メニュー 閉じる メニュー
スポーツ

スポーツ

週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

ミネアポリスの事件で再び表面化した人種問題 NFLも積極的な取り組みを

2020.6.3 11:09 生沢 浩 いけざわ・ひろし
49ers時代の2016年9月の試合前、人種差別への抗議として国歌斉唱で膝をつくQBコリン・キャパニック(右)(AP=共同)
49ers時代の2016年9月の試合前、人種差別への抗議として国歌斉唱で膝をつくQBコリン・キャパニック(右)(AP=共同)

 

 米ミネソタ州ミネアポリスで5月25日に起きた白人警官による黒人男性への暴行死事件は、1週間を経て抗議活動が全米に広がっている。

 一部の暴徒化した人々による放火や略奪行為がニューヨークやロサンゼルスなどで多発し、トランプ大統領が首都ワシントンDCに軍隊を配備する事態にまでエスカレートした。

 

 こうした暴動に目を奪われがちだが、抗議活動の根幹にあるものは人種差別撤廃を求める人権運動だ。

 残念ながらアメリカでは、白人警官の黒人に対する行き過ぎた暴力行為で死に至らしめる事件が過去に何度も起きている。

 我々の記憶に新しい、当時49ersのQBだったコリン・キャパニックを筆頭に始まった2016年のNFL選手の抗議行為(試合前の国歌斉唱時の起立を拒否)もこうした事件が発端だった。

 

 新型コロナウイルスの影響による長期の中断から徐々に再開し始めているスポーツ界も敏感に反応した。

 いち早く再開している独サッカーリーグのブンデスリーガでは、今回の犠牲者のジョージ・フロイドさんの名前や人種差別に反対するメッセージを書いたTシャツを着用する選手が相次いだ。

 通常は政治的なメッセージの発信を禁止している国際サッカー連盟(FIFA)だが、今回は例外を認め、選手が個々に主張することを認めている。

 テニスの大坂なおみ選手もSNSで人種差別に反対するコメントを発信している。

 

 NFLも例外ではない。多くの選手やコーチ、オーナーたちまでもがSNSを駆使してフロイドさんを追悼し、差別撤廃を求めた。

 NFLネットワークではビルズのCBジョシュ・ノーマン(黒人)と前イーグルスのQBジョシュ・マカウン(白人)をオンラインでつなぎ、それぞれの立場からミネアポリスでの事件を振り返り、人種問題について討議する番組を放映した。

 中でもひときわ強いメッセージ性を持っていたのが「Players Coalition(選手連合)」という組織の声明だ。

 これは2017年にNFLで活躍したWRアンクワン・ボールディンと現セインツのCBマルコム・ジェンキンスが設立した、人種差別と社会的不平等の根絶を目指す組織だ。

 

 声明では白人警察官によって黒人が不当に扱われる事例が後を絶たないことに抗議し、過去の犠牲者の名前を連ねつつ、警察組織の変革を求めている。

 選手連合は公式なNFLの組織ではないが、その活動に賛同するNFL選手は多い。何の強制力も持たない連合にとっては、NFL選手が一般市民に対して持つ影響力は啓蒙活動をする上での大きな発信源となっている。

 

 もっとも、NFLが真の意味で人種差別に反対する組織であることをアピールするためには、リーグ全体での取り組みが必要だ。

 NFLでは約7割が黒人選手をはじめとするマイノリティー(社会的少数派)だとされる。

 しかし、現在の32人のヘッドコーチ(HC)のうち、マイノリティーはわずか4人で、ゼネラルマネジャー(GM)は2人にすぎない。

 

 NFLは2003年に「ルーニールール」を設けた。これはHC採用の際には少なくとも一人はマイノリティーを候補者とし、面談をしなければならないというものだ。

 マイノリティーの雇用増を訴え続けてきた故ダン・ルーニー氏(前スティーラーズオーナー)の名前をとった新規則だったが、罰則がなかったためか近年は形骸化してきた。

 

 そこでこのオフ、NFLはさらなるマイノリティーと女性の雇用機会増加を図り、ダイバーシティーの理想実現のためにルーニールールに変更を加えた。

 今後はHC職には2人以上、コーディネーター職には最低一人の外部のマイノリティー候補者を含めなければならない。

 また球団の要職に人材を求める場合、マイノリティーと女性の候補者を含めることが求められる。

 

 ルール改正の過程で、マイノリティーをHCやコーディネーターに雇用したチームにはドラフト指名権を付与する、または指名順位を繰り上げるというインセンティブを与える案も討議されたが採用は見送られた。

 

 フロイドさんが亡くなった悲しい事件のために、再び盛んになった人権運動は一時のもので終わってはならない。

 NFLでは選手もリーグも人種差別根絶に働きかけていく意向を示している。

 そのためにはまず、NFLはマイノリティーや女性の人材登用を積極的に行うことで範を示したい。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

最新記事