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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

大切なのは基礎 スキルアップもまずは基本の習得から

2020.11.26 11:43 中村 多聞 なかむら・たもん
教え子に基本の大切さを伝授する中村多聞さん
教え子に基本の大切さを伝授する中村多聞さん

 

 僕の選手時代もそうでしたが、能力を高めたいと思っている選手にとって共通の課題があります。もちろん今回紹介することだけではなく、課題は無限にあります。

 

 似ているようで全く違う2種類の問題。一つは「スキル(かなり難しい)」で、もう一つは「ファンダメンタル(本当はできるけどやっていない)」です。

 どちらも油断して読んでいる、聞いていると「できない」という部分では同じですが、中身は全然違います。

 

 前者の「スキル(かなり難しい)」の例ですと①100メートルを10秒台で走りなさい②フルマラソンを2時間少しで走ってね③どんなパスもキャッチしなさい④必ず相手のマークを外しましょう⑤絶対にファンブルしないでね⑥反則はしないでね⑦相手にビッグプレーを許しちゃ駄目⑧相手に勝つ、試合に勝つ。

 これらは簡単ではありませんし、注意して集中していても、なかなかうまくいきません。

 

 後者の「ファンダメンタル(本当はできるけどやっていない)」の例は①思い切りやりなさい②フルスピードで走りなさい③右足から動きなさい④タックルされそうになっても逃げようとしては駄目です⑤ボールは割れてしまうほどキツく持ちなさい、というような勝負の結果ではなく、取り組みの問題です。うっかりミスが中心です。

 

 ヒットの弱い選手でも思い切りやれます。足の遅い人もフルスピードで走れます。右足から動くことは、難しくありません。

 タックルされそうになっても、嫌がらず怖がらず我慢すれば誰でもそのうちできるようになります。

 このタックラーを体当たりで吹き飛ばせとは言いません。負けてもいいから逃げずに向き合いましょう。

 ボールをしっかり持つのは誰でもできます。絶対落とすなとは言いません。これらのファンダメンタルは、注意を払っていれば実行できることばかりです。

 

 ただ、他の運動と組み合わさった途端に難しくなり、それぞれが頭から消えてしまいます。

 例えば、タックラーが向かってくるシーンを切り取った練習で、右足からスタートして、最初は全速力で走ってください。

 その後、タックラーが来ますのでタックルされてしまわないようにエンドゾーンまでたどり着いてくださいというドリルでも、勝つ負けるの結果に意識がいきすぎて右足からスタートするのを忘れる、ボールを割れるほどキツく持つのを忘れる、敵が迫って来るのが見えるので全速力で走れない。これは未成熟な選手が抱えている問題です。

 

 しかし、本人は問題視していないのがまた大きな問題と言えます。

 ドリル内の勝負では負けるかもしれないけれども、制約されたファンダメンタルを忠実に実行して課題をこなす大切さを理解していれば、最初は負けが続いても技術が身につくまでの辛抱です。

 上達したその後は、白星続きになるのは言うまでもありません。

 ほとんどの人はこの時点で我慢ができません。それでその選手の流派は「自己流」となり、上級者と対峙したときには、いとも簡単に倒されてしまうという結果になります。

 

 確かに全てをしっかり守る(複合ファンダメンタルズ)のは難しいことです。今の実力でも十分にできるのですが「意識し忘れる」状況が多発します。

 つまりこれは、無意識の状態では制御できない、日常生活とはかけ離れた「ランニングバックやフットボールの専門的な技術」なので、訓練が必要なのですね。

 無意識でもできるようになるための訓練です。これが地味でつまらないので、大抵の人は嫌いです。僕も選手時代、もちろん嫌いでした。

 

 しかし、この複合ファンダメンタルズに関しては、時間とエネルギーをかけて努力さえすれば段々慣れてきて必ず上達します。

 上達するまで続けるのですから、必ず結果が出るのです。当たり前ですよね。

 人によっては一回アドバイスを受ければ次からマスターしてしまう人もいるでしょうし、1000回やって少しだけ上達する人もいるでしょう。これは「才能」の問題です。

 

 僕は子どもの頃から長い間フットボールをはじめスポーツに関わっていますが、やはりうまくなったり試合で結果を残すのは「才能」が大きく影響するのは否めないと思います。

 才能と言ってもいろんな種類の才能があると思います。体格に恵まれていてその競技やポジションに最適なサイズを持っている。うまい。体や気持ちが頑丈で強くて速い。

 これらに恵まれてはいないけれど、努力を継続できることも大きな才能ですし、痛さや苦しみを乗り越えられる我慢強さも立派な才能と言えるでしょう。

 その他にも、スポーツで勝利するための才能はたくさんあると思います。

 

 僕の中の統計では、才能に恵まれない人は地味で地道な努力も苦手という傾向があります。

 本人の抱える問題の中でも、最も克服しておかなくてはならない重要事項であればあるほど逃げようとします。

 社会人選手であれば得手不得手があっても得意分野で戦うことができる場合も多いですし、ほとんどの選手が「ライスボウル優勝」を目指しています。

 大学生の場合は下級生時代は練習には来ているだけで何もさせてもらえず、当然試合経験もないというケースは珍しくありません。

 上級生になってから真剣に練習をしても、弱点を克服するまでには至りません。

 でも、チームではほぼ1軍だから「何が何でも今以上の選手になってやる」「ライスボウルで社会人を倒せる選手になってやる」といった気概を持つことができないんです。

 チームではそれなりに役目を果たしているので、そこまで必死になれないのでしょう。

 

 貪欲に上を目指すには、結局「他人より質の高い練習を何倍もし続ける」しかありません。

 体と心を鍛え、チームの練習を誰よりも必死にやる。それはスポーツ選手としてのスタートラインと言えます。

 チームの練習だけでは、チームやリーグで一番の選手にはなれないということです。

 

 ファンダメンタルを徹底的に反復し、無意識でも自動運転できるまで体に染み込ませる。

 そして、完成されたファンダメンタルズを使って自分に必要なスキルを学んで訓練し、一つずつマスターすることで「達人」になっていくのです。

 この繰り返しがあってこそ、ゲームデイには自信に満ちあふれ、最初から最後まで迷いなくプレーできるようになるのです。

 

 僕はこのコラムで何度となく「基礎、基本はとても重要」と書いていますが、今も昔もNFL選手のすごさは基礎のすごさであると確信しています。

 派手なワンハンドキャッチや太すぎる筋肉、俊敏すぎる動きに惑わされてはいけません。

 彼らは基礎がすごいのです。ファンダメンタルがすべてなのです。だからアメリカ人を追いかけるならば、とにかくファンダメンタルの習得が必要なのです。

 

 敵に勝つか、ゲームに勝つか。それはその時その相手次第ですから、自分が厳しい鍛錬を積んできたからといって必ず勝てるわけでもありません。

 寝る時間や遊ぶ時間を惜しみ、自分の役割を全うするためにできることを全てしておくのが選手の仕事です。

 

 コーチはコーチとして、選手は選手としての誇りを持って、全ての時間とエネルギーを注ぐのが僕の考える「フットボール」なんです。

 我々一般の人間は、それぐらいやってようやく才能に恵まれたスーパーマンや天才と同じ土俵に立つ資格を得られるのですから。

 

 毎日毎日休まず地道にコツコツとトレーニングを積み、基礎練習を繰り返しておいてください。そうすればきっと、輝く未来が訪れるはずです。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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