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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

【編集後記】Vol.288

2019.6.19 14:29 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
自慢のスピードでIBMのディフェンダーを振り切るオービックのWR木下典明選手(18)=東京ドーム
自慢のスピードでIBMのディフェンダーを振り切るオービックのWR木下典明選手(18)=東京ドーム

 

 優秀なWRは決して慌てない。自分の運動能力と技術を信じ、経験に基づいた的確な状況判断と無駄のない動きで淡々と仕事をこなす。

 相手のディフェンダーが誰かもあまり関係ない。ボールを受けた後は、狭いスペースを巧みに使って前に進む。

 

 6月17日、東京ドームで行われた第41回「パールボウル」でIBMに快勝し、3大会連続8度目の優勝を果たしたオービックのWR木下典明選手が、三つのTDパスをキャッチして最優秀選手(MVP)に輝いた。

 36歳。本場のNFLにあと一歩、いやあと半歩まで近づいたベテランが、健在ぶりを示した試合だった。

 

 木下選手といえば、思い出すのは立命大4年だった2004年の関西学生リーグだ。

 リーグ戦で関学大に競り負けた立命大だが、関学大が京大に足をすくわれ1敗で並んだ。優勝の行方はプレーオフに持ち越された。

 

 この試合は、木下選手の独壇場だった。QBのポジションに入るなどして、関学大ディフェンスを翻弄し、ライバルに雪辱する原動力になった。

 甲子園ボウルでも活躍し、年間最優秀選手に贈られる「チャック・ミルズ杯」を受賞。その後は、あふれる才能をひっさげてNFL入りを目指すことになる。

 

 「相手(IBM)のカバレッジを見て、自分に対する意識が薄いように感じた」と木下選手は言った。『なめたらあかんで』。第一人者としての意地があったのかもしれない。

 

 3TDの内容は4ヤード、66ヤード、70ヤード。

 「おじさんでも走れるところを見せたかった」そうで、捕球してからあっという間にトップスピードに乗る圧巻のTDシーンに、夜のドームは大いにわいた。

 

 試合後のインタビュー。チームの若手WRの成長に目を細めながら、語気を強める場面があった。

 「今でもチームで一番足が速いのか?」という問いに「それはまだ負けない。みんなに聞いてもらったら分かると思う」。〝スピードスター〟としてのプライドは当然ある。

 

 6キャッチで170ヤード。文句の付けようのないMVPが悔やんだのが、第1クオーターでの落球だ。

 エンドゾーンで珍しくボールをジャッグルし、パスは失敗に終わった。

 「あれは取らなければいけないボール。3TDしたけれど、あのドロップ(落球)の方が、自分の中では反省として残る」

試合後、記者の質問に答える木下典明選手=東京ドーム
試合後、記者の質問に答える木下典明選手=東京ドーム

 

 今でも40ヤード走は4秒5を切るという。

 衰えを知らないアスリートの極上のプレーと味わいのある言葉を見聞きして、とても得をした気分になった。(編集長・宍戸博昭)

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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