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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

元NFL最長FG記録保持者が死去 セインツなどで活躍したKトム・デンプシーさん

2020.4.7 18:12 生沢 浩 いけざわ・ひろし
1970年のライオンズ戦で63ヤードのFGを成功させたセインツ時代のトム・デンプシーさん(19)(AP=共同)
1970年のライオンズ戦で63ヤードのFGを成功させたセインツ時代のトム・デンプシーさん(19)(AP=共同)

 

 40年以上にわたってNFLの最長FG記録(63ヤード)を保持していたことで知られるキッカー(K)トム・デンプシーさんが、新型コロナウイルスの影響とみられる合併症で亡くなった。73歳だった。

 デンプシーさんは生まれつき右手の指4本と右足のつま先が欠損するという障がいを持っていた。しかし、そのハンディをむしろ自分の武器として11年間NFLでプレーした。

 

 彼がセインツでNFLデビューを果たしたのは1969年だ。今でこそボールに対してつま先を斜めに当てる「サッカースタイル」のキックがスタンダードだが、当時はボールに対してつま先を直角にぶつける方法が主流だった。

 サッカースタイルを広めたのは、同時期に活躍したノルウェー出身のヤン・ステナルードだとされている。

 

 つま先のないデンプシーさんは、その形状に合わせて改造したキッキングシューズを使用した。つま先部分が平らになっており、シューズ全体がハンマーのような形をしていた。

 ボールに接する表面積が大きくなるために違法な改造シューズだとの批判も受けたが、「持って生まれた自分の体を最大限生かしているだけだ」とのデンプシーさんの主張を当時のコミッショナーであるピート・ロゼール氏が受け入れて使用を認められた(その後1977年に正式に禁止となる)。

 

 デンプシーさんが63ヤードという長距離のFGを成功させたのは、2年目のライオンズ戦だった。残り11秒で決めた逆転の決勝FGだった。

 まさかこの距離のFGが成功するとは思わないライオンズの選手は、デンプシーさんがフィールドに入ってきたのを見て指をさして笑ったという。無理もない。それ以前の最長記録は56ヤードだったのだから。

 しかし、その笑顔は数秒後には凍りつくことになる。そして、その後長きにわたってこのFGはデンプシーさんの代名詞となるのだ。

 

 デンプシーさんの記録は、2013年にブロンコス(当時)のKマット・プレーター選手の64ヤードFGによって過去のものとされる。

 しかし、実に43年もの間破られることはなかったのだ。ちなみにNFLのレギュラーシーズンで60ヤードを超えるFGの成功例は22しかない。

 

 デンプシーさんは翌年にセインツを退団してイーグルスやラムズを転々とした後、1979年に引退した。

1971年のカージナルス戦でTFPのキックを蹴るイーグルス時代のトム・デンプシーさん(19)(AP=共同)
1971年のカージナルス戦でTFPのキックを蹴るイーグルス時代のトム・デンプシーさん(19)(AP=共同)

 引退後は生まれ故郷のミルウォーキーではなく、ニューオーリンズに移り住んだ。

 わずか2年しか在籍しなかったセインツだが、NFL記録を打ち立てた思い出の地にはやはり愛着が強かったのだろう。

 記録達成の瞬間に履いていたスパイクとボールは、オハイオ州カントンのプロフットボール殿堂ではなく、ニューオーリンズのセインツ殿堂に展示されているそうだ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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