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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

トップを目指すなら覚悟を持て 「コーチ多聞」からの提言

2020.1.16 12:45 中村 多聞 なかむら・たもん
RBとして活躍した、アサヒ飲料時代の中村多聞さん(27)
RBとして活躍した、アサヒ飲料時代の中村多聞さん(27)

 

 明けましておめでとうございます。と言いましても、このコラムが公開される時にはもう月の半ばですね。皆さん、今年もどうぞよろしくお願い致します! 

 

 2013年からこのコラムが始まって、なんと7回目の新年を迎えました。

 最初の頃は完全にフットボールの現場から離れていた「居酒屋のオヤジ」がフットボールファンとの会話の中からヒントを得て、フットボール全体を斬るコメントをしておりましたが、それが今では皆さんにお声を掛けていただいたお陰で、毎日のようにフットボール選手たちと楽しく日々を過ごしております。

 

 僕の選手時代は、上達するために自分の足らないところを鍛え、強い部分を伸ばす。そして、準備をして練習や試合に臨んでいればそれで良かったのですが、いざ人さまを指導し付き合いを深くしていくとなると、やり方も目標も多種多様です。

 ですから毎日のように小さな問題が起こります。人にはそれぞれ考えがあり、フットボールが最優先の人ばかりではないことを日々学んでいます。十人十色とはよく言ったものです。

 

 僕の場合はフットボールが最優先の選手生活を送っていましたが、それでもフットボール以外の仕事や用事があったり、24時間全部をフットボールに費やせていたわけではありません。

 それでも、モチベーションが低下するようなことは一切なく、鍛えれば鍛えるほど自分の能力の低さにがっかりし、悲しい気持ちで寝床につく毎日でした。

 そして翌朝は「今日こそは乗り越えるで! 打倒きのうまでの自分!」の繰り返しが何年も何年も延々と続いていました。

 

 20代の頃、所属チームを失ったことが2度ほどあるのですが、その無所属中もとにかく体を鍛えることは怠りませんでした。

 この時のモチベーションは「つけた能力を落としたくない」「自分を認めてくれるチームは必ずどこかにある」でした。

 自分に降りかかった大きな問題といっても単に所属チームがないことだけでした。まあそのうちどうにかなる話ですし、実際どうにかなりました。

 

 僕の指導者としての役割は「良い選手をもっと良い選手に」ですので、やる気が二流三流の人のヤル気アップは担っておりません。

 僕はヤル気あふれる若者に「ランニングバック術」を指導するわけです。

 しかし、最近ではそう言ってばかりもいられなくなってきました。今後は低レベルな人の「モチベーションアップ」のお手伝いもしなければいけないのかもしれません。

 

 僕は現在「チャンピオンになる可能性があるチーム」にコーチとして所属しています。

 ですから、全員が高い目標に向かって全身全霊を傾けていることを前提に指導をしてきたわけですが、最近は少し違っているようなのです。

 

 学生さんだとフットボールを始めてまだ日が浅かったり、日本一を争う試合での激突に耐えられる技術も肉体も持ち合わせていない人がチーム内に当然ながら存在します。

 社会人でも僕がそうだったように、これから上達を目指している人もいます。

 そのような選手たちはライスボウルで活躍して勝つという目標は少し先で、とにかく「きのうよりもうまくなる、強くなる」が当面の目標でしょう。物には順序がありますので仕方ありませんし当然です。

 

 ただ、その中には学校の体育の授業や、ママさんバレー的な気持ちでチームに参加している人がチラホラ存在するのです。本人はそんなつもり毛頭ないのでしょうが、僕から見れば完全にそうなのですね。

 

 チーム活動に参加している理由は「日本一になりたいから」は表面上同じなのですが、日本一になりたければ日本一の取り組みをしなければなりません。

 ところが、絶対的な定義には耳をふさぎ目をつむりながら、実はみんなそれぞれさまざまな理由でチームに所属しているのです。

 

 一部の人は「自分の限界を超えるような努力は絶対にしたくない」という強い気持ちを持っているのです。

 しかしここで僕との感覚のズレが生じ、指導内容や方法を修正せざるを得ない状況があるのです。

 

 シーズンの途中で「ヤル気があるので鍛え方を教えてくれ」という言葉通り、ヤル気のある選手から依頼されたので、トレーニングを指導したりして「これをしばらく続けてトレーニング記録をメモしてね。面倒だけどよろしく」と笑顔で約束しました。

 でもその選手は記録を見せてくれません。「どうして見せてくれないの?」と尋ねたら「見せます!」と気合十分な笑顔で宣言します。でも見せてくれません。

 

 多分ですが、おそらくですが書いていないのでしょう。もしかしたらトレーニングそのものもやっていないかもしれません。

 こんなバカバカしいやり取りを数回繰り返すのです。もう僕には対応不可能です。僕が提案したメニューをやりたくないならわざわざ「鍛えてくれ」と言わなければすむわけですから。なぜ要求してくるのかがさっぱり分かりません。

 

 現代のフットボールストレングスにおけるトレーニング方法は、昔のようにポジション別など大まかなグループに分けてやるのではなく、個別の内容で個人になるべくフィットするようにしなければなりませんし、僕もそうやってきました。

 種目やその方法、セット数や回数や頻度などなど、効果を高めるにはその人だけのメニューが必要です。

 毎日のように測定を兼ねたトレーニングをして成果を上げ続けていかねばなりません。そのためにも細かな個人のデータが必要になるのです。

 

 初心者のうちはみんなと一緒のことをある程度やっておけばそれなりに体力はつきますが、アスリートになればそれぞれ必要なことは細かく枝分かれします。

 そこでどれだけ効果的なアドバイスができるかが重要なのに、最初の第一歩を踏み出してくれないのではどうしようもありません。

 

 もしチャンピオンシップゲームで活躍したければ、今の自分を鍛える必要があることは明白です。

 先ほどの例は僕が直接関わっている選手ですが、それ以外でも鍛えない選手は何人も存在します。

 鍛えない選手に限って、勝負所の大切な場面でキッチリ負けて帰ってくるのです。でもやらないし、なぜか鍛えようとしないんですね。

 

 やらない人は昔から山ほど存在していましたし、現代の方がしっかり体を鍛えている人や組織の割合は多いので、ナチュラルな体ではどうしてもハイレベルなボウルゲームでは苦しくなります。相手チームの選手は大抵しっかり鍛えてきているのですから。

 

 仕事や用事、家族やその他がどうしてもフットボールの足かせになってしまうことは誰しもあるでしょう。それは仕方ありません。

 でも手を抜いたりサボるなら「トップを目指す意欲が足りないのでは?」と思う方もたくさんいるでしょう。

 

 でも人それぞれなので、その人が自分のヤル気の量をキチンと僕に示してくれていればそれなりに対応をするのですが、ほとんどの人はチームの目標に賛同し「目指せ日本一!」と大声で唱えるからややこしいのです。

 チームメートに対する体裁もあるので「いや、俺は軽く参加したいだけ」とは言えないんでしょうけれど。

 

 全てをフットボールに捧げている人が日本の頂点に君臨し続けている現状を冷静に見れば、上を眺めている立場の者がやるべきことなど簡単に分かるはずです。

 勝利したいのか、頑張った経験がしたいだけなのか、他に何か得があるのかは人それぞれ感じ方が違うようです。

 

 みんな同じじゃなかったんだと、ここ数年で学びました。

 でも我々が愛するフットボールそのものや、真剣に努力している人に対して失礼のないように活動することは、トップを目指す選手なら当然意識しなければならないエチケットであり義務だと思うのですが、どうでしょう。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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