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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「仲間がいたから」 1年半ぶりに復帰した日大DL宮川泰介選手

2019.11.18 17:21 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
笑顔で試合前のコイントスに向かう宮川泰介選手(91)=撮影:松嵜未来
笑顔で試合前のコイントスに向かう宮川泰介選手(91)=撮影:松嵜未来

 

 試合開始前のコイントスに向かう、日大の宮川泰介選手は晴れやかな表情をしていた。

 言葉では語り尽くせない思いを胸に、初めて「フェニックス」の副将としてフィールド中央に歩みを進めた。

 

 11月17日、東京・アミノバイタルフィールドで行われた関東大学リーグ1部BIG8の日大―横浜国大は、多くのファンが見守る中でキックオフを迎えた。

 昨年5月の関学大との定期戦で起きた「危険な反則タックル問題」で、タックルをした当事者である宮川選手は、2日前に東京地検立川支部が発表した不起訴処分を受けて、今季初めて試合に出場した。

 

 先発メンバーに名を連ねた「91番」は、守備の第1列のDEとしてフル出場。左右にポジションを変えながら無駄のない動きで相手のボールキャリアを追い、QBのパスには手を上げてボールを叩きにいった。

 

 関東学生連盟からは、チームとともに公式戦への出場を認められていたが、検察の判断が出るまでは試合への出場を自粛していた。

 リーグ戦7試合のうち5試合を消化しての復帰には「全ては自分がしてしまったことなので、たとえ試合に出られなくても、チームのためにプラスになるようなことをしたいと日々思っていた」。

 試合後の記者会見で、宮川選手は言った。

 

 とはいえ、練習とは比べものにならない、試合ならではの緊張感を味わったに違いない。

 試合開始早々に退場となった1年半前の関学大戦以来となる実戦、それも公式戦となれば、充実感は格別だったはずだ。

DEとして1年半ぶりに試合に出場した日大の宮川泰介選手(91)=撮影:松嵜未来
DEとして1年半ぶりに試合に出場した日大の宮川泰介選手(91)=撮影:松嵜未来

 

 試合に出られない間にウエートトレーニングで鍛えた体は、体重が15キロ増えて105キロになっていた。

 「ウエートトレーニングが大好き。試合の当日もやっている」。橋詰功監督の助け船に、重苦しい雰囲気だった記者会見場が少しだけ和んだ。

 

 記者会見の冒頭で、宮川選手はあらためてけがをさせてしまった関学大の選手と家族、そしてアメリカンフットボール関係者に謝罪した。

 「自分がしてしまったことがなくなることはないので、手放しで喜ぶわけにはいかないが、復帰できる環境を作ってくださった方たちには、感謝の気持ちしかない」

 宮川選手は「感謝」という言葉を何度も口にした。奇しくも、関学大との定期戦と同じ会場での復帰にも、特別な感慨はないようだった。

 

 昨年5月22日の東京・日本記者クラブでの記者会見。詰めかけた大勢の報道陣を前に、「自分には、フットボールを続ける資格がない」と言った。

 翻意してチームに戻った最大の理由は「チームを立て直そうとしているチームメートに対して、あまりにも無責任なんじゃないか」という思いからだったという。

 「練習では自分を優先するのではなく、ユニットの下級生であったり同級生もそうだが、チームメートに目を向けてきた」という。

 

 横浜国大との試合中は、幹部としてチームメートの士気を鼓舞した。「周りを見たら絶対に仲間がいる。一つになって戦おう」は、自分を支えてくれた仲間への感謝の気持ちが自然に表れた言葉だった。

チームメートに話しかける宮川泰介選手=撮影:松嵜未来
チームメートに話しかける宮川泰介選手=撮影:松嵜未来

 

 日本記者クラブでの記者会見の3日前。東京都内のホテルで会った宮川選手は憔悴しきっていた。

 事の重大さに頭を抱える一方で、彼には「顔の見えない謝罪は謝罪ではない」という強い思いがあった。

 

 当時二十歳だった大学生は、意を決してカメラの前で自分の言葉で誠心誠意謝罪した。

 どんな理由があっても、絶対にしてはいけない行為だったという自覚はもちろんあり、言い訳は一切しなかった。

 批判を覚悟で公の場に出ることを勧め、背中を押した一人としてその時の宮川選手の姿はとても眩しく見えた。

 

 宮川選手が「フェニックス」の一員として過ごす時間は多くない。だからこそ、大切な仲間と喜びも悲しみも分かち合って、最後は笑顔で終わってほしい。

試合後の記者会見で、橋詰功監督とともに笑顔を見せる宮川泰介選手=撮影:松嵜未来
試合後の記者会見で、橋詰功監督とともに笑顔を見せる宮川泰介選手=撮影:松嵜未来

 

 そういえば、1年半前のアミノバイタルフィールドも、見上げればこの日と同じようにきれいな青空が広がっていた。

 宮川選手の中で止まっていた人生のゲームクロックが、再び動き出した。

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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