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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

練習も試合と同じ熱量で 「良い」「悪い」を判別する眼力も大切

2020.8.6 12:03 中村 多聞 なかむら・たもん
教え子に見本を披露するタモンコーチ(右)
教え子にお手本を示す中村多聞さん(右)

 

 RBの練習で非常に大切な練習の一つに「ハンドオフ」があります。QBからボールを手渡しでもらうアレです。

 お互いが目隠ししていても寸分の狂いなく……を目指すのですが、昨今のフォーメーションの主流はショットガンですので、そういった面での精度は以前のセットバック時代ほど高くありません。

 それでも、それなりに高い精度で「ハンドオフ」が遂行されないと我々RBはその後ボールを前に運んでタッチダウンするでー、という仕事に集中するのが難しくなります。

 まあそれは誰でも知っていますし、練習もそれなりにやっていることでしょう。

 

 タモン式では、このように油断をしているとどうしても練習モードでやってしまいがちな個人練習を、いかに試合と同じ熱量でできるかを大切にします。

 ただ、全ての練習はつまるところ試合で発揮するためにやるわけですから、当然と言えば当然です。

 しかし、フットボールをしている人の大部分は、心も体もまだまだ未成熟な若者たちです。

 動きの精度を上げるなんてマニアックな鍛錬に集中し、時間をかけて研ぎ澄ましていくなんてことは、とても難しいものなのだと最近だんだん分かってきました。

 

 現在指導している選手たちは「良いお手本を見ながら、自分の上達を真剣に考えたことがない」メンバーばかりなので、私タモンコーチが言う「良い走り」の合格ラインがまるっきり分かっていません。

 近年では日本の試合はテレビで放送されることも少ないですし、ネットの放送ではカメラの品質が低く複数アングルからのリプレーもありませんので、技術や戦術を学べる映像とは言えません。1970年代よりもレベルが低くなってしまっている現状に憂いはあります。

 

 そこでチームは試合場にそれほど高額ではない家庭用ビデオカメラを持ち込み、自前で撮影したお粗末な映像で試合を見ます。

 ですから憧れの選手、尊敬する選手、他校のライバルなどなど、昔なら自分の紹介文のところに書かれていたようなことも同じチームの先輩だったりします。

 他チームのことに興味を持とうにも、情報は自分らが選んだネットの偏ったものだけですので、相手チームの守備選手の特徴なども知り得ないわけです。

 

 もちろんライバルとなり得る他チームのRBの動きも見る機会がありません。ですから「良いお手本」の情報がほぼないのですね。

 選手たちに口で言っても、僕の説明力では全く彼らの脳みそにイメージさせることがありません。そこで仕方なく、タモンコーチはスパイクを用意し、お手本を自分で見せる決意をしたのです。

 

 スマホを三脚に立てて数種類のランプレーを〝演舞〟しました。もちろん100%のパワーを出すと腱や筋を断裂しかねませんので、半分ほどのチカラでやりました。

 ハンドオフ前後の僕の走り方(選手時代のですよもちろん)の最たる特徴は、足の裏で地面をつかんで、思い切り蹴り飛ばすという動きです。

 その部分をなるべく見てもらえるようにやってはみましたが、体が全く自由に動きません。ウオームアップもストレッチもわざとやらず、けがをする不安を頭の中心に置いたまま安全に安全にやるのです。

 

 そりゃそうでしょう。齢51歳。体重120キロ以上。普段の運動一切ナシ。そんなメタボ人間が全盛期だった20年前の動きを再現できるわけがありませんが、まあ少しはその部分を強調してやっておきました。

 おびただしい量の汗が吹き出し、脈拍は一瞬で急上昇したまま全然下がらず、下半身全ての関節と腱と筋が動くことを拒否し脳みそからの指示に従おうとしませんでした。

 その日の夜は昔手術した関節が腫れ、その他の節々に痛みが走り、抗炎症薬を数錠飲んで寝床につきました。しかもそれを2日連続でやったもんですから大変でした。いつもよりお腹が空いて余計に太りました。

 

 話を戻しまして僕が昔に上達できたのは、良いコーチに恵まれたからです。プロの黒人RBが必死に練習するシーンを、何千プレーと真後ろで録画するかのように真剣に見ていたことも大きな要因です。

 僕は良いコーチとは言えませんが、多くの経験による正しい知識は持ち合わせていますので、選手にどうにかそれを伝え「良い」「悪い」を判別する眼力を養ってもらう作業をしています。

 僕と同じレベルで良し悪しを判別できるようになれば、あとは「良い」に向かって膨大な量の反復練習を重ねるのです。

 

 自分が満足できる結果を得られるかどうかは、個人競技ではありませんので練習量や努力量だけで左右されませんが、努力と練習をしていなければ欲しい結果を得る資格もチャンスもないですからね。

 そこらへんの「覚悟」や「やる気」については、また今度書かせて頂こうと思います。

 

 社会人も学生も変則的な形で秋のシーズンを実施すると決まったようですし、本格的な練習開始が待ち遠しいです。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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