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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

拒絶反応は上達の妨げ 全てを吸収し知識と経験を増やせ

2019.10.10 15:35 中村 多聞 なかむら・たもん
「拒絶反応」を示さない「タモン式」の門下生たち=写真提供・中村多聞さん
「拒絶反応」を示さない「タモン式」の門下生たち=写真提供・中村多聞さん

 

 ここ数年、指導者として選手たちと対峙していてずっと持っていた違和感があります。

 「なぜだろうな? どうしてだろうな?」と一人で考えたり、コーチ仲間と話し合ったりしてみましたが、解決の糸口が見つからないままでした。

 自分より20歳も30歳も若い人たちだし、ゼネレーションギャップなのかななどといった感じで片付けてしまっていました。

 

 その違和感とは、指導している選手たちが過去に習っていなかったり知らなかったこと(テクニックやスキーム、一般的な礼儀作法など全て)に対して「この世に存在してはいけない考え方」「それは間違ってますよ」という反応を示すのです。特に強い高校でフットボール経験のある選手に多いのです。

 

 そのような反応をせずに、全てを吸収しようとする選手もわずかに存在しています。

 そうした選手にはもちろん情が移りますし、こちらの熱意も受け止めてくれます。頑張ってほしいと心から願いますし、そのような選手に出会えてとても幸福であるとも感じます。しかし、残念ながら多くの選手は鋼鉄の拒絶反応を見せます。

 

 タモンコーチから全てを吸収してから、どれが必要か不必要かゆっくり考えればいいという選手は、僕が何年もかけて得てきた情報をあっという間に吸い取っていきます。

 でも、拒絶反応組は当然何も変わりません。お互いが不愉快で意味の分からない時間を共有するだけで、何の生産性もないのです。

 

 多くの選手たちと出会って、指導する機会の中で、突然この拒絶反応の理由がわかった日があったのです。

 彼らにとっては、競技を始めた当初や過去に習ったフットボールだけがフットボールであり、新しい情報は基本的に遮断するような構造になっていたのです。

 

 その前に僕の指導者としての資質にそもそも信頼度が足りないという問題もあります。

 しかし、多くの選手は僕を招聘している立場で、「ナカムラ・タモン」に教えてもらいたいというキーワードがあるはずなのに、僕の言葉が全く脳みそに突き刺さらないのです。

 熱心に聞いているようにも見えますが、実行するまで進まなかったり、体中から「?????」のオーラが放出されたり、全く無視していたりと、指導する甲斐のない感じになることもしばしばあります。

 

 そもそもスポーツマンには自分で進んで動く者と、強制されないと動かない者の2種類が存在するのは誰でもご存知でしょう。

 教えられたことをマスターするまで、自分で努力できる人ばかりではありません。だから強者と弱者、勝者と敗者がいるわけで、指導されたら全員が恐るべき努力を延々と(映画少林寺のように)繰り返すことはあり得ないでしょう。

 

 まだまだ未成熟な選手なのに、「自分はフットボールの全てを知っているのだと勘違いしている人たちは、どのチームにもいっぱいいてるよ」と、フットボール界に散らばる多くの友人、知人たちから聞いています。

 

 僕が現役選手当時は、チームが変わる毎にフットボールに対する「考え方」や「流派」が違うので「あ、このチームではこのようにフットボールを考えるんだな」「あ、この人はこういう考え方をされているんだな」を繰り返し体験しました。

 その上で、業界に名前が通るほどの活躍ができない未熟者だったせいもあり、全てを素直に受け止めて吸収し知識と経験を増やしていくことこそ僕にとっての「フットボール」でした。

 ですから初めてお会いした方(年上、年下関係なく)からフットボールのお話を伺えば、必ず違った考え方を聞けるのがとても楽しく興味深い時間だったので、拒絶反応など絶対に考えられないわけです。

 

 高校、または大学でフットボールを始めた場合、自分に多くの指導をしてくれたコーチは少なければ一人か二人です。

 その方々の指導や考え方が間違っているのではなく、フットボールはそれだけではないわけです。

 考え方はたくさんあるのです。ましてや初心者の時に習った全てが、トップレベルでそのまま通用するはずがありません。

 少しでも多くの情報を得て選択肢を増やし、自分に最も適合する(だろう)やり方を選択するのです。日本で普通のチームに所属している人は、そうすべきだと思うのです。

 

 その中でも日本のランニングバック(RB)が持つ悩みを長い年月をかけて解消してたどり着いた「タモン式」の考え方は、初めての方には斬新なように聞こえるかもしれませんが、本場米国では超のつく「当たり前」、基本中の基本です。

 みなさんが最初にその基礎、基本を聞き損なっているだけで、今からでも十分に身につけることのできる考え方やテクニックがほとんどです。超人や天才でないと実行不可能な内容ではありません。

 

 しかし、高校や大学で習った1種類か2種類の考え方だけでリーグや試合を支配できるようになるほどの超人や天才は差し当たって指導対象者にはいないような気がするので、拒絶反応を示す方たちは、ぜひその殻を破ってみてはいかがでしょう。

 ただし、長年に渡って強いままのチームがいくつか存在していることも忘れてはなりません。僕の知る限りでは、関西学院大学ファイターズとパナソニック・インパルスです。

 両チームとも外部の者では知り得ない特別な秘密があることは誰が見ても分かります。

 このスペシャルな2チームは成功し続ける方法を編み出し、常にバージョンアップさせながら最強の伝説を作り続けています。

 チームから要求される事項が独特で繊細で最新なのでしょう。ですからこの尊敬すべき2チームの出身者は別格なので例外とさせてください。

 

 僕は教えるのがうまいわけではありません。正しいことを知っていて、それを僕なりに片っ端から唱えているだけなので、学ぶ側が自分で教科書を作るかのようにノートを取って工夫していかないとついて行けません。

 

 教えられたことがイメージ通りにいかなかったら、できるようになるまで自分でコツコツ練習するかどうかが、上達する選手とそうでない選手の分かれ目になるのは、僕も自分でそうしてきたのでハッキリと分かっています。

 うまくなりたい場合は、新しい情報に拒絶反応なんかしていないで、受け入れて挑戦するしか道はありません。

 

 僕の大好きな芸人のテントさんにこんな持ちネタがありました。

 「わからん人ほっときますよ。いちいち説明しませんよ。義務教育やないんやからね」

 まさしくその通りです。コーチがある一定のエネルギーを使用した後は、その選手がどうするかしかないのです。

 

 関わる選手全てに大量の情熱と愛を注ぎ、比較的その人にフィットするような方法を時間をかけて選び出し丁寧に授けても、感度の低い人は簡単にマスターできません。

 同じように新情報で困惑している選手同士が話し合って問題解決に努めようとします。

 それぞれが別のアプローチや違った言葉で指導されていることを知らない上に、理屈が分かっていない者同士で相談し合っても間違った方向にたどり着き、全員が自分から諦めてしまう構図は多々起こっています。

 

 分かりにくいことがあれば、何度でも質問すればいいだけなのですが、ずっとエリート選手だった人は、試合で負ける以外で困ったり行き詰まったりした経験がありません。

 エリートですから過去の指導者もそれほど厳しく細かく指導していません。ですからそもそも他人からゴチャゴチャ言われることにも慣れていないのですね。

 

 しかし、結局のところ指導者や指導内容には合う合わないがありますので、スポーツマンとして成功するには自分に合う指導者と出会わなければいけません。なんてコラムを5年ほど前に書きましたが、いざ指導者になってみるとコーチもそれほど簡単じゃないってことが分かってきました。

 

 習う側にはいろいろな人間がいて、みんながみんなサクッと理解して結果を出すわけではないという悲しい統計も出てしまいました。

 しかし、そんなことにはくじけず、時間とエネルギーを費やしてこれからも楽しんでいったろうと思っています。

 

 シーズンは中盤。2019年度のタモン式門下生の成績はあまり良くありませんが、ここから巻き返しますよ!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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