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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

漁師からNFL選手に ブラウンズRBディアーネスト・ジョンソン

2020.10.14 11:04 生沢 浩 いけざわ・ひろし
カウボーイズ戦で相手守備選手のタックルをかわして前進するブラウンズのRBジョンソン(AP=共同)
カウボーイズ戦で相手守備選手のタックルをかわして前進するブラウンズのRBジョンソン(AP=共同)

 

 フットボール選手にとって、NFLでプレーすることは究極の夢だ。しかし、その夢を実現させることのできる選手はほんのわずかしかいない。

 

 大学で活躍しても、ドラフトで指名されてプロ入りするのは毎年わずか224人だけ。多くの選手は夢破れてフットボールから離れていくか、諦められずにほかの手段で生計を立てながらNFLからの連絡を待つ。

 

 殿堂入りを果たし、スーパーボウルに3度出場(1勝2敗)したQBカート・ワーナー氏(ラムズ、ジャイアンツ、カージナルス)も、無名時代はファストフード店でアルバイトをしていたのは有名な話だ。

 

 4勝1敗と好調なブラウンズで、急速に存在感を強めているRBディアーネスト・ジョンソンもNFL入りする前に異業種で糊口をしのいでいた一人だ。その異業種とはマヒマヒ(日本名シイラ)漁師である。

 

 

 実働期間は1カ月ほどと短かったのだが、今やフィールドを駆け抜けるRBが大海原を仕事場にしていたというのだから異色の経歴の持ち主と言っていい。

 

 2年前の彼はフロリダ州キーウエストの沖に出て、多い時には一日で30匹ものシイラを釣ったという。

 

 高級魚としても人気のシイラ漁は実入りも良く、重労働ではあるものの充実した日々を送っていたようだ。

 

 ただ、大好きなフットボールへの思いは断ち切れず、船に乗るたびに「フットボールがしたい」と考える毎日だったという。

 

 

 そこでジョンソンは退路を断つ意味でシイラ漁をやめ、トレーニングジムでトレーナーとして働きながらコンディションを整え、NFLへの道を探ることにしたのだ。

 

 ジョンソンは2018年にサウスフロリダ大学を卒業したが、その年のドラフトでは指名されず、ルーキーフリーエージェントとしてセインツと契約した。

 

 キャンプには招集されたものの開幕ロースターには残れず、職を探してぶらぶらしていた時に友人からシイラ漁の誘いを受けた。

 

 

 19年はシーズン途中で頓挫したアメリカンフットボールアライアンスに参戦し、その後ブラウンズに入団した。

 

 昨年はスペシャルチームでの出場が主で、ラッシングでの記録は4キャリーで21ヤードにすぎなかった。

 

 今季もニック・チャブ、カリーム・ハントに続く3番手兼スペシャルチーム要員だったのだが、第4週のカウボーイズ戦でチャブが膝を故障して途中退場したことでチャンスが巡ってきた。

 

 ハントとの併用で、13回のキャリーで95ヤードのゲイン。もちろん両方ともキャリアハイである。続く第5週のコルツ戦では28ヤードのビッグランを見せた。

 

 24歳のジョンソンのモットーは「Slow Grind(スローグラインド)」なのだそうだ。スローグラインドとはダンステクニックの一つで、異性の背後に回って腰をくねらせながらセクシーに踊る仕草のことを意味する言葉として知られるが、ジョンソンの意味するところは違う。

 

 「スローグラインドとは、究極の夢に向かって常に照準を合わせるという意味だ。僕はいつでも困難に見舞われてきた。目標を達成するにはいつも辛抱を強いられた。ゆっくりとだが、僕はそうやってチャンスをつかんできたんだ」とジョンソンは言う。

 

 ジョンソンにとっては、シイラ漁もトレーナー業務もNFLという究極の夢をかなえるための辛抱だったのだ。

 

 エースRBのチャブはあと数週間は戦列に復帰できない見込みで、ジョンソンの出場機会も増えていくだろう。次の目標はまだ経験していないNFL初のTDだ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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