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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「凡事徹底」はインパルスの教え 関大一高の部員が試合後ゴミ拾い

2019.10.10 16:34 生沢 浩 いけざわ・ひろし
Xリーグの試合後、スタンドを掃除するジュニアインパルスの卒団生たち=8月24日、大阪・万博フィールド
競技場のスタンドを掃除するジュニアインパルスの卒団生たち

 

 日本社会人Xリーグの最高峰「X1スーパー」が開幕を迎えた8月24日。パナソニック・インパルスがノジマ相模原ライズに24―0と快勝した試合後の大阪・万博フィールドには、観客が帰った後のスタンドでゴミ拾いをする4人の高校生の姿があった。

 落ちているゴミを見つけては大きな白いビニール袋に入れていく。彼らはインパルスの応援に駆け付けた関大一高アメリカンフットボール部の部員だった。

 当日は70人を超える部員がスタンドに集結したという。熱心に声援を送る姿は会場のインパルスファンと一体感を生み、勝利を後押しした。

 

 自主的にゴミ拾いをしたのは同校1年生の鈴木優浩君、武野公太郎君、2年生の鹿野有護君、友田慶一君だ。

 鈴木君、鹿野君、友田君は2017年に創設されたジュニアインパルスの卒団生、武野君は池田ワイルドボアーズ出身だそうだ。

 

 ゴミ袋は鈴木君が自宅から持ってきたもので、これには「試合後のゴミ拾いは当然するべき」と心に決めていた先輩の鹿野君も「お前、すごいな」と驚いたという。

 

 「(観戦のために)家を出るときからゴミ袋を持参するということは頭に入れていました」と鈴木君は言う。

 「ジュニアインパルスで教わったことです。自分で出したゴミは当然持ち帰るって。そういう話をされていたので、観戦に行くスタンドも掃除しなければいけない、掃除するべきかなと思いました。」

 

 ジュニアインパルスは小、中学生のアメリカンフットボールチームで、3期目を迎える現在の部員は小学生32人、中学生22人。インパルスの練習後に同じグラウンドで練習をするため、自然とインパルス選手との交流も生まれ、指導を受けることもあるようだ。

 ジュニアの活動とバッティングしない限り、ジュニアの選手とその保護者はインパルスの試合に招待され、子どもたちは順番でコイントスに参加する。

 

 鈴木君がジュニアインパルスに在籍していたのは昨年の9月から12月まで。関大一中の2年生の時に、関大一高がクリスマスボウルに出場したことをがきっかけでフットボールに興味を持ち、友人の誘いでジュニアインパルスに2期生として入団した。

 RBとしてプレーした鈴木君は、ジュニアインパルス時代にフットボール以外に道徳的なこともたくさん教わる機会があり、それが今の自分の生活に大きな影響を与えていると言う。

 「当たり前のことを当たり前のようにやる。そして、感謝の気持ちを忘れないということ。フットボールを見たり、プレーしたりできるのは、必ず大人の誰かが考えてくださっているからで、それに感謝しなければいけない。できているかどうかは分からないですけど、普段の生活でも心がけています」

 

 ジュニアインパルスの創設時から監督を務める鹿野英樹氏は、ゴミ拾いの話を試合翌日の朝に息子の有護君から聞き、涙が出るほど感動したそうだ。

 鹿野氏は言う。「1期生も2期生も、ジュニアでの活動期間は長くはないが、それでも

高校でフットボールを続けてくれていることにまず感謝したい。そして、ジュニアで一番伝えたかった文武両立の精神や道徳感を実践して日々の高校生活を頑張ってくれている   ことに感謝します」

 「凡事徹底」という言葉がある。「当たり前のことを徹底的にやる」という意味だが、まさにジュニアインパルスではそれを子どもたちに教えている。

 

 躾の観点からの指導が多いという鹿野監督はこうも言う。「挨拶をする、お礼を言う、話す時は人の目を見る、荷物の整理整頓、靴の並べ方、防具の並べ方、試合中の審判の方へ両手でボールを手渡す、練習グラウンド、ミーティングルームの使用後の掃除や、試合会場でのスタンドの掃除など、どれも当たり前のことなのですが、その当たり前ができる選手が少ない昨今だからこそ、細かいことまで厳しく指導しているつもりです」

 

 ゴミ拾いのエピソードは間もなくインパルスの荒木延祥監督の耳にも入る。

 「我々がジュニアや高校生を指導していると言っていますが、教えられているのは我々だと感じました」と荒木監督は言う。

 「我々はインテグリティー(誠実、真摯、高潔)を大切に活動していますが、彼らこそその模範です。そんな彼らが目指すのが、インパルスの選手であるという(我々の)自覚が必要だとも感じました」

 

 インパルスでは昨秋、所属選手が大麻所持と密輸の疑いで逮捕されるという不祥事があった。

 荒木監督によればこの事件を受けてパナソニックで「インパルス・コンプライアンス委員会」が立ち上がり、原因究明と再発防止に取り組んできたという。

 

 その一環として所属のアメリカ国籍の選手が幅広く日本社会、日本人とのつながりを持つことを目的に、高校生フットボール選手や顧問教師、コーチらと交流を持つことを計画した。

 鹿野監督の息子が関大一高に通っている縁で話がまとまり、現在では所属アメリカ人選手が同校に週に1回指導に行っいる。それが冒頭の開幕戦観戦につながったのだ。

パナソニック・インパルスの試合に駆けつけた関大一高アメリカンフットボール部の生徒たち=8月24日、大阪・万博フィールド
パナソニック・インパルスの試合に駆けつけた関大一高アメリカンフットボール部の生徒たち=8月24日、大阪・万博フィールド

 

 これだけではなく、インパルスは従来から競技人口の拡大とレベル向上のために所属選手による高校、大学へのクリニックや指導を行っている。ジュニアインパルスの活動もフットボールの普及を目的にした活動だ。

 

 「(ジュニアもインパルスも)ともに大切にしていることは部員が『人として成長すること』です。勝つことよりも(優先)です。」と荒木監督は言う。

 「その上で、私がよく伝えるのは『決意を持ち続ける』ということ。スポーツも仕事も勉強も、決意することは簡単でも持ち続けることは極めて難しい。決意を持ち続ける者は必死に努力し続けるプロセスと時に味わう達成感で成長し、己に誇りをもたらす。人としての成長は社会貢献でもありますし、何より愛する部員達の長い人生をより豊かにしてくれると信じています」

 関大一高のフットボール部選手のゴミ拾いのエピソードは、こうしたインパルスのフィロソフィーを表現したものに他ならない。

 

 鈴木君には忘れられない言葉があるという。それは卒団式で巽哲夫ジュニアインパルス代表が言った言葉だ。

 巽氏は「卒団生がインパルスに帰ってくることを心から願っているし、創立時からの夢でもある。でもそれは簡単なことではない。一流の選手である前に一流の人間であることが必要だ」という主旨のことを話したそうだ。それを鈴木君は「約束」ととらえた。

 

 現在関大一高でWRとRBでプレーする鈴木君は「僕の夢はビッグなフットボール選手になることです。そして、いつかXリーグでもプレーしたい」と語る。

 「卒団式で『いつかこのインパルスの門をたたいてくれ』と言われたのをよく覚えています」

 

 インパルスに限らず、フットボールやチアリーディングのジュニアチームを持つXリーグのチームは少なくない。

 それぞれがフィロソフィーをもって競技の普及や競技人口の拡大に努めている。

 時間のかかることだが、フットボールの裾野を広げるには小さな一歩の積み重ねが将来につながる。

 鈴木君がインパルスの一員となる日が来たとき、その積み重ねが一つの成果を生んだことになるのだろう。(生沢 浩)

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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