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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「ファイターズ」は永遠 学生らしく、死力尽くした関西学院大

2020.1.6 15:56 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
ライスボウルの試合後、校歌「空の翼」を聞く関学大の鳥内秀晃監督=東京ドーム
ライスボウルの試合後、校歌「空の翼」を聞く関学大の鳥内秀晃監督=東京ドーム

 

 第2クオーターの11分過ぎだった。関西学院大のRB三宅昂輝選手が、素晴らしいスピードで富士通の守備網をかいくぐり、さらに加速する。

 追いすがった3年前の関学大主将、富士通のLB山岸明生選手のタックルはわずかに届かず、三宅選手はエンドゾーンまで駆け抜けた。

 64ヤードの独走TDラン。東京ドームの一塁側に陣取った関学大応援席が、最もわいたシーンだった。

 

 38―14。1月3日に開催された、第73回「ライスボウル」は、今回も社会人王者の富士通が学生王者の関学大の挑戦をはね返して勝利し、幕を閉じた。

 「学生チームとしては、これが精いっぱいやね」。試合を見届けた伊角富三・関西学生連盟理事長がつぶやいた。

 同感だった。他の大学では、ここまで対抗できなかっただろう。

 

 社会人と学生の王者が日本一を争うライスボウルの在り方には、さまざまな意見があるが、この日の「ファイターズ」の戦いぶりは立派だった。

 後半、富士通が控えメンバーをフィールドに送り出したことを差し引いても「大善戦」だったと思う。

 

 ある関学大のコーチが言っていた。「今年のチームは、関西リーグで4位か5位になってもおかしくなかった。よくここまで来たと思う」

 

 東京ドームの記者室には「関西学院大学体育会アメリカンフットボール部」から、報道関係者向けに、一枚のプレスリリースが置かれていた。

 

 内容を要約すると「1月中に関学大の上ケ原キャンパスで、今季限りで勇退する鳥内秀晃監督の退任記者会見を行うので、ライスボウル終了後は試合そのものの報道を優先してほしい。それは、鳥内監督の希望でもある」というものだった。

 関学大らしい、相手チームに対する配慮がにじむ文面だった。

 

 大会史上2チーム目となる4連覇を果たした「フロンティアーズ」の偉業、最優秀選手に選ばれたQB高木翼選手のパフォーマンスには、最大限の敬意を表したい。

 しかし、メディアの関心はどうしても関学大というチーム、指揮官として最後の試合を終えた鳥内監督に集まってしまう。

 

 大勢の記者に囲まれて「主役は学生やから」と当惑しながら、鳥内監督はいつものように淡々と敗因を振り返った。

 「学生は体力的に苦しい。(力が劣る)こっちがミスや反則をしていたらあかん。俺の教育不足やね」

 

 試合後、鳥内監督は目を閉じながら校歌「空の翼」を聞いていた。その傍らで、チームを陰で支えてきた学生幹部の一人、主務の橋本典子さんが大粒の涙を流していた。

 「いろんなことを学ばせてもらった。この一年、貴重な時間を過ごした。ファイターズにいなければ見られない景色があった。このチームに成長させてもらった」

 橋本さんの言葉に、フットボールを教育の一環と位置づける組織の魅力が凝縮されていた。

応援席に向かって挨拶をする関学大の主務・橋本典子さん=東京ドーム
応援席に向かって挨拶をする関学大の主務・橋本典子さん=東京ドーム

 

 「俺は終わるけど、ファイターズは永遠に続いていかなあかん」

 学生らしく死力を尽くした教え子を激励する鳥内監督の目が、少しだけ潤んでいるように見えた。

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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