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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

フットボール本来の魅力とは 久しぶりのアメリカ訪問で思うことVol.2

2019.12.12 11:50 中村 多聞 なかむら・たもん
NFLラムズの本拠地で試合観戦する中村多聞さん=提供・中村多聞さん
NFLラムズの本拠地で試合観戦する中村多聞さん=提供・中村多聞さん

 

 さて、今回は渡米したもう一つの目的である外食産業について少し書きたいと思います。

 僕は飲食店経営を基軸にしながら、晩年は自分の選手生活を支えてきましたし、引退した現在も続けています。

 お酒を飲み食事をしながら仲間と大画面でフットボールを見られる店が、日本にはまだほとんどなかったと言っていい時代に、そのような店を立ち上げました。それらのコンセプトはアメリカからヒントを得たものでした。

 

 メニュー内容には特にこだわりました。渡米するごとにレストランをできるだけ多く訪問し外装内装、厨房やバーカウンター内を撮影、時にはメニューブックそのものをもらってきたり、とにかく全てを〝輸入〟していました。

 景気が悪くなかった頃は、自店のスタッフと何度か一緒に渡米しました。僕の見てきたアメリカの飲食店をその目で見てもらって、僕の考えを理解してもらいたかったからです。

 

 でも、景気が悪くなってからは(あくまでも僕のです。世間のではありません)スタッフを海外研修させるなど夢のまた夢になります。自分自身ですら10年以上行けていなかったわけですから。

 ただし、ここ12年ほどは沖縄県に拠点を置き、米軍基地内のレストランやスーパーマーケットを見学させてもらう機会がしょっちゅうあり、ある程度の情報はキャッチできていたので渡米することが億劫になっていたのかもしれません。

 

 40歳を過ぎ、新しいことを学ぶ意欲や行動力が衰えてきたのは否めません。2店舗のうち1店舗は現役選手引退と同時に和食の鉄板焼きに業態変更しましたし、アメリカのレストラン産業に全然目が向いていませんでした。

 

 そして50歳を過ぎ新たな気持ちで研修に行ったわけですが、お店の根幹を揺るがすようなでっかい情報はキャッチできませんでした。

 要するにアメリカはあんまり変化していなかったのです。庶民の行く安価な中華料理屋も値段はそのまま、大手のファストフードも軒並み大きな変化なしでした。

 

 良心的な価格だった多くの個人経営のお店がなくなってしまっていたのが残念でした。

 現地の情勢に詳しい人に聞きますと「地価の高騰で家賃が上がり、やっていくのが大変になった」そうです。

 生き残っているお店は内容もクオリティーも昔と同じではありましたが、倍ほどに値上げしていました。

 

 もちろんNFLの試合会場にも調査に行きましたが、そこで売られている食べ物や飲み物はかなり高額です。

 東京・六本木の僕のお店では1000円弱で出している同じ銘柄のクラフトビールが17ドル(約1800円)です。税金を含むと2000円オーバーですので、いかに高いかご理解いただけると思います。

 

 それでなくてもアメリカ産のビールを日本まで冷蔵で輸入し冷蔵で保管、店舗に冷蔵で配達という手間もお金もかけているアメリカ製のクラフトビールが、日本では半値でしか売ることができないとは恐ろしい事態です。

 僕のお店は「売店」よりも営業コストのかかる「レストラン形態」ですのでなおさらです。

 

 しかも試合会場の外のファストフード店では、持ち帰り専用ですが大きなピザが1000円弱で売っているのです。

 NFLラムズのスタジアムはチケット代が最安値の席で40ドルと安く、200ドルだった49ersのスタジアムとは全く違います。ひどい話です。

 NFL観戦を楽しむには、とにかく「お金」をたくさん用意していかねばならないことを学びました。

 過去にもNFLの試合を見に行ったことはありましたが、ほとんどが仕事だったのでお金のことは考えなかったのです。

NFLのスタジアム内の飲み物と食べ物の価格表=提供・中村多聞さん
NFLのスタジアム内の飲み物と食べ物の価格表=提供・中村多聞さん

 

 今回の渡米では高校、大学、NFLといろいろ見てきました。レベルに差もありますが、やはりアメリカ人のアメリカンフットボールは僕が昔にアメリカ人らから学んだフットボールそのままでした。

 

 僕がフットボールの練習や試合を見るときは、以下のことを重視しています。

・最初から最後まで気持ちを切らさず思い切りプレーしているか

・激突から逃げていないか

・作戦やその遂行方法などをつぶさに観察する

 

 こんなことは、いちいち言われなくてもこのコラムを読んでおられる優秀な皆さんであればキチンと実行されているかと思いますが、僕が練習を見たことのある日本のチームでは総じてコレらがビシっとできていません。

 

 「作戦を成功させたい」という気持ちだけが強すぎて「しんどい」とか「つらい」とか「痛い」ことから逃げてしまう現象ですね。

 コレを若年時代に身につけてしまうと、大学生や社会人になってから意識改革させるのは至難の技です。

 作戦ばかりに目がいき、気持ちの入っていないフットボールをするのは決まって高校フットボール経験者ですので、コーチをする時に多くの時間が「修正」に費やされてしまいます。

 

 上記のそれぞれがランニングバック(RB)だったとして説明します。「思い切り」とはコーチの示した「決められた場所に決められたタイミングで決められた強さでいく」というのがいわゆるアサインメントと呼ばれる約束事です。

 思わぬ所や時に敵がきた、味方が作戦を間違ったなどの理由でアサインメントの遂行が難しく感じてしまうことが試合中には度々起こります。

 対戦相手がいる競技なので、邪魔が入ることは最初から分かっているのですから、決められたことはとにかく自分の全力でやり切る必要があり、選手の勝手な判断で手加減してはならないのです。

 

 それを最初から雑念なく、プレーを終えるまで100%の熱量で戦うのがフットボールを見ていて面白いところなのに、日本ではサッサと自分の感覚でプレーを終了している人が実に多いのです。

 これが今回の渡米で見学した高校、大学、プロを見ただけで分かる日本と大きく違う〝文化〟でした。

 

 そうです。アメリカ人だけのアメリカンフットボールは、僕が昔アメリカ人から学んだフットボールそのままでした。

 日本では、いつからこんな腑抜けたスポーツになってしまったのでしょうかね。昔の日本フットボールはもっともっと雄々しくて激しく、闘志むき出しの魅力的なスポーツだったのですがねー。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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