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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

フィールド外の情報も網羅 NFL解説に欠かせない「ネタ帳」

2019.6.12 10:52 生沢 浩 いけざわ・ひろし
NFL選手の細かい情報やリーグの歴史などが書かれた「ネタ帳」は、筆者にとって心強い味方=提供・生沢浩さん
NFL選手の細かい情報やリーグの歴史などが書かれた「ネタ帳」は、筆者にとって心強い味方=提供・生沢浩さん

 

 2年ほど前にもこのコラムで紹介したことがあるが、筆者は調べたNFL情報をノートに書き留め、テレビ解説やコラム執筆のときに参考にする。テレビ解説では必ずスタジオに持ち込む必須アイテムだ。

 

 こうしたノートをつけるようになったのは、アメリカンフットボール専門誌に寄稿を始めた1991年だ。

 最初は走り書きのメモ程度だったが、時間が経つと貴重な資料となることに気づき、形として残るノートに記録するようになった。そのノートはそろそろ30冊になる。

 

 写真でもお分かりいただけるかもしれないが、ノート(筆者は「ネタ帳」と呼んでいる)には多色ボールペンで印がついている。

 これはテレビ解説中に重要なところにすぐ目が行くようにとの工夫だ。赤は最重要項目、青はエピソード的な内容、緑は選手、コーチ名の目印と決めている。

 

 放送では赤印はできるだけ紹介したいデータや事実で、紹介漏れがあると後で後悔することもある。

 青印の情報は点差が開いてしまった試合などで紹介するにはうってつけで、こちらは披露せずに終わることも珍しくない。

 

 年齢とともに選手の名前が口から出にくくなってきているが、そういう時はノートに目を落とし、緑印を探すのだ。

 放送ではのんびりと言葉をつないでいるように聞こえていても、目は必死でノートを追っていたりする。

 

 写真は2009年2月1日にフロリダ州タンパで行われた第43回スーパーボウルのメモだ。

 筆者がテレビで初めて解説したスーパーボウルである。試合用のメモでは左ページにビジターチーム(このスーパーボウルではAFC代表のスティーラーズ)、右ページのホームチーム(カージナルス)の情報を記すのが筆者のルール。

 

 写真の左ページには「Tomlin、36歳、SBで勝てば史上最年少記録」とのメモが赤で囲ってある。

 もちろん、スティーラーズのマイク・トムリンHCのことで、これは放送ではぜひ紹介しなければいけない情報である。

名門スティーラーズを率いるマイク・トムリンHC(AP=共同)
名門スティーラーズを率いるマイク・トムリンHC(AP=共同)

 

 右ページには「NFLのタイトルゲームを経験するのは1948年以来」というカージナルスの情報に青印がついている。

 これも放送では紹介したい情報なのだが、さらにそれがいつで対戦相手がどこなのかという情報まで含めると説明が長くなる可能性がある。だから、「必ず紹介したい」赤印ではなく「時間があれば披露したい」青印なのである。

 

 放送媒体によってメモの使い方が変わる。NHK―BSはテンポよく編集されているため、赤印を中心に紹介するように心がける。

 生中継が多いG+は放送時間が長く、実況アナウンサーとやり取りをする時間的余裕もあるので青印をつけるエピソード系の内容はやや多めに用意をしておく。

 

 CMタイムアウトの多いDAZNはインプレー中にエピソードを挟むようにし、攻守交代時は早めに話を切り上げることにしている。

 そうでないと音声が途中で切れてしまう(業界用語で「こぼれる」と言うらしい)からだ。

 

 3年ほど前のNFLではノーハドルオフェンスが大いに流行った。

 実はこれは解説者泣かせの戦術だった。なぜなら、ハドルが省略されるせいでリプレーが放映されず、前のプレーの説明をする時間がないからだ。

 最近はノーハドルオフェンスは減少傾向にあり、少しだけ胸をなでおろしている。

 

 さて、せっかくなので古いノートをめくり返して見つけたエピソードをいくつか紹介したい。

 2006年第7週のペイトリオッツ@ビルズの試合に向けたメモにあったエピソード。ペイトリオッツのCBアサンテ・サミュエルズは息子のミニチュアフットボールをキャッチする練習を取り入れたところ、インターセプトの数が格段に増えた。そのため、この練習をルーティンワークとした。

 

 第47回スーパーボウル(2013年2月3日、レーベンズ対49ers@ニューオーリンズ)では、49ersのRBフランク・ゴアが子どもの頃に病理読書障害に苦しんでいたというメモがあった。

 知的能力や知覚能力に異常はないのだが、文字の読み書きが困難になる障害だ。

 試合には直接関係のない情報なのでテレビ解説では披露しなかったと思うが、困難を克服したエピソードは選手への親近感を抱くきっかけとなるので、機会があれば紹介したい情報の一つだ。

 

 ご記憶の読者も多いと思うが、第47回スーパーボウルはスーパードーム内の停電で試合が36分も中断した。

 NHK―BSでは万一に備えて用意していたVTRをすべて使い切り、筆者も用意してきた選手のエピソードをこれでもかと紹介したのを覚えている。それができたのもこのノートがあったからだ。

 

 NFLのキャンプインはまだ50日以上先だが、筆者にとってはそろそろオフの情報をまとめ始める時期だ。またノート作りにいそしむ日々が始まる。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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