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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

【編集後記】Vol.298

2019.9.5 10:34 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
2シーズンぶりに秋のリーグ戦に出場する「日大フェニックス」
2シーズンぶりに秋のリーグ戦に出場する「日大フェニックス」

 

 ライバル関学大との定期戦で起きた「危険な反則タックル問題」から1年4カ月。「日大フェニックス」が、2シーズンぶりに秋のリーグ戦に戻ってきます。

 

 関東大学リーグ1部BIG8に所属する日大は9月7日、東京都調布市にあるAGFフィールド(味の素スタジアム西競技場)で青学大との開幕戦に臨みます。

 

 アメリカンフットボールという競技の信頼を揺るがす事態に発展した一連の問題を受け、新体制になった日大の動向には、スポーツファンだけでなく世間の注目が集まります。

 学生日本一に21度輝いた名門チームが、どう変わりどうやって伝統を守っていくのかが焦点です。

 「甲子園ボウル」への出場資格がある1部TOP8復帰が今シーズン最大の目標ですが、勝敗とは別の部分でフェニックスが克服するべき課題は少なくありません。

 

 再出発するチームのイヤーブックの巻頭記事を編集担当者から依頼されたのは5月、日体大との交流戦の時でした。

 取材などで長年フェニックスを見守ってきた一記者としてではなく、一OBの立場で難しいシーズンを迎える現役の学生諸君にエールを送るつもりで書いたのが、今回掲載する記事です。

 「編集後記」としては異例の長文ですが、ご一読ください。

 

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◎「汝、不死鳥たれ!」

 

 1981年。日本大学「フェニックス」は、甲子園ボウル4連覇を目指していた。

 しかし、故篠竹幹夫元監督はこの年を「デスバレー(死の谷)」と表現し、春の新チーム結成時から危機感をあらわにしていた。

 

 有力選手が卒業し、当時5人しかいなかった4年は、主将のTE渋谷光二以外は試合経験に乏しく、下級生の力が必要だった。幸いQBには横瀬輝男(2年)、松岡秀樹(1年)と逸材がそろっていた。

 伝統の「ショットガン攻撃」を支えるOL陣は小粒でも、魂のこもったプレーでバックフィールドを支えていた。

 

 何とか関東を制してたどり着いた第36回甲子園ボウル。

 高校時代にアメリカンフットボール未経験ながら、抜群の運動神経とセンスでリーグ優勝に貢献したスーパーアスリートの松岡か、地味ながら堅実なプレーが持ち味の横瀬か。4年は迷った末、先発QBに横瀬を指名する。篠竹さんも学生の決断を尊重した。

 

 横瀬は期待に応え、宿敵・関西学院大学を相手に5TDパスを記録。トータルで439ヤードを獲得し、大会の最優秀選手に選ばれた。

 

 試合後、篠竹さんは珍しく興奮していた。「勝っても負けても淡々と」をチームのモットーに掲げる指揮官が、年間最優秀選手「チャック・ミルズ杯」に輝いた渋谷主将の労をねぎらう姿に、不覚にも涙した記憶がある。

 「鬼監督」が何より嬉しい、日大らしいチームの勝利だった。

 

 フェニックスは誰もが認める硬派の集団である。どんなにいいプレーをしてもガッツポーズをしない。反則をしない。相手をリスペクトし、常に全力で戦う。

 対戦校は、そうしたストイックな取り組みに没頭するフェニックスを倒すために努力する。そこに、全体の競技レベル向上を促す効果が生まれる。

 

 「犠牲・協同・闘争」をチームの3大精神とし、厳しい練習で学生を精神的、肉体的に追い込む。それに耐えた教え子は、入学時とは見違えるようなたくましい「サムライ」に変貌していく。

 

 しかし、時代の変化はフェニックスにもその在り方に変化を求めた。「その時代の、10年前のやり方で指導している」。学生とのゼネレーションギャップに悩みながら、篠竹さんは独自のチーム作りを模索していたが、1990年度を最後に長い低迷期を迎えた。

 カリスマの晩年は、残念ながら本来の姿からは遠かった。

 

 2017年。フェニックスは27年ぶりに学生王座を奪回した。下級生の活躍で息を吹き返した。

 そんな追い風の中、不幸な出来事は起きた。組織のひずみがもたらしたライバルとの定期戦での〝事件〟で、フェニックスは再び出直しを迫られることになる。

 連覇のかかった2018年は、フェニックスの歴史の中で「空白の1年」として残る。

昨年5月に行われた日大と関学大の定期戦=東京・アミノバイタルフィールド
昨年5月に行われた日大と関学大の定期戦=東京・アミノバイタルフィールド

 

 2019年。立命館大学OBの橋詰功氏を新監督に迎えたフェニックスは、再起を目指して日々鍛練を重ねている。

 

 今季は関東大学リーグ1部BIG8からの再出発。勝利の先に甲子園ボウルはなく、贄田時矢主将をはじめとする4年生諸君の気持ちを思うとあれこれ注文するのは正直つらい。

 

 だが、フェニックスはフェニックスであり続けなければならない。タックルした相手を抱き起こし激励の言葉をかける。フェアプレーとは何かを率先して示す。

 今の日大に求められているのは、そうした高邁な精神ではないだろうか。

 

 OB会の体制も一新。尾立和則会長、大用和宏、関孝英両副会長を中心に、保護者で構成する「櫻親会」と連携して、現役学生を全面的に支援する仕組みが整いつつある。

 

 昨年5月6日以前のフェニックスをすべて否定するのではなく、名門チームが長い時間をかけて積み重ね育んできた良き伝統は、是非とも引き継いでほしいと切に願っている。

 そのためには、オールフェニックスで再建に臨もうではないか。「汝、不死鳥たれ!」―。(宍戸 博昭)

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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