メニュー 閉じる
スポーツ

スポーツ

週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

真剣勝負だけが持つ魅力 望まれるNFL公式戦の日本開催

2019.7.3 10:00 生沢 浩 いけざわ・ひろし
ロンドンで開催された大リーグのレッドソックス戦に先発したヤンキースの田中将大投手(AP=共同)
ロンドンで開催された大リーグのレッドソックス戦に先発したヤンキースの田中将大投手(AP=共同)

 

 大リーグ(MLB)がロンドンで公式戦を行った。MLBにとっては初のヨーロッパ上陸である。ヤンキースの田中将大投手が先発を務めたことでも話題を呼んだ。

 

 これはヨーロッパにマーケットを拡大しようとする大リーグの試みであることは言うまでもない。

 だからこそヤンキース対レッドソックスという黄金カードを用意したのだ。今春に日本でも公式戦(マリナーズ対アスレチックス)が開催されたことは記憶に新しい。もっとも、こちらはイチロー選手の引退興行としての印象が強くなってしまった。

 

 今回の舞台となったイギリスでは野球の認知度は高くない。イギリスの球技といえばサッカーかクリケットだ。

 折しも現在、イングランドとウエールズでクリケットのワールドカップ(W杯)が行われており、言わば大リーグは野球を引っ提げて道場破りを敢行したようなものだ。

 

 さて、「ロンドンゲーム」と言えばNFLでは当地の人気が定着して久しい。

 2007年に初めて公式戦が行われ、今では年間3、4試合のレギュラーシーズンゲームが「輸出」されている。

 チケットは発売から数分で完売すると言われ、毎試合8万人前後の観客を集める盛況ぶりだ。NFLのロンドン進出は大リーグもうらやむ成功例だといえよう。

 

 では、なぜNFLはロンドンっ子たちから認知されるようになったのか。

 やはり、レギュラーシーズンゲームの開催が大きかったのではないだろうか。

 ロンドンでは1990年代にも日本と同様に「アメリカンボウル」シリーズが行われていた。もっと言うなら1991年にはヨーロッパに設立されたプロリーグ‘(ワールドリーグ・オブ・アメリカンフットボール=WLAF)のフランチャイズ(ロンドン・モナークス)まで存在したのだ。

 

 しかし、サッカーが伝統的に人気のあるイギリスで当時はアメリカンフットボールは受け入れられなかった。

 モナークスは活動停止と再開を繰り返した後にチームがなくなり、NFLヨーロッパと名前を変えたWLAFも次第にチームがドイツに集中するようになって2007年に閉鎖した。

 

 それがロンドンゲームの定例化とともに人気獲得に成功したのはレギュラーシーズンの真剣勝負が伝わったからではないだろうか。

 NFL選手の真剣勝負はサッカーのプレミアリーグで目の肥えたイギリス人にも訴えるところがあったに違いない。

 

 NFLではレギュラーシーズンゲームを国外で行うことをタブー視する風潮があった。

 年間で1チームあたり16試合しかない公式戦を一つでも国外に持っていくことなどファンが許さなかったからだ。

 球団オーナーにとっても国外試合は論外だった。絶大な興行収益が見込めるホームゲームを犠牲にするなど、およそビジネスマンが許容できることではない。

 

 それが現在では最大5試合(メキシコ含む)もの国外公式戦が行われるようになった。これにはNFLのプロリーグとしての構造が大きく影響している。

 

 NFLではコミッショナーの権限が強い一方で、全32チームの球団オーナーとの関係も良好だ。

 これは世界中のプロリーグを見ても珍しい。ロンドンゲームは2006年に就任したロジャー・グッデル現コミッショナーの肝入りで実現したが、そこにオーナーの支持があったことは特筆すべきだ。

 

 もっとも、オーナーも見返りなく国外試合に賛成したわけではない。国外にマーケットを拡大することで得られる収益増を見込んでの同意だったのだ。

 ただし、マーケット拡大による成果が出るには時間がかかる。1、2年で結果が得られるはずもなく、それならば貴重なホームゲームを堅持したいと考えるオーナーが多数を占めてもおかしくない。

 そうならなかったのはNFLで早くから「レベニューシェアリング」のシステムが機能していたからだ。

 

 レベニューシェアリングはプロリーグでは珍しくない。MLBも行っている。しかし、NFLはその収益率が大きい。

 例えば2017年のNFLのレベニューシェアリングは1チームあたり2億5500万ドルだった。MLB(昨年の実績で1億1800万ドル)の倍以上だ(注:数字は筆者が参考にしたリポートによる)。

 

 これだけのシェアがあれば、ホームゲーム1試合の収益減はかなりの部分軽減される。

 本来NFLのレベニューシェアリングは、経済的に小さいマーケットの都市に本拠地を置くチームの倒産を防ぐ目的があったが、国外マーケットの拡大にも有利に働いたということができる。

 

 NFLの成功例は当然大リーグも研究しているだろうし、今後もヨーロッパで公式戦を行う計画が立てられることだろう。

 それが人気拡大には有効だからだ。真剣勝負の公式戦ほど最良のコンテンツはない。

 

 それを思うにつけ、日本でもレギュラーシーズンゲームの開催を望む気持ちが強くなる。それが実現すれば日本でもNFL人気が定着するのではないだろうか。

大リーグのヤンキース―レッドソックスが行われたロンドンスタジアム(AP=共同)
大リーグのヤンキース―レッドソックスが行われたロンドンスタジアム(AP=共同)

 

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

最新記事