして下手ときています。

 

 体に染みつくまで繰り返し練習した「正しいファンダメンタルとスキル」を使って、敵との激突を微塵も恐れずに(何なら楽しみながら)ハードなプレーを繰り返すことのできる選手。前置きが長くなりすぎましたが、ぜひこういう選手を目指していただきたいですね。

 

 フットボールに詳しくなり、技術も上がってきた。細身なので走るのはまあそれなりに速い。だからパスの時に守備の隙間を読み取ってスルスルっと入り込んで見事にキャッチ! 日本中がショットガンオフェンスでパスが多い今の時代は、こんなバックスが重宝がられます。

 しかし、こんなことが少しうまくても強いチームは勝たせてくれません。システムの中でうまく立ち回ったところで、チャンピオンシップの60分をしのげないんです。

 時には力技で強引に相手の手中からボールを奪い取り、集まった敵をハードヒットで蹴散らして、自分だけが生き残りゴールラインを駆け抜ける。

 鍛え上げてきた絶対的なスキルとスピードとパワーに裏打ちされた自信を、作戦の上に乗せて勝負するのがフットボールの真髄なのです。

 心と体を鍛える時間を過ごして来ていない選手など、本物からすれば立ってるだけなのです。ただのハリボテです。ハリボテでは決して本物に勝てません。

 

 本気でフットボールをしている選手諸君は、できるだけ早い時期に真剣に心と体を鍛え始めるべきです。

 初心者の時に比べて強く速くなった自分をどんどんアップデートさせるために、新しいファンダメンタルとスキルの習得に明け暮れるのです。

 

 昔習った「あのやり方」が、あなたのファンダメンタルとスキルの限界でしょうか? 絶対に違うと思いますよ。

 プロのアメリカ人が当たり前としている「正しいファンダメンタルとスキル」を正確に指導できる指導者は国内には極めて少なく、分かりやすい情報もほとんどありません。

 見ようと思えば、検索しようと思えば無数に情報をキャッチできる世の中ですが「ニッポンフットボールの色メガネ」を通してその情報を見ても、何も気付かず何の新情報もつかめないのが現実です。

 

 また、ニッポン人の能力では「そりゃ無理だ」という意見もよく聞きますが、それはその人がちゃんとしたフットボール知らないからそう感じるのです。

 ニッポンのフットボールを衰退させて枯れさせたくないのであれば、若年層に正しい指導をしていかねばなりませんね。

 機会があればプロ経験のある我々もサポートしていくつもりです。

 

 高校時代から「正しいフットボール」をしてきた彼らが「甲子園ボウル」に帰ってきますね。

 そうです。1年生が中心メンバーとして活躍し、3年前に甲子園ボウルで優勝した日本大学フェニックスです。

 

 最強軍団の関西学院大学ファイターズとの3年ぶり「赤と青の対決」がとても楽しみです!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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