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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

高い評価でNFL入りも、成功例少ないハイズマンQB

2020.4.30 11:08 生沢 浩 いけざわ・ひろし
昨年のタイタンズ戦でパスを試みる、前バッカニアーズのQBジェーミス・ウィンストン(AP=共同)
昨年のタイタンズ戦でパスを試みる、前バッカニアーズのQBジェーミス・ウィンストン(AP=共同)

 

 初の試みとなるオンラインで行われた今年のNFLドラフトは、むしろスポーツファンの視聴意欲を増幅させたようで、全米における3日間の平均視聴者数は史上最多の約840万人に上ったそうだ。やはり新記録を樹立した昨年の約620万人を大きく上回った。

 

 

 注目の1位指名は大方の予想通りルイジアナ州立大(LSU)を全米王座に導いたQBジョー・バーローだった。

 

 彼を射止めたベンガルズのファンは早くも待望のフランチャイズQB誕生と盛り上がっている。

昨年12月のジョージア大戦で自らボールを持って走るLSUのQBジョー・バーロー(AP=共同)
昨年12月のジョージア大戦で自らボールを持って走るLSUのQBジョー・バーロー(AP=共同)

 

 

 3年連続でハイズマントロフィー受賞経験のあるQBが全体1位指名を受けたことになり、大学の最優秀選手に輝いたQBをNFLのチームが高く評価していることがあらためて浮き彫りになった。

 

 ただし、こうした選手がNFLでどのような実績を残しているかは別の問題だ。

 

 

 直近の2年の例を見てみよう。2018年はブラウンズがオクラホマ大のベイカー・メイフィールドを1位指名した。

 

 メイフィールドは新人の年の3試合目で初めて公式戦に出場し、翌週から正式にスターターとなった。新人QBとしては最多タイとなる27TDを成功させ、先発した試合の戦績は6勝7敗だった。

 

 

 低迷の続いたブラウンズで救世主とまで言われ、2年目の昨年はチームを17年ぶりのプレーオフに導くと期待されたが、オデル・ベッカムJr.という名WRを得たにもかかわらず、ルーキーイヤーを上回る活躍はできなかった。

 

 

 昨年はメイフィールドの後輩であるカイラー・マレーがカージナルスに入団した。

 

 開幕から先発し、チームは510敗1分と振るわなかったが、マレー自身は3700ヤード以上のパス獲得距離と20TDを記録、ランでも500ヤード以上を走ってスターの片鱗をうかがわせた。

 

 

 昨年まで過去10年のハイズマントロフィーは、2015年のデリック・ヘンリー(タイタンズRB)を除いてすべてQBが受賞している。

 

 その9人はいずれもドラフトで1巡指名を受けてNFL入りしているのだが、今秋に先発の座を約束されているのはマレー、メイフィールドとラマー・ジャクソン(レーベンズ)だけだ(バーローを除く)。

 

 キャム・ニュートン、ロバート・グリフィンⅢ世、ジェーミス・ウィンストン、マーカス・マリオタはすべてこのオフまでにスターターの座から降ろされている。

 

 2000年より以前にさかのぼっても、ハイズマントロフィーを受賞しながらNFLで成功できなかったQBは枚挙にいとまがない。

 

 そして、実は「ハイズマンQB」はNFLでは意外なほどに優勝に縁がない。

レイダーズと契約した前タイタンズのQBマーカス・マリオタ(AP=共同)
レイダーズと契約した前タイタンズのQBマーカス・マリオタ(AP=共同)

 

 

 旧NFLとAFLが合併して現在のNFLになった1970年以降、25人のQBがハイズマントロフィーを受賞し、そのうち24人がNFL入りしている。

 

 そのうちスーパーボウルに先発出場して優勝したのはジム・プランケット(1970年受賞)だけだ。それどころか、プランケットとニュートン以外にスーパーボウルで先発出場した例はない。

 

 

 よく言われるように、カレッジとNFLの差が大きいのも理由の一つだろう。

 

 ここでいう「差」とはレベルの意味もあるが、むしろ昨今ではプレースタイルの違いが大きいと思う。

 

 カレッジではQBはパスだけでなく走力も含めた総合力が求められる。身体能力が高い選手ほど好結果を残し、評価される傾向にある。

 

 また、カレッジではショットガン隊形がスタンダードなせいもあって、NFLで依然として多いアンダーセンターでスナップを直接受けるスタイルになじめない選手も多い。

 

 

 最近ではNFLもカレッジスタイルを多く取り入れ、さらにジャクソンやマレーのように大学時代に使っていたプレーをそのまま使う機会も増えており、徐々にではあるがカレッジQBがNFLに順応しやすい環境はできつつある。

 

 

 ハイズマントロフィー受賞QBがNFLであまり活躍できない理由がもう一つあるとすれば、やはりその選手を指名したチームの実力ということになるのだろう。

 

 カレッジの優秀なQBはたいてい1巡の早い段階で指名される。すなわち、前年の成績の悪いチームが指名するわけで、そうした球団はQB以外にも補強の必要なポジションがたくさんある。

 

 たとえば、OLの整備が整わないままに新人QBが実戦デビューすることも珍しくないのだ。その環境で結果を残すのは難しい。

 

 

 2018年の1巡32番目指名のジャクソンはこれとは逆の例だ。

 

 1巡の最後まで指名されなかった代わりに、プレーオフに何度も出場しているレーベンズに入団したおかげで思う存分自分の能力を発揮できているのだ。

 

 ジョニー・マンゼル(2014年ブラウンズ1巡22番目)やウィンストン(2015年バッカニアーズ1巡全体1位)らは残念ながらチームに恵まれなかった。

NFLでは活躍できなかったジョニー・マンゼル(AP=共同)
NFLでは活躍できなかったジョニー・マンゼル(AP=共同)

 

 

 「ハイズマンQBはNFLでは成功しない」とは1980年代からしばしば言われてきたことだ。

 

 もちろん、すべての選手に当てはまるわけではないが、この「定説」が覆せないでいるのも事実だ。

 

 バーローはこれを打ち破ることができるのか。ジャクソンやマレーはこのまま成長を続けるのか。メイフィールドの復調はあるか。ハイズマンQBたちのNFLでの挑戦は続く。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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