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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

努力次第で天才にも勝てる 諦めずに精進せよ

2019.11.14 10:56 中村 多聞 なかむら・たもん
NFLヨーロッパ時代の中村多聞さん=・中村多聞さん提供
NFLヨーロッパ時代の中村多聞さん=中村多聞さん提供

 

 どこの世界にも「天才」と呼ばれる人が存在します。あらゆるスポーツのあらゆる世代、そしてあらゆるレベルに一定数の天才が存在しています。

 彼ら(彼女ら)の中には自分の成功やすごさの理由をきっちりと把握していない場合が多くあります。やってみれば、誰よりも高いレベルで遂行できる。我々普通の人間にとって本当に羨ましい限りです。

 

 しかし僕は現役時代に、この天才たちが必ずしも「勝利者になるとは限らない」ところに目をつけていました。

 別格すぎた米国プロ選手たちには、どうやってもかないませんでしたが、そこはひとまず置いておき、理屈はこうです。

 武道やスポーツには独自のルールがあり「このルールは普通の人間が天才に必ず負けることを防いでくれているのだ」と定義しました。

 ですからルールの中で勝利者になるためには、天才も地道に訓練し練習を重ねないといけなくなっています。

 

 ただ、どんな優れたルールがあろうとも、天才が圧倒的に有利なのはやはり否めません。

 我々普通の人間が天才に勝つには天才が自然にできていることを分析し、切り刻んだり解剖したりと、とにかく観察し研究するのです。

 本物のプロ選手たちが人生を懸けたプレーを、至近距離で数千回以上も生で見た経験から推測し、理屈構築の材料にできるのが僕が他の指導者と大きく違う部分です。

 

 現在はランニングバック(RB)のテクニカル指導者ですので、米国プロの優れたRBの良いプレーをビデオで何度も観察し研究しています。

 テレビ映像からでも、圧力や加減速、狙っている的、フェイントや目線などを含めた一瞬の駆け引きなど学べることがとても多くあります。

 

 「最新のフットボールはどうやって勉強してるの?」なんてよく尋ねられますが、今は昔と違ってネットで好きなだけ動画や文献を見ることができますし、プロの試合もお金さえ払えばオンデマンドで全て視聴できるという勉強し放題な環境があります。

 プロの全力プレーを数プレー見れば、10個でも100個でも指導している選手たちに不足している技術や考え方が湧いてくるので、その練習方法も僕の頭から無限に飛び出します。

 

 僕はこうやって天才やそれに準ずるスーパースターたちから毎日のように理屈を学んでいます。

 ただし、それらを学生やアマチュア選手それぞれに落とし込む作業がとても難しいのは言うまでもありません。

 

 プロのスーパースターを分解し、それぞれの細かい動きの中で彼らはどのようなことを考え、実行して成功するために何をしているかを、小さなことから理屈を交えて練習に組み込み、一つ一つマスターしていかねばなりません。

 天才はこんな難しいことを訓練もせずに頭と体を簡単に動かせるのか……とゲンナリしながらも我々普通の人間は打倒天才を目指し前に進むしかありません。

 

 少しずつ少しずつ天才がやっていることの動体模写をしては失敗。何度も何度も正確にトレースしては失敗し、その繰り返しの先で何度やっても同じ動きができる再現性がようやく身につきます。

 しかし、これを試合で使えるようになるかどうかは別の話なので、能力を発揮するエネルギーや安定した心も求められます。

 天才や恵まれた環境にいる人たちに対抗するには、彼らが考えもしない方法で努力を重ねるしかないのです。

 

 努力しても努力しても成果が手に入らないスポーツは多くありますが、フットボールもその一つでしょう。

 例えば最近ボディーメークといった、ウエートトレーニングなどで体づくりに励み、痩せたり筋肉質な美しい見た目に変化していくのを目指すスポーツがあります。

 これらは自身のカラダの変化が努力に比例しそれがそのまま喜びすなわち「成果」になりますので、モチベーションの維持が初心者にも比較的容易です。

 自分の周りにいる知人や家族には「かっこよくなったね」「綺麗になったね」と褒められ高く評価されますし、何よりも毎日鏡で生まれ変わった自分を見ると今日も頑張ろうとなります。

 試合会場でハードな体当たりで邪魔をしようとする敵も存在しませんし、大会で1位にならなくても「成果」が手に入ります。

 

 その点フットボールは多いチームだと総勢200人、少なければ十数人でそれぞれの役割をこなさなければなりません。

 年に1度だけのシーズンに全てを懸け、試合時間の半分も出場しない場合もある僕らの愛するフットボールは、残念ながら「成果」がコーチやチームメートの働きにかかっています。

 自分が高いレベルで役割を全うしても、試合に勝つという「成果」が作り出せない可能性はいくらでも起こります。

 ラグビーのワールドカップで2位になったイングランドの選手が、銀メダルを喜ばなかったというエピソードをネットのニュースで読みましたが、気持ちは痛いほど分かります。

 

 これも何年か経てば良い思い出になるとは思いますが「勝つことこそ全て」であり、それが成果であると心に決めて競技生活を送っていれば、決勝戦に負けても笑顔で「2位だ、やったぜ!」はかなりの〝大人力〟がなければ不可能です。

 3位決定戦で勝って3位の方が精神的にはなんぼかマシでしょう。

 

 しかし、本気のフットボールを選んでしまったからには1番を目指すしかありませんし、1番が「成果」として自分が喜び満足できる唯一の結果です。

 フットボールは団体競技ではありますが、米国プロでは皆が力を合わせて「わっしょいわっしょい一緒に頑張ろう!」というスポーツでありません。

 この感覚、日本人には理解し難いでしょう。それぞれが個々で役割を全うし、それを監督がうまくチームに仕上げます。

 会話したことのないチームメートがいるのも普通です。誰がちゃんとやっていないとか、自分には関係ありませんとサボるような選手は淘汰されます。

 アマチュアだとどうしてもヘタレが意識の高い選手の邪魔をしますが、プロにはそんな選手は存在しませんし、そもそもそんなヘタレに影響されているようでは上り詰めることはできません。

 

 我々普通の人間は、研究工夫の毎日を送って一心不乱に頑張る自分の姿をチームメートに見せ、ヘタレを意識の高い系に変えてしまうくらいの影響力を持ちたいものです。

 信じられないほど足が速い、力が強い、うまいといった自分より優れた選手は世の中に山ほど存在します。

 しかし、必ず勝ち方はあるのです。天才に見える人にも、あなたの努力次第で必ず勝つことができます。諦めずに努力、精進しましょう。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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