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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

衰えた「眼力」に不安 今必要なのはコーチとしての充電期間

2019.5.9 11:00 中村 多聞 なかむら・たもん
NFLヨーロッパ時代、ナンバーワンを決める「ワールドボウル」の祝勝会で優勝トロフィーを持つ中村多聞さん
NFLヨーロッパ時代、ナンバーワンを決める「ワールドボウル」の祝勝会で優勝トロフィーを持つ中村多聞さん

 

 本格的なコーチになって4シーズン目を迎た新米コーチの僕ですが、少し前から感じていた悩みというか問題点がハッキリとしてきたので少し書いてみようと思います。

 

 コーチとして僕の特徴は指導者もなし、歴史もなしというゼロの状態から超弱小大学でフットボールを始め、徐々にステップアップして日本代表や海外のプロ経験までしてきたことです。

 その過程でそれぞれのレベルの中で生じた問題に対策を立て、乗り越えてきた創意工夫の内容は、20年以上経った今でも使えるネタが山ほどあります。

 

 3人しか練習に来ない場合でのチーム力アップの方法はもちろん、NFLのトップ選手同士がしのぎを削る時に発生するわずかな力量差の見分け方まで、日本のアメリカンフットボール関係者の中でも、トップクラスの経験を武器に選手として戦ってきました。

 そういったネタを使って現在の選手たちが知らないこと、見ていないこと、できないことを毎日毎日紹介しています。

 

 そのチームや選手にできるだけフィットする方法や鍛え方、考え方を提案し、実行し続けるためにどれだけ根性を要するかを説明します。

 それでも試練の道を選ぶ決心をした人にだけ、僕の持っている知識の全てを情熱的に真剣に注入します。

 

 自分がもしコーチをする時は、自分が選手時代に取り組んでいた地獄の日々を乗り越えられる気合いと時間を費やす覚悟ができた時だと、引退した頃に決めていました。

 いくつかのお誘いを頂いてもお受けしなかったのはそういう理由です。選手時代の僕はある特定のコーチというか人物を除き、ほとんどの指導者を信頼していませんでしたし嫌っていました。

 自分の空いた時間になんとなく手伝いに来て、短時間しかない選手生命を自分の経験値として蓄える行為が許せなかったのです。

 ですから自分が選手の手伝いをする際には、24時間365日を選手の能力向上に使えるような気持ちになれば、と決めていたのです。

 

 つまりは選手時代と同じ温度と熱意で取り組んでいるので、対象となる選手たちは大変です。

 事あるごとに「こんなユルい練習の仕方で日本一になれると思っているのか!」「日本一になるより大切なことがあるならそっちをやれ!」なんてことを、一日に何度も何度も叫んでいます。

 

 重要な試合で高いレベルのフットボールを多くの時間できたチームが勝利するのは当然です。

 そのためには、目指しておくラインはどこにあるのかをキッチリと指導者の僕が把握しておかねばなりません。

 目には見えないラインですから、もちろんチーム関係者の誰にも見えません。しかし、その見えないラインを「ココだ!」と設定し、選手諸君をそこまで引き上げるお手伝いをしているので、僕にとってこの見えないラインはとても重要なのです。

 

 現場に復帰し、最初にXリーグのIBMやノジマ相模原の選手を見たとき、ダメすぎて怒りを通り越し笑いが止まらないほどでした。

 練習や試合ですさまじい活躍を見せても、「それは相手がもっとヘタクソだから、相手がミスをしただけだから、君が良いプレーをしたのではなくたまたま結果が良かっただけだよ。これでは本物になれないんだよ」と厳しく毎プレーにコメントしています。

 

 それは僕の専門であるランニングバック(RB)だけではなく、守備選手やキッキングのスペシャルチームでも同様です。

 日本最高の結果を残したいなら、「普段の練習やトレーニングでそれだけのことができていなくちゃダメなんだよ」と挨拶するかのごとく、常に説明してきました。

 僕の設定した「見えないライン」は自分の中では明確で、彼らは全然到達していないのですから当然です。

 

 しかし、ここ数年でボケ始めたのです。

 毎日の練習の中で学生さん、社会人に関係なくそれぞれのレベルでたまに良いプレーがあったりします。その時に「あ、良いスピードだな」「今のは上手だったな」なんて感じたりすることがあるのです。

 本当にいい場合もあります。それならいいのですが、たいていの場合「見えないライン」から何割も値引いたことによる「OK」であり、決していいわけではないのです。

 後でビデオを見れば明確です。RBが一つのプレーで二つも三つもミスをしているような時でも、現場で見ていれば「おー、上手上手—!」と感じてしまうことがあるのです。

 

 これは完全にボケです。僕の最も大きな武器である経験に則った「眼力」が落ちてきているのです。

 アメリカ人プロ選手の力強く速い動き、その素早い動きの中で繰り広げられる技術の応酬、生活や人生を賭けた真剣勝負、どうやらそれを生で見ていた時から時間が経ちすぎたようです。

 そして毎日ニッポン式のフットボールを見ているので、厳しさが減り〝老化〟してきたのです。これは大問題です。

 

 今年のNFLのシーズン前ぐらいに渡米し、サマーキャンプなどを金網越しにでも見学して「目を肥やす勉強」をするしか、衰えてしまった僕の目と脳を回復させる方法は思いつきません。

 

 とりあえずパスポートの申し込みには行きました。娘たちが大学に通うため、カリフォルニアに家を借りているので、寝泊りはタダですから、あとは飛行機に乗るだけです。

 49ersの公開練習はいつなのか、誰かに調べてもらおーっと。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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