メニュー 閉じる メニュー
スポーツ

スポーツ

週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

教え子よ、どうせやるなら勉強も精いっぱい! 僕はできなかった「文武両道」

2019.11.28 10:33 中村 多聞 なかむら・たもん
多聞さんが指導する早稲田大学は、2年連続6度目の関東制覇を果たした=11月24日・横浜スタジアム
多聞さんが指導する早稲田大学は、2年連続6度目の関東制覇を果たした=11月24日・横浜スタジアム

 

 「文武両道」という言葉がありますが、僕はもちろんそんな器用なことはできませんでした。

 「多聞」という少し珍しい名前を持つ僕ですが、親に聞いたところ「多聞天」という神様がいて、それがなんと文武両道の神様で、将来そうなってくれという願いが込められていたそうです。

 

 僕の場合は勉強が嫌いでしたが、母親に「大学には行け。大学に行ったらものすごく遊べるから楽しいぞ。絶対に行け」と、子どもの頃から聞かされて育ちました。

 その後フットボールの存在を知り、カンセイガクイン(関西学院)という所に行くのが自分の中で勝手に決まっていた未来予想図でした。

 

 フットボールの練習をたくさんして、なおかつ遊ぶ時間があるのかどうか。遊ぶにはお金も必要です。アルバイトをする時間があるのか、10歳そこそこの少年タモンには全く分からなかったのは言うまでもありません。

 

 幸か不幸か、僕はカンセイガクインではない大学でフットボールも遊びもアルバイトも全てやり尽くしたと言い切れるほどの時間を過ごしました。

 昔母親から聞いていた通りの大学生生活を満喫しました。しかし、忘れている大切なことがありました。文武両道の「文」です。

 

 大学時代に入手した教科書も数冊、家で勉強した時間も10分間以下だと思います。それほどに勉強以外のことにエネルギーを費やしていました。

 

 しかし、今の時代そんなアホはほとんどいないそうです。大学側も勉強(成績)に対して厳しくなっており、人のノートを借りて最後に帳尻だけ合わせれば卒業できる時代ではないらしいのです。

 

 大学に合格し、入学式の日にキャンパスをウロウロしていたら「君、体大きいね。アメフトしない?」と勧誘されて、ルールも知らないのに気がつくと入部していた。日本のほとんどの大学がこんな感じだったと思います。

 

 でも、米国の一流チーム所属のフットボール選手はそうではありません。高校フットボールでの成績を全国の大学がチェックしていて、あらゆる大学からスカウトが来ます。

 そうやって大学に入学すると同時にフットボールチームにも入部します。「どこどこ高校のアイツだ」とチーム内でもウワサになる人や、まだスターじゃない人といろいろです。

 昔から米国ではフットボール選手に限らず、各スポーツの学生アスリートは勉強もしっかりやると聞きます。

 大学の4年間だけでなく大学院に通ったりしっかりとした学位を取る人もいます。中にはフットボールを引退後に博士の資格をいくつも取ったりする秀才もいるようです。

 

 スポーツばかりしてきているので、勉強の得意でない選手もいます。そういう人には勉強が得意な一般学生にアルバイトで勉強を指導させ、テストなどで落第しないように大学が手配してくれる仕組みもあります。

 成績が芳しくないと試合に出られないなどの厳しいルールが存在しますので、学生もチームも必死にならざるを得ません。

 

 そしてもちろん意識の高い人はせっかく良い大学(フットボールが強くNFL選手を輩出しているような大学は大抵が高レベル)に入ったのだから、自分でしっかりと勉強し、将来に備えるようです。これはとても素晴らしいことだと思います。

 

 現在僕は学生アスリートと毎日顔を突き合わせてあーだこーだとフットボールの話ばかりしていますが、彼らは不真面目ではないので授業にもしっかりと出席する努力を欠かしません。

 しかし、勉強を全力でやっているように見える人はあまりいないように感じます。

 

 フットボールにかける情熱、恋愛や遊びにかける情熱。若者のエネルギーは相当なものです。

 そこで僕からの提案なのですが、どうせなら勉強もめちゃくちゃに頑張ってはどうだろうかと思うのです。

 自分自身は先述したように学生時代にほとんど勉強しなかったのですが、せっかく親御さんが払っている高い学費をフットボールとその周辺を経験するためだけに使うのはもったいないと思うのです。

 

 鬼のように体を鍛え練習も一心不乱。チームメートやコーチとのコミュニケーションも納得いくまでとことん突き詰め、恋愛や遊びもエネルギッシュにやり抜き、勉強も同様に徹底的にやり切る。

 僕に毎日叱られている選手たちは「もっと思い切り走れ!」「もっと激しくヒットしろ!」をうんざりするほど聞かされ怒鳴られています。

 大好きなフットボールでも「とにかくもっと思い切りやれ!」なんて言われてしまう始末ですから、嫌いだったり苦手だったりする勉強をとことんやり切れているとは到底思えないのです。

 

 大学の各学部で成績優秀者はほとんどがフットボール部。これが「めちゃくちゃカッコええんやで!」をこれからの「タモン式ランニングバック養成所」の新しいキーワードにしていきたいと思います。

 アホの代表だった僕が超のつく一流大学へ通う皆さんに「しっかり勉強せえ!」とどの口が言うのかと笑われそうですが、つまるところフットボールも僕は3部出身の雑草なのに今じゃチャンピオンシップゲームに出るような選手に偉そうに指導しているのですから、過去の自分がどうなのかなど気にせず、今思っていることをしっかり伝えていきたいと思います。

 

 あ、ちなみに米国では競技人口100万人以上の高校フットボール選手がNCAAの大学でフットボールをする割合は7%弱だそうです。

 そしてその後プロ(NFL)に進める人は2%弱。つまり高校フットボールの選手がNFLに〝就職〟できる確率は0・2%で、500人に一人となります。

 フットボールに夢はありますが「NFLのスターになって太く短く一生分を稼ぐ」という最高の夢を叶えられる人は限りなくゼロに近い数字になっています。

 現実を考えると、しっかり勉強してそれなりのところに就職する準備をしておく必要がありそうです。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

最新記事